独白・・・昔話でもしようか。
改めて言うまでもないが貴様の母は芸者だった。あやつの親族に軍人もいなかったし、当時の私も生死を彷徨う大怪我を負うような任務を拝命することもなかったから、軍人がいかに危険な職業かあまり理解していないようだった。
貴様が産まれた時は、美味しいものを腹一杯食べ、野山で走り回り元気に育ってほしいとふくふくとした貴様の頬をつつきながら朗らかに語っていたよ。その息子がいつか補給が途絶えた異国の地で飢餓と寒さに喘ぎ血濡れで死ぬ覚悟もせねばならんなどと頭の片隅にもない様子だった。
・・・そうだ。私も覚悟がなかったのだ。本来であればそんな血濡れの未来とついぞ縁などなかっただろう家の女の息子である貴様を私の血の為に早々に戦地に引きずり出す覚悟が。平二のようにはなれなかった。
そんな時に妻と出会った。奴は元々武家だった家の娘で他に良い仲の男がおったが身分違いが為に仲を無理矢理引き裂かれていた。そして内密にしていたが既にその男の子供を身篭っていた。家柄を考えればこの妻であれば腹を痛めた息子を戦場に出すこともある程度覚悟しているだろうと、私は腹の子の存在を知っていることを露とも出さずに何食わぬ顔であやつと結婚し、産まれた息子を軍人である我が子として愛情を注ぎ様々なことを教え育てた。かたやこのまま貴様の母の元へも足繁く通っているといつか諸々がばれてしまいそうだから、貴様とはもう二度と会わないつもりで愛した女の元に置いてきたのだ。
貴様は私からの愛情がないから歪に育ったと思っているようだが私は二人ともに情を抱いていたつもりだ。勇作からしてみればきっと貴様の方にこそ私からの「祝福」を見たはずだ。本当に気づかなかったのか。あやつと貴様の顔はどこも似てなかっただろう?
軍神である自分の一人息子として勇作を愛し育て、血の繋がった唯一の息子としてお前を慈しみ手放したつもりだったよ。