野次が飛ぶ中一人弓を構えたタルタリヤに緊張は見えない。ただ気分がいいように微笑を浮かべて手元の弓を構えていた。「はやく」と外野の声にはいはいと返す声はずいぶん気楽だ。タルタリヤと真反対の壁際に男が立つ。その手には一枚のモラが握られていて、あれが的となるらしい。なんどか手遊びのようにコインをはじいている。
「準備はいいか?」
「いつでもいいよ」
ふふん、と鼻を鳴らして弓を見せ、矢を一つ取り出す。
周囲の熱が上がる。かの執行官の腕前がどれほどのものか見極めようと人の目が集まる。「当たるわけがない」「いいや当たるさ」賭け事を始めるテーブルもあるほどだ。鍾離は一人残された席で酒を飲みながらその様子を眺めていた。
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