キネマトグラフ今日は少女漫画が映画になったやつをみるのだ。
「喜多はぜったいポップコーン買うよねん」
先輩はそう言って席に座る。体つきが小さいからぴったりおさまる。ピーコートを脱いだ自分は通路側。灰色のシートの手すりにポップコーンとオレンジジュースのトレイをレゴブロックみたいにはめこむ。もうよそ見しても倒れない。
「家で見るときは飲みもんしか持たないじゃん。持ち込むのおれのほう」
「そりゃ映画みてますし」
「今はぁ?」
「し、しーえむ中ですよね。新渡米先輩もハイ、どうぞ」
「なに味」
先のとがった鼻がしゅっと息をする。
「キャラメルです」
喜多は先にガシャとポップコーンカップに手を入れる。
「だって映画館だと楽しいんですよ」
新渡米せんぱいは、ポップコーンをひと粒ずつ食べる。
いつもはポテチやとんがりコーンを大きくない手で、どちらかというと小さい手一杯につかみ、わしわしと食べる。頬がリスみたいにふくらむ。
今のそのリス仕様であるが。
映画が中盤手前にさしかかりヒロインが階段を駆け下りるころには集中してくる。でも手はポップコーンを運ぶのをやめない。口に入れるのが一粒ずつになる。ここで、この時だけ見られる。家じゃこうはならないんだ。
映画館のポップコーンすげー。
「えーが、どうだった?」
喜多は素直に直線で答える。
「はい、先輩の顔ばっかり見てました!」
「えーーー……」
「だから先輩に良かったところ聞きたいです」
「良かった点っていうのが喜多のいいトコだよね本当」