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    kokkokkkokkk

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    5/3イベントの愛之介くんお誕生日おめでとう無配です。お手に取ってくださった方ありがとうございました!

    アナザーデイズ「誕生日なんて、きらい」
     自分よりもよっぽど大人びた表情で呟く年下の少年に、かけるべき言葉をすぐには見付けられなかった。

     忠はその日、父と共に住まう屋敷の使用人部屋から、極力出ないようにと言い含められていた。五月一日、神道家の跡取りたる、愛之介の誕生日。
     この日ばかりは、愛之介は学校の欠席を許され、一日中家へと縛り付けられる。誕生日当日に、学友からの祝いの言葉を貰うことは、終ぞなかった。
     ありとあらゆる職を持つ客人たちがひっきりなしに屋敷に訪れては、愛之介への祝辞もそこそこに、父に似て優秀なのだと褒めそやす。下心を覆い隠し、貼り付けた笑顔を浮かべた大人たちが、入代わり立ち代わり、愛之介への贈り物を持ち込むのであった。
     彼らの目的が、愛之介の誕生日を祝うことなどではなく、地域の有力な政治家たる父、愛一郎であることは一目瞭然であった。しかし、それでもその日の主役として銘打たれた愛之介が、その場を離れることは許されなかった。
     一日中を来客の対応に費やすことは、子供の愛之介にとって苦痛そのものである。立ちっぱなしの時間が続くにつれて、集中は途切れ、そわそわと落ち着きがなくなってゆく。そしてそれが、伯母たちの怒りを買うのであった。



     部屋を出ることを禁じられてはいたものの、その日、忠はどうしても庭に出る必要があった。父や周囲の人間の目を盗み、夜闇に紛れて、庭のプールを目指す。パーティーの片付けも終わったのか、屋敷の明かりは消え、昼間のざわめきは嘘のようにしんと静まり返っていた。
    「……愛之介、さま?」
     潜めた声で呼びかける。すると、普段着に着替え、スケートボードを手にした愛之介が、おずおずといった様子で影から姿を現した。
    「……忠?」
     あからさまに、ほっとした表情だった。
    「はい、忠です。……ごめんなさい、お待たせしてしまいましたね、お疲れなのに」
    「ううん、僕が忠に会いたかったから」
     蕾がほころぶような愛之介の笑顔に、忠は目を奪われた。その日、何よりも伝えたかった大切な言葉ですらうっかり零れ落ちてしまいそうで、忠は慌てて口を開く。
    「あ、愛之介様! 遅くなってしまいましたが、……その、お誕生日、おめでとうございます」
     今日の愛之介にとって、数え切れないほどに聞いた言葉だった。しかし、忠から告げられた裏表のないそれが、この日唯一、本当に愛之介自身を心から祝うものとなる。
    「あ、……ありが、とう……」
     その言葉は面映ゆくも、愛之介の内側へじわりと染み入ってゆく。心の内側に、鮮やかな絵の具が滲んで広がるような温かさに、愛之介はもじもじと己の指先を絡めながら、それだけを言うのが精いっぱいだった。
    「……そうだ、これ……作ってみたんです。愛之介様、ご本をたくさん読まれるから」
     少しだけ照れくさそうな様子で忠が差し出したのは、下半分ほどに薔薇の蕾があしらわれ、赤いリボンで結ばれたしおりだった。
    「わあ、これって……!」
    「摘み取るには遅かった蕾なのですが、以前愛之介様が気にしていらしたので……少しだけ育てて、押し花にしてみました。……こんなものしかご用意できなくて……すみません」
    「どうして? こんなもの、なんかじゃないよ。……僕、今日は今が一番うれしい……ありがとう、忠」
     受け取ろうと差し出された手に、無意識に視線が注がれる。半袖のシャツから覗く柔らかな皮膚は、赤黒く色を変えていた。
    「……愛之介さま、それ……」
    「あ……」
     慌てたように腕を引いても、もう遅かった。受け取られるはずだったしおりが音もなく地に落ちる。忠の手が愛之介の腕を取り、愕然とした顔でその部分を見た。
    「…………僕が、今日のパーティーで失敗しちゃったから」
    「そん、な……」
     愛之介は失敗というが、僅かに集中が途切れただけのこと。それでも、彼女たちは愛之介を許さず、叱責を繰り返した。
    「……明日も、おばさまたちに呼ばれているの」
     虚ろな瞳は、その日、たくさんの人々に誕生を祝われた子供には到底似つかわしくないものだった。小さな唇が震えて、絞り出すような言葉を吐く。
    「……誕生日なんて、きらい。……あんなの、もう来なければいいのに」
     今にも溢れ出してしまいそうな気持ちを必死に堪えながら、拳を握り締めて俯いていた愛之介が顔を上げる。その目前には、愛之介以上に泣き出しそうな、忠の顔があった。
    「……そんなこと、言わないでください」
     忠は、腰をかがめて、落ちたしおりを拾い上げた。砂を綺麗に払ってから愛之介へと差し出す。泣き出しそうだった表情は、いつも通り、穏やかな笑顔に戻っていた。
    「……明日、愛之介さまの二日目お誕生日をお祝いしましょう」
    「……ふつかめ、たんじょうび?」
     しおりを受け取った愛之介の手を、先に生まれた分だけ大きな忠の手のひらが包み込む。温かな体温が、じんわりと溶けて伝わっていった。
    「はい! ……でも、その、……プレゼントや、ごちそうは、用意できませんが……学校が終わったら愛之介さまを待っています。お稽古の後でもいいです、愛之介さまと一緒に遊びたい。私にたくさん、おめでとうを言わせてください!」
     たどたどしくも一生懸命に選び取ったのであろう忠の言葉に、愛之介は目を見張る。力いっぱいに握られた手は温かく、まるでそこに、小さな炎がこうこうと灯ったようだった。
    「……うん。……うん、ありがとう、忠。……ありがとう」
     はにかんだ愛之介の表情に影はもう無く、その瞳は夜の中でも明るく輝いていた。



    「子供の頃から、今日が嫌いだったよ」
     ほとんど誰に聞かせるつもりもない、ひとりごとのような呟きだった。寂しさや、恨みのような色はなく、ただ平坦な声のまま、愛之介は天井を眺めている。
    「……ええ」
     この日、朝から顔を合わせる機会のなかった忠に、共寝を所望したのは愛之介のほうだった。しかし今、ベッドの上で横たわる体勢を変え、愛之介は忠から逃れるように背を向けてしまう。
     ちょうど一日前、日付の変わった頃に、電話での会話はあったものの、直接顔を合わせたのは、ついさっきのことであった。
    「……僕のための誕生日ではなく、父のための、家のための誕生日だった」
    「ええ」
     仰向けのまま、忠はちらりと時計を見遣る。長針はもう間もなくゼロへと差し掛かり、五月一日の終わりを告げようとしていた。
     成人した愛之介が公人となった今、誕生日だからといって表立ったパーティーを行うようなことはなくなったが、それでも旧知の者からは毎年、面会や会食の申し入れがある。プレゼントは愛想笑いと巧言令色、残るものは噂話や名刺、そして泥のような疲労感。今も昔も、愛之介にとっては疎ましく感じるものばかりだった。しかし、公務とは呼べないものであるが故に、切り上げるのも幾分か気楽ではある。そのおかげで、愛之介は日を跨ぐ前にベッドへと潜り込むことができたのだった。
    「……たくさんの面会があってお疲れでしょう。今日はもうお休みください」
     曜日関係なく働く愛之介にとって、この日は一年の内のただの一日でしかなくなっていた。それでも、この日が巡るたび、ふと考える。
    「……僕は、生まれた日を、誰かに祝われているか」
     母の記憶は遠く薄れ、今や父も鬼籍に入った。夜の暗闇の中で、どうにもならない思考が愛之介を支配する。
     かちりと、時計の針が動く。その音が、合図のようだった。
    「……愛之介様、二日目お誕生日、おめでとうございます」
     不意にベッドが軋んで、愛之介の背に忠の腕が伸ばされる。振り返る間もなく捕らわれて、その身体は掻き抱かれた。耳元に寄せられた忠の唇が、低く穏やかな声を注ぐ。二人で眠ってもまだ余りあるベッドの真ん中で、隙間もなくなるほどにぴったりと身体を合わせる。愛之介を強く抱いた腕は、起き上がることはおろか、身じろぎすら許さなかった。
    「……おまえ……覚えていたのか」
     早々に抵抗を諦めた愛之介は、身体の力を抜いて、忠の腕の中に大人しく納まることにした。
     それは、高校生の頃から、途絶えて久しい言葉だった。子供の頃の数年間、誕生日の翌日に毎年繰り返された言葉。それを、大人になった今になってまた聞くことになるなど、愛之介は思ってもいなかったのだろう。驚きと、押し殺し切れなかった喜びを含む声色を聞きながら、忠は続けてゆく。
    「……本当は毎年、お伝えしたいと思っていました。……でも、できなかった。何を馬鹿なことを、と切り捨てられるのが怖かったんです。……今また、こうして、あなたにお伝えできることが、……とても、嬉しい」
    「……うん」
    「……愛之介様、お誕生日、おめでとうございます。あなたが今、ここにいてくださることが……私の幸せです」
     寝しなに聞くには、あまりにも熱かった。吐息交じりに囁かれるたびに、愛之介が所在無げに身体を捩る。背中に感じるぬくもりは、冷えつつあった心身を、あっという間に温めていった。なんと返すべきか考えあぐねて、ああ、とか、うぅ、とか、意味を成さない声を呟くうちに、忠の手のひらが、懇願するように愛之介の肩を撫でてゆく。
    「……ねえ、愛之介様、……お顔を見せて、くださいませんか」
    「う……、は、恥ずかしいから、いやだ……」
     凍りついていた関係性が溶け落ちて以降、このベッドの上で幾度も身体を重ねたし、耳にするだけで全身の血が滾るような、いやらしい言葉を使うことさえあった。
     それでも愛之介は今日、ここで顔を見られることが恥ずかしいと言う。それがどうにも幼気で、愛おしかった。湧き上がる気持ちを抑えるかのように、忠は愛之介の肩口に顔を埋めた。
    「どうして? あなたに恥ずかしいところなんて、ひとつもないのに……」
     忠の声が一つ囁くごとに、愛之介の身体が小さく揺れた。肩に触れた忠の手に、愛之介がおずおずと自らの手を重ねて暫し考える。
     やがて、心地よい静寂の中で、愛之介はようやく意を決したかのように寝返りを打ち、忠の胸元へと顔を埋めた。
    「……愛之介様? これでは、あなたのお顔を見ることができません……」
    「……いい。今日は、これがいいんだ……」
     上目遣いでそっと見上げると、穏やかに微笑む忠と視線が重なった。ゆっくりと回された腕の中で、深く呼吸を繰り返す。今日は同じソープを使ったはずなのに、どこか違う匂いを感じながら愛之介は目を閉じた。
    「明日も、あなたにたくさん、おめでとうを言いますね」
     つむじあたりに口付けながらの忠の言葉に、愛之介はくすぐったげに笑う。忍び寄る眠気に身を委ねながら、満足げに肯いた。
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