恋のゆる猫「先生、これ、あげます」
修は帰り際に上着を羽織ったところで、ポケットから何か小さいものを取り出すと、ヨレヨレの布団に包まった耕助に、そっと差し出した。
耕助はまだ身体の怠さが引かないので、だらりと手を伸ばして、ようやく修の顔を見つめた。どうにも、若さを実感してしまう。
「何だい、これ?」
「おもちゃ屋のガチャガチャで出てきたんですよ。先生に似ているでしょう?それ」
修は笑った。バッジには、ゆるい姿勢の猫のようなものが描かれている。
「似ているかなあ、おれに…」
「似てます、似てます。ホラ、今の先生にそっくり」
裸のままの耕助をパッと指さしたので、耕助は何だか恥ずかしくなって毛布をかき集めた。
「もう…そんなに見ないでちょうだいよ」
「ええ、何でですか?もう僕は先生の身体の奥まで知ってますもんで、今さらじゃないですか」
「う、うるさいよ。それとこれとは話が違うの」
そうですかねえ、と修は笑って小首を傾げた。余韻を楽しんでいる若者の元気さに、耕助はへとへとになりながらも、どこか、温かさを感じていた。
「このまま先生を置いていくの、本当に忍びないんですが、上に呼ばれたモンで、ここでお暇しますね」
「うん、気を付けて帰るんだよ」
「また、絶対に、絶対にお邪魔しますから。そしたら、また、しましょうね」
先程の情事を思い出して、カアッと赤面した耕助の額に、修は名残惜しそうに屈んで口付けをすると、すぐに部屋を飛び出していった。
「ううん…似てるかなあ、ぼくに…」
耕助は天井に向かってバッジを掲げて見つめてみた。ゆるい猫は、のんびりだらりと手の中でだらけていた。