キネマトグラフ今日は少女漫画が映画になったやつをみるのだ。
「喜多はぜったいポップコーン買うよねん」
先輩はそう言って席に座る。体つきが小さいからぴったりおさまる。ピーコートを脱いだ自分は通路側。灰色のシートの手すりにポップコーンとオレンジジュースのトレイをレゴブロックみたいにはめこむ。もうよそ見しても倒れない。
「家で見るときは飲みもんしか持たないじゃん。持ち込むのおれのほう」
「そりゃ映画みてますし」
「今はぁ?」
「し、しーえむ中ですよね。新渡米先輩もハイ、どうぞ」
「なに味」
先のとがった鼻がしゅっと息をする。
「キャラメルです」
喜多は先にガシャとポップコーンカップに手を入れる。
「だって映画館だと楽しいんですよ」
新渡米せんぱいは、ポップコーンをひと粒ずつ食べる。
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