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    艾(もぐさ)

    雑多。落書きと作業進捗。

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    艾(もぐさ)

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    雪の日の小狐三日 / 2020.11のピクスク内tkrbオンリーにて展示していた小噺再掲。審神者出てこないけど人柄紹介程度の表現が有ります注意

    #小狐三日
    threeDaysOfLittleFox
    ##刀

    もののあはれをしるものぞその日、本丸には雪が積もっていた。 四季というものは春夏秋冬時の移ろいと共に順繰りに巡っていくものだが、こと本丸においてはそれぞれによって巡りが異なる。
    というのも、いつどうなると分からない自然のままの中に居れば大切な戦力である刀剣男士達の身が病や不調に侵されるリスクが増すからだ。 風邪に夏バテ、眩暈に吐き気。初めて人の身を得た彼らが、そんな身体の齎す不調に付いていけるかなど火を見るより明らかというものだろう。
    それでも心地の好い気温の中だけにいれば今度は送り込まれた先の時代で体がもたないし、ぬくぬくとした環境で温室育ちなどになっては本末転倒だ。気温や環境の変化に肉体を慣らし適応していくことが、本丸でのひとつの仕事とも言える。
    だからこそ、本丸ひとつひとつ、どのように季節を巡らせるかその采配こそ異なれど、審神者が管理しているということは共通の事柄だった。何より畑のために四季の移りというものは必要不可欠だ、とは、この本丸を立ち上げる前には農業に従事していたという審神者の言である。
    その日の本丸の季節は冬だった。
    昨年までは季節を冬に巡らせ雪を降らせてもあまり積もらせるまではしていなかった審神者だが、今年からは積もらせることにしたらしい。霜月も半ばを過ぎ、師走が近づく頃に本格的な冬へと巡った本丸の気候は、そのまま懇々と冷気を深め、ちらりほらりと舞い始めた粉雪は次第に牡丹雪に変わり一年の終わりを迎える時分には庭先を真っ白に染め上げた。
    はあ、と吐く息が白い。もふりと立ち上るそれを見て、そんだけ白けりゃ顔がどこにあるか分からなくなりそうだな、と言われた日の事を思い出し小狐丸は苦笑した。
    庭で、雪にはしゃぐ短刀らを遠巻きに眺めている時の事だった。背筋を這う冷気の心地悪さに唸っていた時に投げられた言葉に、それを言うなら五条の太刀にだろう、と投げやりに返そうとして相手が年若い刀─和泉守であることに気が付く。年長者としての体裁を咄嗟に取り繕おうとした結果、間の抜けてしまった自分の代わりのようにからからと笑って返したのは隣に居た番だった。
    生きているということさ。言って、白く変わるそれを眩しいものを見るように瞳を細め微笑った、欠けた月の名を持つ刀。
    思い返して、本丸の玄関口と居住区を繋ぐ渡り廊下に面した庭の雪化粧を眺めていた小狐丸は、さてとその足を自室へ向けた。
    この雪景色が実のところ、本丸が設けられてから二度巡った冬の中で、戦場で雪山を駆けることはあれど触れ合うことは無かった刀剣たちを慮ってのことだということを小狐丸は知っている。この本丸の主は、審神者としての仕事を一番に考える無骨で口数の少ない老齢に近い男だが、口下手なだけで懐の深くあたたかい人間であった。
    キシりキシり、寒い時期独特の、縮こまった床板が返す固い擦れ音に耳を傾けるのもそこそこに、この先で待っているもののことを想う。丸一日を要する遠征に出た際は、この通路から本丸のささやかな変化を眺めるのがひそかな楽しみなのだが今回ばかりは勝手が違った。

    遠征から帰った時、小狐丸率いる第四部隊を出迎えたのは近侍の山姥切国広だった。
    「報告が済んだら、今日の任務は終わりだ。」
    珍しくも本丸の門まで来たかと思えば、開口一番これである。他の隊員には目もくれず、お帰りでもご苦労でもお疲れでもない、不躾とも取れる物言いに、けれどそうと受け取らなかったのは相手が山姥切であったからだ。常日頃に卑屈な発言が目立つ彼は、それ以上に相手に礼を失する事は無い。
    「何かありましたか。」
    言葉を省くような何かが、と暗に匂わせ訊けば、山姥切はどこか居心地が悪そうに「ああ」と頷き返した。
    「悪いが、あれはもうアンタにしか動かせない。」
    「動かせない?」
    思いがけない言葉に、馬の鞍を外していた手が止まる。力仕事ということは無いだろう。今日の内番がどのように割り振られているかは把握しかねるが、それでも大太刀は全員本丸に残っていた筈だ。それを抜きにしても、力自慢で言えば彼の兄弟たる山伏を筆頭に数多いる。その中で己が指名されるということは稲荷に関わる神霊の類か。だが本丸に同属の気配は微塵も無い。
    「俺達も何とかしようと色々試みはしたんだが」
    「前置きはいりません、あれとは?」
    ここまで来たのだ、火急の事だろうに尚も前置きを続ける山姥切に、このままではいつまでも続きそうだと危惧し口を挟む。
    一体何が。聞くより先に口を開いた山姥切の言葉に、小狐丸は状況に合点がいった。
    「…三日月の奴だ。」

    アンタらの部屋の前の濡れ縁から、庭が見渡せるだろう。今朝からあそこに座って動かないんだ。
    言われた言葉を反芻し、板張りの廊下を急ぐ。
    普段ならば問題は無い。むしろ微笑ましい光景だと皆目を細めるか、来てもこちらへの冷やかしだろう。けれど今はこの気温だ。聞いたところ雪も昨夜更に深みを増したのだという。
    こんな時に何故わざわざ。ただの気まぐれであるならいい、けれど。
    「(もし、何かがあったというのならば)」
    なんの脈絡もなしに突拍子もないことをする相手ではないことは、他でもない自分だからこそよく知っている。ぎり、と知らず歯噛みした奥歯が鳴った。
    常ならば何と思うることは無い道のりも、心持ちのせいか長く感じ煩わしい。それでも己を律し走ることはせず足を運べば、漸く自室手前の最後の曲がり角に差しかかった。ここを曲がれば、自室までは一直線の並びだ。山姥切の話の通りならば三日月の姿もそこにある筈である。
    兎に角部屋に入れてやらねば、と足早に突き当たりを左に曲がる。
    向かいなおった先、けれどそこに思い描いた姿は無く、小狐丸はつい歩みを止めた。
    「三日月殿?」
    呼びかけるが、返るものはない。席を外したかと考えたが、己の全神経がそれを一蹴した。気配は確かに間近にある。あるのに、姿が見当たらないのだ。一体どこに、ときょろり、庭先を見やって、そこに横たわっているものが目の端を掠めた瞬間、小狐丸は考えるよりも早く庭に飛び出した。
    「三日月殿!」
    三日月だ。見紛う筈がない、藍の狩衣と宵闇の濃紺を映しこんだ御髪。それが雪の中に俯せている。顔はこちらを向いているが、左側を雪面に埋めているため彼の特徴でもある少しだけ伸ばされた右の横髪が邪魔をしてその表情は読めない。けれどこの気候だ、決して良い顔色でないことだけは分かった。
    駆け寄ればその目は伏せているのが見えた。倒れたのか、という思考が過りゾッと背筋を冷たいものが伝う。そうであれば一体いつから。山姥切は濡れ縁に座って動かないと言っていなかったか。少なくともこの状態であれば自分を待つということはしないはずだ、それならば或いは。
    「みかづ」
    抱き起こそうと手を伸ばす。するとその体躯に触れる直前、ぱちり、と音がしそうな程しっかり開かれた瞼に手だけでなく体全体がびくりと跳ねた。数瞬前まで伏せていたにも関わらず眠りも酩酊の気配も一切無い瞳に浮かぶのは、出陣の間際に覗き見たのと何ら変わりない下弦の月。どころか、いっそその時よりも冴えているように感じて、小狐丸は伸ばしかけた手を中空に留めたまま何かを否定するように、は、と詰めていた息を吐いた。もふり、白く蒸気が上る。 するとそれに呼応するように、三日月の唇が薄く笑みを象った。その口元の隙間から、微かではあるが白い蒸気がふくりとこぼれる。生きているということさ。言った彼の言葉が脳裏を掠めた。
    「ああ、小狐丸。」
    おかえり。なんて、平時と何ら変わりない調子で続けるものだから。
    今度こそ小狐丸は腹の底からため息をつくと、傍らに蹲る勢いで脱力した。
    「何をしているんですか…」
    彼の声音にも不和は感じられない。そのことに漸く芯から安堵して、それから思い出したように呆れと怒りとがふつふつ湧き上がる。それは何も決して自分の狭量によるものでは無いはずだ。
    「見ての通りだ。お前もやってみるか?」
    「やりません。何故こんな雪の中で、ということです。…何かありましたか。」
    ほけほけと返す其れが誤魔化しでないのは分かって、戸惑いが増す。 こういう時の彼の真意が、単刀直入に聞かないと量れないことは長い付き合いの中で熟知していた。
    「何もないぞ?」
    「たわけ。」
    だからこそ容赦もしない。けろりと返すその頭をスパンと叩けば、三日月はひどいなぁとからから笑った。
    「何もなくあなたがこんな事をするわけがないでしょう。」
    その言葉にぱちり、眸の中の三日月が瞬くのを見て小狐丸は、ああほら、と胸中ひとりごちた。
    彼が何事もなく、こんな―誰かが心配するような事を仕出かすことはまずない。彼は天下五剣一美しく、永く世に在り続けてきた刀だ。だからこそ、自身が大切にされることを無碍にする行動をおいそれとすることはない。あるならそれには、無意識であろうとどこかに必ず理由がある。
    「私にも言えませんか?」
    こう言えば三日月が弱いのを知っていて、最後のダメ押しとばかりに言及を深める。すると三日月は、困ったようにその眉根を下げた。
    「…何もなかったんだ。」
    「ですから、」
    「小狐丸。」
    そうじゃない、と緩く頭を振る。さり、と雪面に押し付けたままの右頬が雪を撫でるのが、どうしてかぬくもりを探しているように見えた。
    「何もなかったからなんだ。」
    は、と呼吸の詰まるような心地を覚える。小狐丸に視線を向けたままの三日月は、それでも瞠目した小狐丸に気付かなかったのか、或いは気付いてもそのままにすることにしたのか。淡々と、ただ事の次第を語り出した。
    「朝、火鉢が消えていて」
    その寒さ故か明け方早くに自然と目が覚め、少しでも暖をと寝返りを打ったところでいつもならば傍らにあるはずのぬくもりが無いことに気付き、小狐丸は遠征だったことを思い出した。それは常からよくあることだ。番となり床を共にしてはいるがその本分は刀剣男士としての役目にあり、任務や遠征による出陣、内番や近侍としての仕事をこなす上で傍らに居ない事などなんら珍しくない。
    だが、今日はそのことで余計に寒さが堪えた。何故かはわからない。それが雪の齎す独特の静けさ故か、冬の朝特有の仄暗さ故か。
    「そのまま起きて朝餉を摂った後は、そこの縁側で庭を眺めていたんだが」
    上掛けも無しに寒い中座り込んでいる三日月を、皆通りすがりに心配したという。その都度、自分でも何と言ったらいいか分からず「小狐丸を待っている」とだけ答えていたんだが。
    言われ、小狐丸は山姥切に急かされた本当の理由が分かった。三日月は時折有無を言わせない、問い質しも受け付けないような空気を纏った返答をすることがある。そしてそういう時は大体梃子でも意志を曲げない。そういう時は小狐丸を筆頭に三日月に近しいもの―三条の面々だったり骨喰だったりが多い―が話をすることが通例になっていた。今回もそのような風体だったのだろう。それに加え小狐丸指名だったから、自然小狐丸待ちとなったわけか。
    それでも雪に突っ伏すまでの経緯が分からず、「それで」と話を促した。
    「雪を眺めていて、…物であった頃を、思い出していた。」
    刀として飾られていた頃の冬の日の記憶、仕舞われていた頃の冬の日の記憶。 深々と降る雪が染め上げる銀世界は、その時代こそ違えど様相はいつの世も然程変わることはない。ああ、あの雪景色は一体いつのことだったか。溢れるのはこの身に刻まれた数多の年代記で、自身の存在の確実性に対しそれはあまりにも不安定だ。
    そんなことを考えている内に、小狐丸の事を再度思い出した。いつの時代も自刃の傍らに逸話として共に語られてきた、己の半身とも呼べる存在。切って離すことなど、到底考えられなくなったのはいつのことだったろう。物語の向こう側、だからこそ何時も共に在った。そうして手を取り合うことが叶ったのは、他でもない本丸に喚ばれそれぞれに肉体を得たからだ。
    会いたい、と思った。自身も彼も今は物ではなく、そして幸いなことにこうして待つことが出来る。それを許されている。
    その内に誰も近くを通らなくなって静かになって、寒さでものの境目が分からなくなり、人の形を取り戻そうとして。
    「雪の上に突っ伏した、と?」
    「そういうことになるな。」
    ほら、何もないだろう?困ったように言う三日月に、小狐丸は頭を抱えたい衝動に駆られた。どうして彼はこう、何の前触れも無く炮烙箱を投げ込んでくるのだろう。それは全然全く何もないとは言わないだろう。少なくとも自分にとってはそうだ。彼の話を聞く限り、それは即ち――
    思ったところで、そうじゃないと頭を振った。今は彼の話が先決だ。
    「…それで、形は取り戻せましたか?」
    「いいや。身体は動かず熱の境も感じられない。まるで鉄に戻ったようだ。」
    三日月がどこか懐かしそうに眼を細めるのを何となしに眺める。そこに複雑な色が乗っている自覚はあった。小鍛治の物語を起源とする小狐丸は、実体こそ刀で在りこそすれ、鉄であるという事の実の感覚を知らない。それは逆もまた然りではあるが、だからこそ互いに、己の『本体』の感覚に言及すると筆舌に尽くし難い心地になってしまうことが多々あった。
    そんな小狐丸に目聡く気付いたのだろう、三日月がくふくふと笑う。それに今度は隠すことなくじとりと睨めつけると、更に笑みを深めながら三日月は「でもな」と続けた。
    「でも?」
    「面白いものだな、小狐丸、お前の顔を見たらあちこちが軋んできた。」
    刀としても、人としても。お前が居るから血が通うのだと、そう言って三日月は微笑む。ものの境はどこにあるのか。分からずとも、互いが傍らに在るならそれだけでいいのだとそう言って。
    彼が笑う度に、はふりはふり、とましろい息が立ち上る。それを生きているから―此処に居るからだと言った彼の心根がただ只管に愛おしくて、小狐丸は露わになったままの彼の左頬をするりと右手で撫ぜた。
    「それは、…いや待て。」
    そこではたり、と違和に気付く。彼の肌としてだけでない、人の肌としてあってはならないだろう強張り。あちこちが軋んで?
    「おぬし凍傷になっておるな!?」
    「はっはっは、素が出ているぞ小狐。」
    ここに辿り着いた時の自身を殴り倒したい。話をするなら部屋に入って暖を取れと。雪の中に横たわらせたまま話し込むなど、誰を相手にしてでも有り得ないと言うのに三日月相手になど。 触るだけで足先までぴんと硬直しているのが分かるほどの身体の強張り具合に、自身の不甲斐なさを呪うと小狐丸は三日月の体をなるべく揺らさないよう細心の注意を払いながら抱き起した。
    「笑い事ではないわこの阿呆、どれだけここに居た!」
    「どれだけだったか…?」
    はて。と口にする三日月の口ぶりがどこか拙い。先程、あちこち軋んできた、と言っていた。とするならば、緊張の糸が緩んで傷みを知覚し意識が飛びかけているということか。
    下手に関節を曲げてダメージを与えるのは良くないと、そのまま抱き上げ立ち上がる。首に回すことも無くだらんと下がったままの腕を見遣れば、籠手に隠れていない肌の部分が色を失っているのが見える。これは室内の暖では追い付かない、薬研の判断を仰ぐしか、と駆け出したところで三日月が口を開いた。
    「ところで小狐丸。」
    「何じゃ!?」
    三日月が舌を噛まないよう少しばかり速度は落としたが、それでも走ることは止めずに飛び乗った濡れ縁をそのまま駆け出す。これ見よがしに『廊下 走るな』の貼り紙が目に入ったが無視した。
    「・・・ねむい」
    「寝るな!!!」
    小狐丸の声に反応してかはたまた廊下を走る足音を聞きつけてか、広間に近づくにつれ何だ何だと仲間が顔を出す。その表情がぎょっとしたものに変わるのを尻目に、小狐丸は三日月の温度を取り戻そうと薬研の名を呼びながら湯殿へと駆けて行った。
    あたたかいなぁ、とこぼした三日月の声は、その耳に届かないままで。
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    艾(もぐさ)

    PAST2019.11.4発行。
    準々決勝後の月島と山口。トスと影山と春についての話。
    カプ要素ないですが、書いてる人間が月影の民なのでアレルギー持ちの方は気を付けてください。

    FINAL1作目公開記念再録。
    と言っても話的には2作目後なのでアニメ派の人にはネタバレです。閲覧は自己責任でどうぞ。

    完売して再版予定もありません。当時手に取ってくださった方ありがとうございました!
    【web再録】春/境「春が終わったら、何になると思う?」



    *  *  *



    春高、準々決勝後。
    鴎台に敗北を喫したその日、民宿に戻ってから夕飯まで自由時間を言い渡されたものの満身創痍の身体に出歩く気力はなく、結局部屋に残ることにした。
    そもそも、まだ高校生の自分には滅多に来れない地だというのに観光なんて浮かれた気持ちは全く起こらず、画面越しに見たことのあるようなする街並みに、ああ実在するんだな、なんて呑気な感想を抱いただけだったのだ。
    それよりも。あの雑踏の中に紛れ込むよりも、早くコートに立ってみたい、だなんて。
    どこかのバレー馬鹿達が乗り移ったような思考に、うげえ、と思わず顔を顰めたのはほんの数日前の事だというのに、何だかもう何週間も経ったような気がしている。それだけ怒涛で、詰まりに詰まった三日間だった。
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    艾(もぐさ)

    PAST第三者視点や写り込み・匂わせ自カプ好きが高じた結果。
    別キャラメインの話に写り込むタイプのくりつるです。
    村雲(&江)+鶴丸。村雲視点&一人称。
    別題:寒がり鶴と、腹痛犬の恩返し。

    この他、創作独自本丸・演練設定捏造など盛り込んでます。
    鶴丸が村雲推し。つまりは本当になんでも許せる人向け。

    ※作中に出てくるメンカラーは三ュのものをお借りしていますが、三ュ本丸の物語は全く関係ない別本丸です。
    【後夜祭/鍵開け】わんだふるアウトサイド ここの鶴丸国永は、寒がりだ。
     とは、俺がこの本丸にやってきて数日経った日、同じ馬当番に当たった日に彼から教えてもらったことだ。
    「鶴の名を冠しておきながらこれじゃあ、格好つかんだろう?」
     内緒だぜ、と少しばかり気恥しそうに言った彼に、じゃあ何で縁もゆかりも無い俺に、と表情─どころか声に─出してしまったところ、彼はさして気にした風もなく「気候から来る腹痛なら気軽に相談してくれよ」と笑った。心から来るものには力になれないかもしれないが、とも。
     それだけで、上手くやっていけそうかも、とお腹の奥底、捻れた痛みが和らいだのを覚えてる。
     実際、彼が寒がりだということを知っている仲間は少なかった。彼と同じ所に長く在ったという刀が幾振りか。察しがよく気付いている風な刀もいたけれど、そういった刀達はわざわざ口や手を出そうとしていないようだった。それは、彼が寒さを凌ぐことに関してとても上手だったからかもしれない。
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    艾(もぐさ)

    PAST第一回綴恋合せ展示用小説。突然ハムスター化した伽と、それについては心配するでもなく一緒にいる鶴の小噺。まだデキてない2人。創作動物審神者がいます&喋ります注意。捏造は言わずもがなです。
    22'3.27 ぷらいべったー初掲

    パスワードは綴恋内スペースに掲載しています。
    【後夜祭/鍵開け】君と食む星 伽羅坊がハムスターになった。
     何故なったのか、と聞かれても分からない。朝起きて、畑当番の用意をして、朝ご飯を食べ、冬でもたくましく芽吹こうとする名も無き雑草たちを間引き土を作り、さて春に向けての苗を──と立ち上がったところで、何やら足袋を引っ張られる感触があるなぁと思ったら足元にハムスターがいた。
     小さくふくよかで、野鼠とするには頼りない焦げ茶のそのかたまりを目にした瞬間、何でこんなところに、と考えるより早く思った。
     あ、伽羅坊だこれ。と。
    「伽羅坊?」
     悩むより聞くのが早い。呼びかければ、ハムスターもとい、伽羅坊は小さく「ぢっ」と鳴いた。ハムスターの基本的な鳴き方自体は鼠と変わらないからこれが普通なんだろうが、すこぶる不機嫌極まりなさそうなそれにくつくつ笑いが込み上げる。見れば、小さな耳の下は微かに赤毛が混じっていた。ああ、やっぱり伽羅坊だ。
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