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    キスする星昴22カ所 #1【髪】【髪:思慕】

    普段なら、いくらか高い位置にある、ふわふわとボリュームのある髪。長い足で闊歩する度に跳ねる様は、昴流の特別お気に入りの光景だ。それがいま目の前にあるのだから、うきうきと胸が高鳴るのも無理のない話である。
    鼻先を埋めてみたら、どれだけ気持ちが良いだろうと想像し。そこに漂うはずの清潔なシャンプー、男性的な整髪料の香りなんかを脳内に思い浮かべてみて、頬があつくなる。
    「少しだけ、なら……」
    ぽとりと胸の内におちた呟きは、はやくはやく、と昴流を急かしてくる。その、何気ない自身の欲求にくらい正直であろうと、背中を押された。
    昔から、姉と星史郎から欲の無さを心配されていた。心配される程の問題ではないと高をくくっていたが、今にして思えば、それは自分の意思に蓋をしていた結果なのかもしれない。力が強く技術と経の未熟な存在が、何事かを深く望んだ先に待つ未来とはあまねく破滅だ。物語でもそう、現実ならなおのこと。
    少年の頃からしたら、技術は研鑽を重ねて熟され、まだまだと言われようが人生経験もそこそこに。それで少しずつ欲求めいたわがままな望みが現れたのを、常にちかくで昴流を見守ってくれる姉はもちろん。好意を本心であると認めた星史郎も、とびきり喜んでくれた。となると、したい、されたい、やってみたいと一度でも思い立った望みを行動に移すことは、良いことなんだと昴流は素直に学習していた。
    ゆえに彼は、歓迎してくれるはずなのだ。本のページに集中する星史郎の、ソファにもたれかかる後頭部に鼻先を埋めてしまいたい突然の欲求ですら。
    星史郎の分も紅茶を淹れてあげるからと言って、席を立ったことなどすっかり失念し。こっそりと近づくは、ふかっと緩やかなウェーブをつくる黒髪の波。鼻先で得る感触は、それはそれは、さぞ心地よかろう。
    こくんと喉を鳴らし、いざ。大きな窓から差す陽の光で、赤茶に透ける膨らみへと。昴流はご挨拶を省き、背を曲げることで無遠慮に鼻先を刺しこんだ。
    「……う、ん? どうされたんです?」
    組まれていた足の、にょっきり骨ばった膝に置かれた本へお熱であった星史郎の顔が少しだけ上がる。そうすると、彼のつむじが更に昴流の鼻先に近づくこととなってしまって動悸は爆発寸前の危険な状態に陥った。なにせ柔らかな髪を掻き分けた頭皮に口付ける格好となっているのだから。こんなことが、いくら恋人とは言え許されるのだろうか。喝采を叫び出したいほど歓喜に溢れる格好であり、同時に、断りもせず鼻を近づけたことが途端に恥ずかしくなる。
    星史郎は不信がっているに違いない。なんと弁明したら、下心のないこの気持ちが伝わるだろう。口下手であることを自負する昴流は焦りを覚えた。鼻と口とはちゃっかり、星史郎の匂いと柔らかさに包まれながら。
    「なにか、僕の頭に粗相がありましたか?」
     星史郎はまず、シャンプーの不備を問うてきた。まさか、いつでも清潔感を第一にする彼に、間違ってもそんなことはありえないので余計に焦る。
    「いえ、そんなまさか! あの……笑わないでくださいね。その、いつも星史郎さんを見ていて、柔らかそうで、良い匂いがしそうな髪に、触ってみたかったんです」
    「そうですか。なら安心ですが、触るなら手が良かったのでは」
    「いえ、香りも楽しみたかったので」
     と言うとまるで、洗剤のコマーシャルで見る、肌触りふかふかの良い匂い、というタオル呼ばわりしている気がして、昴流はまた汗を飛ばしてかしこまる。ここでやっと鼻先が離れたことで、星史郎は後ろを振り向くことが出来た。
    「まったくきみってば、いくつになっても可愛いわがままを思うんですね。僕みたいな、すれた大人には眩しすぎる」
     おいで、とは。ソファの背もたれ越しに、長い両手を広げて呼びつけられる。星史郎の腕の中は、それはもう、この世で一、二を争う落ち着く場所だ。それで昴流から抱かれに行くと、はにかんだ男の表情がすぐそこに。
    「昴流くんが僕のことを大好きなのは伝わりました。だから僕からも昴流くんの頭に、キスさせてください」
    「えぇっ! いや、それは、その……」
     大急ぎで星史郎の胸を押しやるが、男の身体はびくともせず。そのうえあろうことか、すんすん鼻を鳴らす、髪の匂いを嗅ぐ仕草を見せつけられてしまう始末。
    「お、おっ、お風呂の後で、ならっ!」
    「そう。なら、お約束ですよ」
     決死の提案に対して星史郎は、あっさり腕を緩めた。風呂上がりにも親密な距離でいたいというのが、星史郎の本来の望みだったのだろう。
     罠にかかってしまった。けれど、それは昴流からも望んでいることなのだから。甘い甘い、ご褒美の罠は大歓迎だった。
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