悪夢(ミコジョン)__きっとこれは悪い夢だ。
「うわぁ、本当に同じ顔してる……鏡見てるみたい。」
何処へ向かってるかも分からない電車の中。
俺の顔をじぃ、と見つめる僕__ミコトは、そう言ってはにかんだ。
対して俺は、目を瞬きさせる。
いつもミコトは、〝此処〟で俺が起きてる時は寝ているはずだ。それはきっと、逆も然りで。俺とミコトが同時に起きていることは有り得ない。ましてや、俺をミコトが認識しているなんて、そんなことは絶対にありえない。
___ありえない、はずなのに。
夢でも見ているのか、はたまた幻覚でも見ているのか。俺は目の前の現実を疑うことしか出来ず、ただ目の前にいるミコトを見つめるだけだ。口を阿呆みたいに開けながら、俺はどうにか絞り出した言葉を呟く。その声は、酷く震えていた。
「……は、…なんで、ぼ……ミコト、が」
「あ、やっぱり声も同じなんだね。…ん?でも君の方が低い、かも?同じ声してるのに、こんなにも印象違うの面白いね。」
看守くんとか聞き分けられたりするのかな、そう言ってミコトは可笑しそうにくすくす笑う。その顔は、俺のよく知る疲れ切った、やつれたようなミコトじゃない。平凡ででも幸せそうな、〝俺が望んだ〟ミコトだ。
__ミコトにもし俺の声が届くのなら、言いたいことは山程あった。
何度も言った「おはよう」や「おつかれ」の挨拶だって、限界を無視してまで頑張るミコトを止める言葉だって、それこそ労うような優しい言葉だって、沢山、沢山、届かないミコトに向かって言っていた言葉が沢山あった。
今こそその言葉が言えるのに、俺の声が届くのに、どの言葉も俺の口から出ることはない。
沈黙の中、ただ車輪の音と吊革が揺れる音が響く。隣に座ったミコトは、俺の顔を覗き込んで言う。
「…ねぇ、君の名前なんて言うの?」
「…ジョン、ジョン・ドゥ。…看守のガキが勝手につけた。」
「看守くんが?へ〜意外!もし名前がなかったら、僕が考えようかなぁって思ってたんだけど。」
「…別に看守のガキが勝手につけた名前だ、好きに呼べよ」
「え〜、でもジョンって名前いいと思うな。ほら、犬みたいで可愛いし」
「…………」
「え、あ、駄目だった!?褒め言葉のつもりだったんだけど!?」
「………」