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    【千ゲ♀】悪役令嬢に転生してしまったゲ

    #千ゲン
    1000Gens

    悪役令嬢に転生してしまったゲずるずると引きずられて王子の部屋に連れてこられて、豪華なソファーで俺がしょぼんとしながら作業をしていると、王子が隣に座った。
    隣で機密文書に目を通して何やら判子を押していたけど、それ国のやつだよね?その判子ひとつで国が動くやつだよね!?いくら婚約者とはいえいいの?警戒心無さすぎない?そんなに気を許してる俺だって裏切るかもしんないのに……って

    「あ、」
    「?」
    「この誓約書、やらしいなぁ……こっちにメリットあるような書き方してるけど、怪しくない?」
    「どこだ?」
    「ここ」

    センクウ王子が俺に身を寄せてくる。自然と鼓動が高鳴るのを心の中でゆっくり沈めながら、俺は説明を続けた。
    センクウ王子……いや、心の中ではセンクウちゃんと呼んでいるが、彼は俺の知ってる千空ちゃんよりももっとハードワーカーで、慢性的な寝不足に陥っていた。

    国王であるビャクヤ様は星空にロマンを抱いている。息子のセンクウちゃんもまた然り。科学王国と称されるこの国は国家プロジェクトとしてロケットの制作に取り掛かっていたり、国王自ら宇宙に行きたいと言っていたりで色々と忙しいようだ。
    それの補佐として、次期国王候補としてセンクウちゃんはその頭脳を遺憾無く発揮しているのだけど、国政に関してはこの通り隙がありすぎる。

    ロケットが作れる科学力を持つ国というのは、それだけ飛距離のあるものを生み出せることからも分かるように色々な意味で脅威だ。協定を組んで上手く取り入ろうとする国もあれば、罠をしくんで国力を削ごうとする国だってある。もちろん国内にもこの力を牛耳りたい人間はいる。
    他に兄弟もいなくて争う相手がいないこと、そしてこれほどの科学力を持っているのはセンクウ王子くらいなもので、彼を殺せば甘い蜜を啜れなくなるのはみんな分かっているのか、命を狙われていないのは本当に幸いだったけれど。そのぶん彼らを自分の思うよう転がす為にあの手この手を使ってきて、やり口が巧妙で悪質である。

    彼もビャクヤも間違いなく賢いけれど、隙はあるし身内には甘い。甘いから搾取されてしまうし、頼まれたら頑張っちゃうし、その辺の悪意にはてんで鈍い。手を貸してちょっと損したって「自分達がやりたいと思って決めたことだから」と許してしまうし。
    根っからの善人だから上手くいっていることもあるにはあるけれど、センクウちゃんが疲れてるときを狙って、たまにこちらが割を食うような条件を提示してくる輩がいるのも事実。だから俺はたまにこうして釘を刺す。センクウちゃんに自分の疲れを自覚させ、休ませるためにもね。
    センクウちゃんは文面を読み直して、はぁっと溜息をついた。

    「もう少しで公印押しちまうところだったわ」
    「気をつけてくださいね〜、いつも傍に誰かいるわけじゃないんですから」
    「仮眠取る」
    「それがいいかと」

    やれやれとドイヒー作業に戻ろうとしたら、センクウちゃんがぼふんと俺の膝に頭を置いてきた。あ〜らら〜、甘えんぼ!相手は王子なので今の身分じゃそんなこと言えないけどさ〜!好きな人間と同じ顔してこんなことされたら俺困るんだって!

    「せ、センクウ様?お部屋で休まれたほうが」
    「ぁ?ここでいいだろ」
    「やーでも、ふかふかのベッドのほうが膝よりもよく眠れるし……」
    「テメーが一緒に添い寝でもしてくれるなら考えなくもない」
    「そんな誘い方を教えたのは誰かな〜!行かない行かない!」
    「チッ……テメー断るの何回目だ……?別にふざけて言ってるわけじゃねぇし、遊びでもねぇし、婚約する前にこうやって会って触れ合ってる延長線上のこと頼んでるだけなのになんでダメなんだ」

    俺の心臓がもたないからだよ。
    とは言えず、やんわりと、のらりくらりと大人になったらね〜とかわしてしまう。

    「エロいことしねーよ」
    「わざわざ言うのはやりますって言ってるようなものだよ」
    「そもそも最近他人行儀すぎねぇか?昔は普通に喋ってたろ、なんだそのちょっと距離置いた喋り方」
    「婚約相手に決まってから花嫁修業って言われて色々扱かれてて。家庭教師の方からも言葉遣いも気をつけなさいって言われてるし」
    「人目があったらそうなるのは百歩譲ってまだ分かるが。俺と二人の時は別にいいだろ。俺が普通に話せって言ってんだから」
    「んも〜……」
    「あと今作業はいいから俺の相手してくれ。テメーが寝かしつけねぇならずっと喋るぞ」
    「ああもう、分かったから!」

    作業の手を止めて、膝に乗っているセンクウちゃんの頭をなでなですると、彼はやっと満足気な顔をして目を閉じ、秒で寝息が聞こえた。
    かわいい!かわいいかわいいかわいい!!
    と、にやけてしまう頬をきゅっと引き締めながら、端正な顔が気を許してあどけない寝顔を見せているのを眺めた。

    千空ちゃんじゃない。分かっている。
    俺もあさぎりゲンじゃない。
    母親である王妃様がもういないから母性に飢えてるだけなんだって分かってはいるんだけど、前世で後悔しまくった結果の生き地獄で、愛した人そっくりの彼の傍にいられることが嬉しい。全てまっさらにスタートしようとして、愚かな俺はまた彼に恋をした。浅はかだと思うのに、また愛せて嬉しい。ここまでそっくりだと嫌でも思い出すから胸が痛まないかと言ったら嘘になるけど、少なからず今の俺は彼に癒されている。

    何の葛藤もなく愛せたらと思うことはあるけれど、葛藤するから人は醜くて、おもしろくて、美しいのだ。
    一度死んだ俺は、生を鮮やかに感じたことがある。
    死ぬ間際とてつもない恐怖を覚えたことを覚えている。このまま何も感じなくなるのかって思った時に、今俺は生きてるんだ、と思った。
    死ねば何に悩む必要もなくなるけれど、それは心が無くなるということだ。全ての葛藤が無に帰すと同時に、情熱を注いでここまで生きてきた全てが無に帰る。
    どうしようもないことに悩めるのが、生きているということ。何かを見て感じることが出来るのが、生きてるということ。不完全な人間なりに最善を尽くそうと、答えを求めて命を燃やせること自体が、生きてるってことだったのだ。
    だから生まれ変わって記憶があった俺は絶望すると同時に、まだ俺の旅は続いているんだと安堵もしたし、そんなことをあさぎりゲンは晩年に思ったからこそ、生まれ変わってからのちぐはぐで愚かな自分も愛せた。

    もうセンクウちゃんに関わってしまった以上は他人事ではないのだ。ましてや婚約者なんて尚のこと他人事じゃない!
    だからむしろ記憶を持っていてよかったとも思う。メンタリストとしてのスキルをいかんなく発揮して、こうして彼の助けができるのだから。記憶をなくしてまっさらでやり直していたらこうはならなかった。彼を守る力もなかっただろうし、守られるばかりでむしろお荷物だったかも。この世界で政の道具にされる令嬢のエミリナ(俺)は、ただただお飾りの王妃としてセンクウちゃんの横に添えられて、謀りごとの前には悲しいほど無力だっただろう。そうはいかない。また生まれ落ちた以上は、この生きる苦さも糧にして彼を守りたい。

    「きみには何の心配もさせない。政治的な諍いなんて無縁で突き進めるように、俺が守るよ」

    ぷぅぷぅと寝息を立てているセンクウちゃんのおでこを撫でる。もうこの世界にも慣れた。
    ……それでも、それでもだ。

    やっぱりあのヒビはあった方がかっこいいな。
    なーんて、俺は懐かしい思い出の跡をなぞった。




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