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    tell_Mab0

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    tell_Mab0

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    企画に参加できて嬉しい
    短い小噺
    ちょっと不安定なVを、受け止める男前W

    キスの日果てなく続く荒野の世界。
    ウルフウッドは砂塵舞う中、バイクを走らせていた。
    サイドカーで呑気に鼻歌を口遊む男を一瞥し、その褐色肌の額に青筋を浮かべる。渇いた喉では声を出すことすら億劫だった。
    「ねぇ、ウルフウッド。」
    サイドカーから覗き込むペリドットの瞳。
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードは歌うように言葉を紡いだ。
    「砂漠での1番の死因を知ってるかい?」
    「…生憎、死因は選べんのや。おどれの死因はワイが決める。」
    「え、僕殺されちゃうの?」
    殺しちゃイヤン、なんて抜かすアホ面のなんと憎たらしいことか。ハンドルを握ってさえいなければ、間違いなくトリガーを引いていただろう。
    首筋を流れる汗がシャツの中へと消える。肌に布地が張り付く感覚は、どうにも好きになれなかった。
    「で、砂漠で1番の死因は何だと思う?」
    「まだ、それ続けるんか。」
    どうやらウルフウッドが何かしら答えない限り、この話題が終わることはないらしい。
    「そんなもん、銃殺、に決まっとるやろ。」
    何もない砂漠に響く、銃声。鉛玉を埋め込まれた死体の山の、なんと多いことか。
    プラントという有限な資源を巡ってか。
    賞金目的か。
    悪党同士の撃ち合いか。
    いつもどこかで、誰かが、その鉛に穿たれる。
    「それは、ノーマンズランドでの話だろう。」
    僕が言ってるのは地球での話さ。
    砂塵を巻き込んだ風がブロンドを揺らし、その汗ばんだ額に影を落としていた。
    「…地球のことをワイが分かるわけないやろ。」
    宇宙のどこかにある青い惑星、地球。
    いくら話を聞いたところで、全く現実味のない話である。なにせ"海"と呼ばれる、惑星を覆うほどの大きな水溜りがあるなどと言われて、誰が信じられるものか。
    そもそと、そんなに水で溢れているならば、干乾びることなどないだろう。
    「ところがね、あるんだよ。地球にも、砂漠が。でも地球には、プラントがない。惑星そのものが資源なんだ。だから、銃撃戦も滅多に起こるものじゃない。…そんななか、砂漠て人々が命を落とす一番の理由は何だと思う?」
    「いい加減、勿体つけるのはやめぇ。おどれが期待しとるような答えは、いくら待っても得られへんで。」
    ウルフウッドは苛立ちを紛らわすように、右手の人差し指でハンドルを叩いた。横にいる男は、全てを見透かしたかのように、その瞳を細めた。
    しょうがないな、と一言置いて。彼の唇がはっきりと言葉を紡いだ。

    「溺死、だよ。」

    空を泳ぐ雲が光を遮り、ヴァッシュの輪郭を曖昧にさせる。
    「でき、し…?」
    「そう、溺死。水に溺れて、呼吸困難になることさ。…砂漠では滅多に雨は降らない。滅多に起こらないことに、人は用心しない。その結果、対策が為されず、滅多にない雨による洪水で死んでしまうんだって。」
    目の前の男を人外じみていると感じるのは、こんなときだ。彼は全ての死を悲しみながら、どこか傍観しているのだ。皆を平等に愛すということは、誰も愛さないと同義なのだ。
    「ノーマンズランドで、たくさんの雨が降ったら…どうなるんだろうね。」
    「…さぁな。」
    ウルフウッドの脳裏に過る、空からの雨粒に歓喜し両手を天に伸ばす人々。その彼等が一瞬で大量の水に飲み込まれてゆく。その光景はやはり、絵空事にしか思えない。
    「ねぇ、ウルフウッド。」
    ヴァッシュの声が、ウルフウッドの思考を引き上げる。

    「人工呼吸、してくれよ。」

    ペリドットの瞳が揺蕩う。茹だった頭の片隅で、冷静な自分がアホかと呆れている。
    「今、雨降ってへんけど。」
    「うん。」
    「おどれも、ワイも、溺れてへんけど。」
    「うん。」
    分かってる、わかってるんだ。と、彼は譫言のようにぽつぽつと繰り返した。
    「けど、分からないんだ。」

    こういうとき、何て言えばいいのか、分からない。

    迷い子のようであった。行く宛を無くした子供のように。ヴァッシュは眉を下げ、薄く開いた唇を戦慄かせる。
    アクセルを踏み込む足を止め、ブレーキをかける。前輪が砂に埋もれ、砂塵が舞った。
    「そういうときはなぁ…。」
    上体を傾け、ヴァッシュの後頭部を片手で引き寄せる。ウルフウッドの額を流れる汗が、ヴァッシュの頬をなぞった。

    「さみしい、って言えばええんや。」

    渇いた唇が重なった。

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