白くふわふわとした毛並みを大きな手が撫でていくのをじっと見つめていた。この世の慈しみを全部込めたんじゃないかとさえ思えるような優しい手つきに喉を鳴らす音が聞こえる。
『ふふ……甘えんぼだね。君は本当に猫なのか、時々疑わしく思えるよ』
急所と言える腹を差し出して甘える猫に笑いを含んだ声が言う。言われたことに抗議したいのか、猫はちょいちょいと自身の手でやりかえし、それにまた笑い声が響く。
ほのぼのとした空気が漂う、なんともまったりとした動画だった。人は映らず、猫の日常がひたすら投稿されていく、「可愛い」「癒やされる」と眺めて、ちょっとのんびりするような、そんな自分にはあまり興味のないもの。けれど、彼が投稿主したならば別だった。
「……見つけた。傑」
この世界にも、きっとオマエはいると思ってたよ。
***
生きている限り呪いとは縁が切れないと思っていたが、それはあくまでも『一生』の話であるのだと五条が気づいたのは、死んだ後に目覚めてからだ。矛盾しているようだが、明らかに死んだと思っていたのに赤子として存在していたのだから仕方がない。まあ、自分の我が儘を原因の一因として死後に体を乗っ取られていた親友があの脳野郎から主導権を取り返したら別の状況で同じことが言えたのかもしれないが、少なくとも五条にとっては、この生は前回とはまた少し違うもの……魂を同じとして生まれ変わりだった。魂だけでなく記憶は残していたし姿なども同じだったが、周囲は五条とは異なり前世だのなんだのという話はしてこないので個人差はあるのだろう。五条自身も今は六眼や無下限呪術はおろか、呪いを見ることすら出来ないので、普通の大学生として過ごしている。幸い、呪力の関係ないところの能力は大差がなく実家も太いのでなかなかに気楽に過ごせている。家入や七海、伊地知といった同じように記憶を残している前世の仲間とも出会えたのも幸いだった。思い返せば「人権って知ってる?」と問い詰めたくなるような青春時代を過ごす事は今世はない。その代わりに、欠けているものはあったけれど。