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    【千ゲ♀】悪役令嬢に転生してしまったゲ③

    #千ゲン
    1000Gens

    悪役令嬢に転生してしまったゲ「最近、魔物の出現率が上がっているんだ。討伐隊を向かわせても中々成果が上がってこない」

    いつものごとくセンクウちゃんの公務室でドイヒー作業を手伝っていた俺は、ビャクヤ様が入ってきて身を硬くした。いくら優しい人だと知っていても深く面識があったわけではないし、国王陛下なのでさすがに緊張はする。そんな中で発されたこの言葉をきいて、さっきまでリラックスしていたセンクウちゃんもぴりっとした空気を纏い耳を傾けていた。

    ロケット事業も進んではいるが、それより俺達にとって問題なのは古くから存在する魔物たちの存在だった。世界が神秘の保存より謎の究明、すなわち魔法より科学を優先するようになってからは魔物の数は激減したと聞いているけれど、増えているということは闇属性の魔法を使う人間がまだどこかにいるということだ。

    昔はみんな魔法が使えた、なんてゴイスーだよね。
    元々魔法の種類は五つの自然(火・水・木・金・土)に属する魔法、そして光魔法と闇魔法の七つであったと聞いている。
    昔は魔物にも光以外の六つの属性があったらしい。けれど、科学によって世界を解明していくほどに世界の神秘が薄れた。
    世界の謎が解明されたことで自然の中の「不思議」が消えていったと言ってもいい。
    自然系の魔法の衰退と共に、その系統の魔物たちも消えていった。炎の色が変わっても神秘の力ではなく炎色反応。と説明できる世界になったということだ。
    そんなわけで、光魔法で魔物となることはまぁないから、実質今出現する「魔物」は闇属性でほぼ確定というわけだ。そして魔法を使えるこの世界の人間もまた、闇と光に限定される。昔はみんな魔法が使えたと過去形で言ったけれど、それは今殆どの人が使えないから。元々闇魔法も光魔法も珍しい属性だったのだ。そりゃそうだよねぇ、響きだけで特別感あるもん。
    ま、簡単に言えばこの世界の人間は大半が普通の人だということだ。もうひとつ「特殊魔法」を使える人間がいると言われているが、それは特例中の特例だ。神秘が暴き尽くされた世界における妖精と同じくらいレアな存在なのである。

    魔物を生み出すのは、闇属性の人間だけ。
    だからといって、別に属性を持っていても「生まれ落ちた際に持っていたもの」だから咎められることはない。
    いや、元々は咎められていたんだろう。しかし闇魔法がどういう人間に発現し、どうして発動するのか、色々わかっていくうちに何百年もかけて世界の価値観が変わっていったらしい。
    彼らは自分の感情に落とし所を見つけるのが苦手だという特徴がある。それ故に行き場のない負の感情が溜まりやすく、溜まれば魔物を生み出す。本人が望んでいようといまいと関係なくそうなってしまう。属性持ちの人間が一番苦しんでいるから、彼らの生を咎めるのはやめようと誰かが言い出して、世界は変わった。

    まぁ、そんなのは建前だろう。今はもうその価値観が浸透しているし平和になったからこそ、本気でそう思っている人達が大半だろうけど……。当時は彼らを責めたら責めるだけ魔物が増えるからやめたんじゃないかと俺は予想している。
    それに魔物がいるということは現状に不満を抱えた民が存在するということだ。保護して話を聞けば、不正の発覚に繋がることもあれば市政の改善に繋がることもある。

    どちらにせよ、国内の魔物が増えたということは国の中に闇属性の魔法を使う人間がいるということだ。それをセンクウちゃんに話したということは――――

    「センクウ。これから聖女様の召喚を行う。大聖堂まで来てくれ」

    (やっぱり!)

    世界が脅かされそうになったとき、この世界の人々は「聖女様」を召喚するというきまりがあった。
    昔むかし、石神村で悪役令嬢モノとは何たるかを教えてもらった時に聞いたことがある展開そのままで震え上がってしまう。
    聖女様は浄化魔法や光魔法など、その世界における特殊な能力が使えて、この世を治世へと導いてくれるのだそうだ。
    神もいなけりゃ救世主もいない世界で、自分達であの絶望的な状態だった世界を復興させて生涯を終えたあさぎりゲンとしての俺は「本当かなぁ」と思ってしまうけれど、この世界の人達はそれを信じていた。魔法なんてものがあるのだから、これもまぁこの世界における真実なんだろう。

    「わかった、今行く」

    センクウちゃんは直ぐに身なりを整えて国王陛下について行こうとして――――こちらを振り返った。

    「一生にあるかないかのことだ、見に来るか?貴族の人間だの国の重鎮ばっかりだろうが、テメーならついて来ても問題ないだろ」
    「え、いいの?そりゃ気になるよね〜聖女様だもん」
    「ククク、つっても俺ら世代が産まれる前はほぼ魔物も出てなかったらしいからな、久しぶりでビャクヤのヤロー失敗するかもしんねぇぞ」
    「そんな縁起でもない……」

    俺らが大聖堂に着くと、殆どの人達はすでに集まっていたようだった。センクウちゃんの横で肩身狭そうにちょこんと座り、召喚用の魔法陣を眺めた。ああ、いかにもそれっぽい。

    「それでは今より召喚の儀を始める。再び乱れた世界の秩序を取り戻すために」

    ビャクヤ様が呪文を唱える。魔法陣の周りが紫色にに光り輝いた。幻想的な光景に皆が見蕩れているようだったが、俺だけは何故かあの妖しげな光に心がざわついた。生理的な嫌悪感と危機感。それらがぐるぐると混ざっていって、自分に迫ってくるような。

    あれは駄目だ。
    ――――あれだけは、駄目な気がする。

    止めようと思ってももう遅い。周りはあの光に取り憑かれたように魔法陣を見つめていて、慌ててセンクウちゃんを見たけれど彼も初めて見る召喚に吸い寄せられていた。

    「だめ、見ちゃだめだ、センクウちゃん……!」

    その瞬間、魔法陣に稲妻が落ちる。
    こんな近くで稲妻が落ちることなんて滅多にない。皆が慌てて目を瞑っただろう。大聖堂が白煙に包まれて辺りがしずまったころ、俺はようやく恐る恐る瞼を開いて――――絶句した。


    「え〜〜…………っと、何コレ?」
    「みんな!聖女様の召喚に成功したぞ!!!」
    「ええ……??」

    見覚えのある姿。
    前世のころ、鏡の前で何度も何度も見た姿。
    魔法陣の中心に立っていたのは紛れもなく、“あさぎりゲン”だったのだ。

    「はぁ!?!?」

    俺がうっかり大きな声で叫んだがばかりに、聖女のあさぎりゲンはこちらを見て、いや俺じゃない、見ていたのは隣の。

    「あれ、千空ちゃんじゃん!何その格好、コスプレ?」
    「は?テメー……」

    ルックスは思い切り俺なんだけど、声は少女のそれだ。身長も少し低く、石神村で過ごしたあの格好そのままの聖女様。突然名前を呼ばれて目を白黒させるセンクウ王子。周りもざわついている。魔法陣の中にいる彼女は何か変なことを言ってしまったのかと慌てて「いや〜メンゴメンゴ!これでも見て許してよ!」と言った。言った瞬間、皆のポケットからイヌホオズキの花が飛び出してくる。

    「わぁぁっ!!」
    「なんちゃって」

    突然花が消えてしまった。

    「なっ……」
    「すごい、もしかしてこれって幻術魔法……!?」

    俺はみるみるうちに表情を強ばらせた。
    特例中の特例。光魔法と闇魔法より貴重だとされる魔法。幻術魔法の使い手。
    人はそれを――――“幻(ゲン)”と呼ぶ。

    「テメー、“ゲン”だな……?」
    「え?あぁ、うん、そうだけど……」

    センクウちゃんの口から「ゲン」という名が零れ落ちた。心にぴしりとヒビが入った音がした。

    “その名前で呼ばれるのは俺だったのに。”

    (やめて……)

    「ゲンだ!ゲンがいるぞ!」
    「本当に聖女様だ!」
    「聖女様ばんざーーい!!!」

    (やめて!!!)

    割れんばかりの歓声が起きて、めりめりと心を折っていく。召喚された幻(ゲン)は、何が何だかわからないのにへらりと笑って、なんで名前分かっちゃったの?ゴイスー!と笑っていた。

    浅はかだった。地獄を甘く見ていた。というか、センクウちゃんの婚約者として収まっていたんだからほぼ天国だったのだ。
    これから俺は、今日まで全然地獄なんかじゃなかったんだと思い知ることになる。
    ……ここからが本当の生き地獄の始まりだったのだ。




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