彼の宝石 赤葦京治という男はとても美しかった。見た目にしても、中身にしても、どこをとっても美しかった。余計な物が何も無い綺麗な身体付きに、短いながらもふわふわとしていて艶やかな美しい黒髪。キリッとした目の奥にあるのはエメラルドグリーンの透き通った瞳。そして彼の右手には、大きな緑色の宝石がキラキラと光り輝いているのだ。
美しいながらも何も寄せつけないような気高い表情。彼は正しく【宝石】のような男だった。
部活が終わり、練習着から制服に着替える。Tシャツを脱ぐ彼の動作も、シャツに袖を通すそのちょっとした仕草でさえも、どうしようもなく美しい。
もし彼を自分のものにできたなら――。
「……あかーし!帰ろ!」
「うるさいです聞こえているので叫ばないでください木兎さん。」
「ごめん!」
「別にいいですけど。お疲れ様でした、お先失礼します。」
「また明日なー!」
「木兎さん前見て歩いてください危ないです。」
――なんてことを考える隙を、彼が与えるはずがない。
こちらを見つめたその金色の目は、完全に捕食者のそれであった。
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木兎光太郎という男はまるで無邪気な子供のようであった。バレーのプレイスタイルも、普段の言動も。無邪気であり無垢であり、何色にも染っていないような、自分の世界があるような男だ。
そして、彼は【コレクター】と呼ばれる性を持つ人間だった。彼は1人の宝石を幼い頃からずっと愛してきた。
「あかーし、今日のプレイさ、ちょっとどうかと思うんだけど。」
「……。」
「あのトスの上げ方さ、見てて怖かったんだけど?」
「……すみません。でも――、」
木兎がそう言うと、彼の宝石は自分の右手の甲を擦りながら続けた。
「あの時上げていなければ確実に負けていました。」
「んなことどうでもいーのよ。」
彼は立ち止まり、振り返る。金色の目が宝石を見つめる。宝石の手の甲に埋め込まれている透き通った美しい緑が月の光に照らされる。
彼は宝石の右手をとり、手の甲の宝石を撫でる。
「あかーしは、俺の【宝石】なの。もしさっきみたいなプレイしてさ、この手が壊れちゃって、お前が居なくなったら、俺……どうすりゃいいの?」
「……。」
宝石は俯き、黙り込む。木兎の、彼のその瞳を見つめることは出来なかった。吸い込まれそうな金色には、何が映っているのだろうか。
「……すみません。」
宝石は目を合わせないままに謝る。嫌な沈黙が流れる。
「――わかったならいーよ。……ほらあかーし!帰ろーぜ!」
そういいながら彼はそっと宝石の手を離し、笑顔で宝石に声をかけた。
宝石は生きた心地がしなかった。心臓が煩いくらいに音を立てながら脈を打つ。この感情は何なのか。恐怖か、怒りか、屈辱か、それとも他の何かであるのか。それを知るものはいない。
ただ確かにそこにあるのは、コレクターと宝石の歪な関係のみであるのだ。