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    3stlo_guri

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    【千ゲ♀】悪役令嬢に転生してしまったゲ

    #千ゲン
    1000Gens

    悪役令嬢に転生してしまったゲ「なろう系って知ってる?」
    「知らない……」

    遠い遠い昔の記憶。心のアルバムに大事にしまい込まれた思い出を掘り返す。たしかあれは石神村に居た頃の話だったなぁ。
    子供達に文字を教えるにあたって、漫画や絵本、小説など物語を使ってみてはどうか。そう提案をしたのは他の誰でもない俺、あさぎりゲンであった。

    勉強するにあたってモチベーション、つまり「知りたい」という気持ちを刺激して持続することは大事なことだ。三日坊主という言葉があるように、最初は意欲があっても続かないことなんていくらでもある。
    別にみんな千空ちゃんみたいに科学ができるようになる必要はないけれど、言葉はそうはいかない。
    この石神村で、文字の教育というコミュニケーションの基盤を作っておくことは最重要ミッションとも言えた。

    ちなみになんで物語を広める案を思いついたかって、俺がマジックの修行をしに海外へ飛び回っていた頃、漫画を読むために日本語を勉強している人が沢山いたからだ。気になる物語の続きを早く読みたい。そういう形で教えれば自発的に無理なく覚えられるんじゃないか。
    いや俺、教師とかじゃないんだけどさぁ。なんて言いながら、羽京ちゃんたちと色々話し合ったわけよ。
    だってテストばっかの勉強なんて、エンタメの世界で生きてきた俺のポリシーに反する。楽しんでなんぼでしょ。

    でも実際、どういう物語を子供達の手に取れるものとして置いておくか、っていうのはかなり難しい話し合いになってしまった。
    変に過激な思考のものは情操教育的によくないし、かと言って良い話すぎても道徳の教科書を読まされてるみたいでつまんないだろう。
    特に難しかったのが、年頃の女の子の好む物語についてだった。なんせ野郎連中で考えていたものだから、スーパーロボとかかっこいい武器で戦うやつとかそんな話ばっかり浮かぶのだ。
    これはこれで面白いんだろうけど、少女漫画みたいにキラキラふわふわの物語が好きな女の子だってもちろんいるだろう。男の子だって読みたいかもしんない。折角なら選べるものは多い方がいい。でもそういうベタなラブストーリーに関しては流石に俺もお手上げだ。
    そんなこんなで、復活者の女の子達に世間話として「石化前は漫画とかどんなやつ読んでた?」なんて聞きこみ調査をしていた。目的を話してしまうと皆取り繕ってしまうから、あくまでも自然に聞きまくった。

    「へぇー○○ちゃんってな○よし派か〜!り○んとかちゃ○は読まなかったの?え?少○ミ?花とゆ○?」

    そしたらめちゃくちゃ出るわ出るわ、リアルなやつが。女の子ってやっぱりおませさんなのかもしれない。レディースコミックってそんな感じなんだ……黒髪のイケメンが出てきて結ばれるだけじゃないんだ……と無駄に知識がついてしまった。
    そんな流れで、冒頭のあの発言に戻る。

    「なろう系って知ってる?」
    「なにそれ?」

    どうやら聞くところによると「なろう系」というやつが当時流行っていたそうだ。
    ベタな話のテンプレがあって、似たような展開の物語が沢山あったという。
    この紋所を目に入れてくる水○黄門みたいに、「アンパンチしか勝たん」ア○パンマンみたいに、髪ゴムを解きながら近づいてきてヤンキーをはっ倒していくヤンク○のように。
    「こうなるだろうな」と分かっていても読みたくなる、いや、分かっているから読みたい話という王道ストーリーを基盤にしたジャンル。それがなろう系だったのだと。(実際にはそう一括りでは言えないらしい。後述の女の子が教えてくれた)

    これを教えてくれたのは内気なタイプの女の子だったのだが、俺はここに思春期の子供の読みたい“何か”がある気がして、踏み込んで聞きたくて色々質問をした。
    女の子は心底言いたくなさそうだったので若干頬を引き攣らせながらも、必死に頼み込む俺にようやく口を開いてくれた。

    「えーっと、話の傾向として、例えばどういうやつがあるのかな?」
    「普通の主人公が異世界で生まれ変わる転生ものとかかな。車にはねられたら異世界に召喚されてたり、トリップしてたりとかそういうのが多かったかな……。」
    「えっ車ではねられるのってスタンダードなの?」
    「ええ、だいたいトラックに轢かれるの。もうびっくりするくらいトラックに轢かれるの。もう死にたくなるくらい嫌なことがあった直後に車に轢かれてしまうの。もっとこうしていればって思いながら死ぬの。だから現世で後悔の多い主人公が多かったかも。何か死にたくなるような出来事があって車に轢かれるのが異世界転生・異世界トリップのスタンダードよ。例外ももちろんあるけど」
    「ろくな事ないじゃん!」
    「ばかね、どん底からスタートするのよ。現世で嫌なこと尽くしだった主人公が、異世界で生まれ変わるの。全く違う世界で幸せを掴み取るサクセスストーリーよ。だいたい物凄い能力を持っていたりするんだけど」
    「なるほどね〜、みんな何者かになりたいんだ。変身願望ってやつ……どうにもならない現実へのストレス発散みたいなもんだったのかな?」

    石の世界では作るのもひと手間いる貴重な紙に、さらさらと聞いた事を書き込んでいく。
    復活者の子達の娯楽とメンタルケア。何も無い世界に復活した絶望を俺はよく知っている。文字の勉強も勿論大切だけど、心の拠り所として、現実逃避ができるこういう物語はオアシスとして必要なのかもしれない。

    「あとざまぁ系とか悪役令嬢モノとかもあったな〜」
    「ちょっと待って何それ」

    バイヤーなワードがまた飛び出したので食いついてしまった。「車にはねられるのがスタンダード」以上の驚きは流石にないと思うけど。

    「ざまぁ系はあれだよ、虐められたり婚約者から浮気されて突き放されたり、誤解されて理不尽にコミュニティから追放された子が、実は喉から手が出るくらい皆が欲しがる能力を持っていたとか、隣国のイケメンに見初められて結婚したとかで「後から後悔しても遅いわ!プギャーーー!!!!!」って高笑いするやつ」
    「怖っ!!!!!!!」
    「聞いたのはキミでしょうが!!」
    「あーーっメンゴメンゴ、なるほど見返してやった系ね……。悪役令嬢モノは何なの?響きから嫌な予感しかしないけど」
    「これも異世界転生の一種みたいなもんだよ。気がついたら、性格の悪い事に評判のあるご令嬢に成り代わってしまっていた、みたいな……。だいたい女の子の転生モノは悪役令嬢か聖女か乙女ゲームの世界に転生しちゃってたとか、なんかそんな感じになるのよ」
    「おとめげーむ」
    「そんな初めて聞きますみたいな顔されると私が居た堪れないわよ!!」

    もうジーマーでその子には悪いけど、全部説明してもらった。
    乙女ゲームは主人公がイケメンと結ばれたり結ばれなかったりする恋愛シミュレーションゲームのことらしい。
    お付き合いするまでの流れをゲームでやるんだけど、一人につき一エンドとは限らない、と。恋愛シミュレーションゲームとうたっているけれど、友情止まりのエンドもある。両思いになっても死別などのバッドエンドとかもある。円満に結ばれるトゥルーエンドを目指して、世の乙女たちは選択肢を間違えないよう、考えながら何回もロードとセーブを繰り返し好感度上げを頑張るのだそうだ。
    乗り越える愛の試練として、主人公とイケメンの恋路を邪魔する女の子とかも出てくるらしくて。
    ファンタジーの世界だと、身分の高い王子様と恋をするのにライバルとしての要素が詰まっているのがずばり悪役令嬢なのだという。

    説明して貰った時に熱弁されたんだけど、悪役令嬢と言ってもあくまでも作品の主人公から見て悪役なんだそうだ。
    好きな男を勝ち取ろうとすれば、皆誰かにとっての悪役になる。悪役令嬢はその象徴みたいなものなのだという。

    「だいたい悪役令嬢って攻略キャラの婚約者だったりすることが多いの。ただの嫌がらせしてくるだけのヘイト集めの子もいるけどね」
    「悪役令嬢と主人公が男の子を取り合って、でも主人公が男の子と結ばれるってことだよね?」
    「そう。だから悪役令嬢は、やり方は良くないけど婚約者にただ自分の方を向いて欲しくて頑張った結果、捨てられちゃう悲劇の女なのよ」
    「バイヤー、泣けてきた」
    「でも『悪役令嬢モノ』の話は悪役令嬢が主人公だから!婚約解消されて左遷されたり、領地取られたり没落貴族になったり失脚したりした後からが本番なのね。そこからコツコツ頑張ってざまぁ系みたいに見返せる女になる話とか、婚約解消して貰って逆にせいせいした!って自分の生き方を楽しむ令嬢もいる。隣国に追放されて隣国の王子と結婚してしまう話もあるし。この辺は好みの問題かもしんない」
    「なるほどねーー」


    なろう系の知識を詰め込みすぎた俺は翌日知恵熱を出した。男の子向けの話も同時に考えてたもんだから、転生してスライムになる夢を見たってその子に言ったら「きみはセンスがある」と何故だか褒められた。

    でもその協力のおかげもあって、ラインナップは相当豊かになった。ざまぁ系とかは流石にスターティングメンバーには入れられなかったけど……。彼女だけでなく他の子達の好みも聞きながら、紆余曲折あったものの、本当に目を見張るほどの沢山の物語が石神村の本棚に並ぶこととなったのであった――――





    「――――っていうのが俺の前世の話なんだけど」
    「知りませんよそんなこと。頭打ったんですか?」

    だ・よ・ね〜〜〜!

    石化の謎に迫り、問題が解決したあとも外交官みたいなマネをして西へ東へ奔走していたはずのあさぎりゲン。
    俺は今、洋風の庭園が辺り一面に広がる薔薇に囲まれた我が家のテラスで優雅にお茶会をしている。内臓が絞り出されそうなコルセットを着けて、ゴイスー派手なドレスに身を包んで。
    なんと俺は頭のてっぺんから足の爪先まで美しく手入れされ、紛うことなきご令嬢に転生していた。もはやあさぎりゲンでもない。エミリナちゃんという名前になってしまっていた。
    透き通ったチャコールの髪が、綺麗に縦ロールなのはまさしく地毛である。
    どれだけストレートにしたくて整えても、形状記憶でもしてるのかってくらい言うことを聞いてくれない。俺の顔の横にはいつもドリルが鎮座していると言っても過言ではない。

    隣でお付のメイドちゃんは、俺が……いやエミリナとしての俺が小さい頃からずっと世話を焼いてくれている。だけど、何せ前世の記憶があることを話しても信じてはくれない。そりゃそうだ。俺だってそんなこと言われたら信じないと思う。
    なんせゴイスー引かれたのでそれがトラウマになり、この子以外にあさぎりゲンの話をするのはもうやめることにした。理解してもらうことを辞めたのだ。
    メイドちゃんはなんだかんだ俺の前世ストーリーを話半分に聞いてくれる。ゴイスー可愛いけど「お嬢様……私しかいないとはいえ“俺”とか言うのやめてもらっていいですか?教育係に言わなきゃいけなくなるので」なんて塩対応を食らって泣きそうにもなるけど。
    ご令嬢とは、メイドとは。しっかりしてくださいと尻を叩かれているのは俺の方である。
    かれこれ十数年この姿で生きてきたのに、心はどう足掻いても「あさぎりゲン」のままなのだ。これが非常に厄介だった。未だに「あ、そういや俺、今はおちんちんないんだった」とか思う。記憶持ちで生まれ変わりたくなかったとつくづく思う。

    エミリナ嬢、十八歳にして処女。世間的にはもう一家の繁栄のために政治利用されて結婚していてもおかしくない歳だ。俺にあてがわれた相手が年下の男だったから、婚姻できる歳になるまでは伸び伸びと自分のしたいことをさせてもらって過ごしているわけだ。
    ぶつぶつ言いながらも令嬢ナイズドされた俺はカップとソーサーを丁寧に持ちアールグレイを嗜んでいた。自分で言うのもなんだが本当に洗練された所作であると思う。これでも令嬢の中の令嬢、トップオブ令嬢に君臨している。メイドちゃんはたまに「頑張ればちゃんとできるんですからいつも頑張って」と棒読みで応援してくれるので、メイドちゃんの飴と鞭を糧に頑張ろうと思う。

    「おいエミリ、ちーっと手伝え」
    「う゛っ」

    イングリッシュローズが咲き乱れる庭影から、呆れるほど見飽きた人物が姿を現す。ツンと尖った髪の毛。ぶっきらぼうで生意気な話し方。手には何かの設計図。そりゃもう見飽きたのよ。だって俺があさぎりゲンだった頃からずーーっとそばに居て――――愛した人だったんだから。

    「またサボってんのか」
    「やだわ、サボってなんて……お仕事を持って来るのはあなたぐらいだわ。こうやってお淑やかに、花のように笑っていることが令嬢の仕事ですので」
    「へーへー、毎日毎日メイドと仲良くティーパーティーしてんのか、よく飽きねぇな。好きなら別に構わねぇが」
    「他の家の子とお茶会させてくんない本人が言う……!?」
    「お嬢様も私相手に退屈してきたところでございましょう。センクウ様と、どうぞお二人でお楽しみ下さいませ」
    「いやーーっメイドちゃん待って……!」
    「あとは若いお二人で……」
    「こら!メイドちゃんも同い年でしょーーー!」

    そそくさとメイドちゃんは立ち去ってしまった。
    それもそのはず、何を隠そう目の前の男はこの国の王子様――――俺の婚約相手である。名前はセンクウ。白菜みたいな頭に意志の強い眼差し、生粋の科学好きという所まで完璧に誰かさんにそっくりなのだ。
    こんなの絶対千空ちゃんじゃん!!と思うものの、彼は全く前世の記憶がある素振りなど見せない。いや前世などまるで存在しないのだ。彼にとっては。

    びっくりするくらい、俺と違ってこの時代を生きている普通の人だった。ああこの人は間違いなく千空ちゃんの生まれ変わりだろうと心が叫ぶのに、彼はどうやっても千空ちゃんではなかったのだ。
    彼を見てまた会えたと喜んだのも束の間、それがとてつもなく俺に深い傷を与えたのは言うまでもない。
    言ってしまおう。俺は千空ちゃんにずっと拗らせた片想いをしていた。墓まで持っていった。あさぎりゲンとしての天寿を全うしたあの日、やっとこれで楽になれると思ったはずだったのに。
    いや、一緒に地獄に堕ちようって言ったじゃん。
    なんで俺だけ?

    ようこそ生き地獄。石神千空がいないこの世界で、それでも彼を忘れさせてくれないなんて。

    「……おい、聞いてんのか?」
    「あ……ごめんなさい、もう一度話して下さらないかしら……」
    「これを一マスずつ漏れがないように記入して欲しいんだが」
    「ああ……」

    ドイヒーなところまでそっくりだ。
    あーあ。また傷ついた。目の前の彼は何も悪くないのに。


    続かない!
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