ハロウィンをどうぞ 今日は十月三十一日。最近は悲惨な事件も起こらず、金田一と等々力は久しぶりの休日を満喫していた。とは言っても、馴染みの喫茶店でコーヒーを嗜むくらいなのだが、特に用事を作らずにこれ位の距離感でのんびり過ごすのを、二人は好んでいたのであった。
金田一は窓の外に、仮装した若者が何人も通り過ぎていくのにとっくに気づいていたのだが、話を振ることはせず、何とはなしに遠くを見つめていた。
等々力も同じように外の喧騒を眺めつつ、何も言わずにコーヒーを飲んでいた。
二人の心境は全く同じで、自分たちもあの若者のように騒ぐ歳では無くなったなという、どこか感慨深い思いであった。
そして、目の前の男が仮装でも何でもしたら、きっと愉快であろうとも、考えていた。
「なんで笑ってるんです、等々力さん」
金田一が含み笑いをしながら等々力に聞いた。
「いえ、あなたと考えている事は一緒だと思いますよ」
「イヤですよ、僕ぁ騒がしいのは好きじゃないんです」
「そりゃあ、私も同じですがね。一時の気の迷いでも良いじゃありませんか。あっはっは」
「もう、そんなこと言って…あなたも同じ目に合うんですよ?こうなりゃ一蓮托生です」
「いや、ははは…勘弁して下さい。すごい絵面になりそうだ」
とにかく仲の良い二人だった。そんな会話をしながら、外の大通りを眺めつつ、互いの心地よい空気を味わっていた。
「いいんじゃないですか、たまには」
金田一は穏やかにそう呟いた。
「そうですね。何もかも忘れてね」
等々力は優しい微笑みを浮かべた。
「忘れてしまって、また思い出せばいいんです」
金田一はそう言うと、お釜帽を反対にひっくり返して、ギュッと被って笑った。
心ばかりの、仮装だった。