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    kokkokkkokkk

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    忠愛とかつ丼東京滞在の間に利用する、ファミリー向けの中規模マンション。愛之介の指示で忠が借りたその部屋は、利便性を重視した都心の一等地ということもあり、家賃はそれなりのものである。もちろん、議員用の宿舎を格安で借りることもできたのだが、愛之介は断固拒否の姿勢だった。周囲にいるのが面倒な人間たちであればあるほど、顔を合わせる確率を少しでも減らしたいと考えるのは人として当然のことだろう。それに比べれば家賃など、愛之介にとっては些事であった。
    「どこでもいい、場所はお前に任せる。休む時にまで周りを気にしたくない」
    そうして忠は、宿舎からは離れた地域で希望の間取りに沿うマンションをいくつか捜し出し、その中から愛之介が選んだ一部屋を借りることにしたのだった。

    深夜にほど近い時間、オートロックのエントランスを抜け、忠はエレベーターへと乗り込んだ。入居者は多いはずだが、この時間ではみな既に寝静まっているらしい。薄暗い廊下には、手に下げたビニール袋の擦れる音と、革靴の音だけが響いていた。
    目的の扉の前へとたどり着き、カードキーをかざす。勝手に灯る明かりを頼りに革靴を脱ぎ捨ててネクタイを緩めると、忠は足取り重くリビングへと向かった。
    「……ふう」
    ジャケットを放り投げ、ソファにどっかりと腰を下ろすと、溜息を一つこぼす。ずっしりとした疲労感が、身体中にまとわりつくようだった。かろうじて部屋の電気は点けたものの、テレビを観るような気力はなかった。無音のリビングで、目の前のテーブルに置いたビニール袋をぼんやりと眺める。その中には、閉店間際の弁当屋で購入した、かつ丼弁当があった。
    本来であれば、こんな時間の食事には到底ふさわしくないものである。しかし、出来合いで置いてあったのはそれだけで、他のものには時間がかかるというのだから仕方がない。出来上がりを待つくらいであれば、少しでも早く帰って、その時間を睡眠に充てたかった。

    もう一度溜息を吐いて、のそりと立ち上がる。キッチンで手を洗ってから冷蔵庫を開けると、以前在京した際に購入した缶ビールの残りが冷えていた。
    かこん、と缶が鳴り、炭酸が抜ける音がする。冷蔵庫の前に立ち尽くしたまま、満足行くまで喉を鳴らしたところで、忠はようやく、人心地がついた気がした。

    Sで使用するドローンの新機種、新たな演出のための大型モニターや照明機材、それに伴う音響設備。ショービジネス向けの展示会に出向いた忠は、愛之介の希望を叶えるために会場をくまなく見て回っていた。日本どころか、世界中から企業の集う展示会ともなれば、会場自体も広く、出展社も多い。いくつかの商談のあと、実際に展示や導入のある店舗などを回るうちに、気付けば碌な食事もとらないまま、午前様の帰宅となったのだった。

    新しく取り出した缶ビールを手に、ソファへと戻る。かつ丼を温め直すことすら億劫で、冷えたままの蓋を開ける。垂れ落ちる水滴を気にすることもなく、割り箸を割った。
    しっかりと盛られた米の上には色濃い卵が広がり、申し訳程度の玉葱、そして手のひらよりも二回りほど大きなかつが乗っていた。まぎれもなく大盛り、そんな風格である。
    少しいびつに割れた不格好な箸を、忠は使い捨ての丼へと潜らせた。時間の経過によりしっとりとした衣はふにゃりとした歯ごたえを伝えてくるが、濃いめにつけられた味はまずいわけではない。かつ丼とビールをせっせと口に運んで、頬張っては飲み下す。

    さっさと食べて、早く寝てしまおう。

    明日は、環境問題に関するフォーラム視察のため、愛之介が上京する。拠点とする場所は、この部屋だった。
    東京の別宅として、短期間ずつ使用するだけの部屋が散らかっているわけではないが、それでも多少の埃っぽさが気にかかる。愛之介がこの部屋に訪れるのは、明日の夜、フォーラムを終えた後だが、迎えに出るのは昼前である。忠は朝の内に、この部屋を万全の状態にした上で、主人を迎えたかった。

    掃除の順番をあれこれ考えながら、半分ほど食べ進んだ頃のことだった。
    不意に来訪者を告げるチャイムが鳴る。驚きに、身体が小さく飛び上がった。
    「……⁈」
    エントランスのオートロックであれば、酔っぱらいの押し間違いなども考えられたが、こんな深夜に、部屋の前のインターホンが押されるようなことは、通常であればありえない。
    未だに早鐘を打つ心臓の音を聞きながら立ち上がり、忠は壁のモニター画面を確認する。
    そこには、俯いた男らしき姿が写し出されていた。表情は、前髪の影になっていて窺えない。しかし、これは。
    「ッえ……⁉︎」
    通話ボタンを押す間も惜しんで、弾かれるように廊下へと飛び出した。大慌てで開錠し、扉を押し開く。
    「あい、ッのすけ、さま……!」
    「……こら、夜中だろ。声を落とせ。……なんだお前、こんな時間なのにまだそんな格好しているのか」
    忠の勢いに驚いた愛之介が、扉のすぐ前で目を丸くしていた。
    「……! どうして……!」
    スーツのジャケットを脱いだだけの忠とは対照的に、愛之介は開襟のシャツにチノパン、そして下ろしたままの髪というラフな格好だった。その姿はまるで、友人の家にふらっと遊びに訪れた青年そのものだった。驚く忠の様子に、愛之介は実に満足げな笑みを浮かべている。
    「飛行機が遅れた上に、事故で道が混んでいたんだ。……悪いな、こんな時間になってしまった」
    「ご連絡くださればお迎えに上がりましたのに……」
    「……大げさだろ、空港からなんて大した距離でもないし」
    生活に必要な着替えなどは、東京の拠点であるこの部屋にも一通り揃えられているため、愛之介が持参したスーツケースは小さなものだった。受け取ったそれを運び込みながら、忠は困惑した犬のように眉を下げている。
    「そもそも、いらっしゃるのは、明日の昼だったのでは……」
    「ああ、夕方の予定が途中でキャンセルになってな。向こうにいてもしょうがないし、終便には間に合いそうだったから」
    勝手知ったる足取りで進む愛之介の後を、忠が付いて歩く。リビングへと続く短い廊下の突き当り、扉の前で立ち止まった愛之介が、ゆっくりと振り返った。目を細めて、誘うように手招いてみせる。
    「……ふふ、本当はな、お前に早く会いたかったんだよ。なあ、ダーリン? ……なんてな」
    「……愛之介、様……」
    冗談めかしてはいるものの、それが愛之介の本心であることを、忠はよくわかっている。スーツケースが、床の上でがたりと音を立てた。荷物を放して、空いた忠の手が愛之介を捕まえる。
    「……可愛いことを、仰いますね……」
    「なんだ、僕が可愛くなかったことがあるか?」
    「……それもそうです」
    離れていた時間などほんの数えるほどであったが、それでもすぐそばに互いがいることが喜ばしかった。どちらともなく距離を詰め、鼻先を擦り合わせて囁き合う。
    「どうだ? お前も寂しかった?」
    「ええ、それはもう。……今日だってずっと、あなたの喜ぶ顔ばかりを考えていました」
    「ふうん? じゃあそれを、現実にしなきゃなあ」
    言葉の合間に、愛之介が幾度も甘噛みを繰り返す。忠の頬、鼻頭、あご、そして最後に唇と、その内側。
    一方の忠はというと、寄りかかる愛之介の体重を受けながらも身じろぎ一つせず、愛之介の好きにさせていた。力いっぱい抱きしめられて、唇や舌を噛まれ、吸われても、その身体がよろめくことはない。
    「……なんだよ、このまま押し倒してやろうと思ったのに」
    「……廊下ですので……」
    やがて、思うまま忠の顔中に歯を立てて満足したのか、それとも、思惑通りの行動に移らない忠に焦れたのか。たっぷりの時間をかけた後、ようやく愛之介が一歩足を引いた。濡れた口元を拭うこともせず、その唇は舌を覗かせながら嬉しそうに吊り上がっている。
    「……まあいい、明日の朝はゆっくりできる、よな?」
    「ええ、それはまあ……はい」
    明日のフォーラムの開始は十四時。移動時間を考えても、昼過ぎにこの部屋を出れば、十分に間に合う距離だった。愛之介の言う通り、午前中いっぱいは自由時間ということになる。
    「なあ、明日は寝坊していいんだぞ? もうこんな時間だけど、このままおやすみ、だなんて言わないよな」
    仕上げとばかりに、忠のシャツのボタンをふたつ開け、覗いた皮膚に愛之介が歯を立てる。
    忠の白い肌の上に、赤みを伴う痕が残された。
    当初の予定だった掃除など、既に愛之介が部屋に来てしまったのであればもはや意味がない。
    「ですが、愛之介様も、お疲れですし……ッ?!」
    今度は首筋に歯を立てられた。今度は、痕が残るような強さではないものの、あからさまに欲を煽るものである。
    「……本音は?」
    「……それは、その……あなたにお許し、いただけるので、ぁ……ぅ」
    言い終わらぬうちに、愛之介の指先が忠の頬に伸びて、思いっきり引っ張った。
    「そうじゃないよな」
    少しだけ拗ねたような、しかしそれでもどこか期待に満ちた目だった。
    「……はい、……したい、です……」
    「そうだろ? それに、たっぷり疲れた後の朝寝坊のほうが、気持ちが良いじゃないか」
    「……そういうもの、でしょうか……?」
    破顔した愛之介に腕を引かれ、リビングの扉が開かれる。廊下には、スーツケースが一つ、残されたままだった。


    「悪いことをしたな、途中だったか。しかし、お前……こんな時間に食事か」
    愛之介の視界に、中身の残った丼が映る。半分ほどになったとはいえ、それでもずっしりとした中身が残っているそれを見て、愛之介が感心したように笑った。
    「しかもかつ丼とは、……ふふ、イイね。ご飯の量も、なかなかすごそうだ……」
    「は、いえ、……はい……その、あまり……見ないでください……」
    なんとなく気恥ずかしくて、忠がそっと視線を逸らす。しかし愛之介は構うことなく、忠をソファへと促した。
    「どうして? イイじゃないか。最近は食の細い爺の相手ばかりだったから、よく食べるパピーは好きだよ」
    忠を丼の前に座らせてから、愛之介自身も並んで座った。
    機嫌よく鼻歌を歌いながら、半端に残っていた飲みかけの缶ビールに手を伸ばす。室温でぬるくなったそれを、愛之介は忠が止める間もなく一息に流し込んだ。
    「……このままソファで、とも思ったけど、先にしっかり食べて、元気をつけてもらわないとなぁ」
    「愛之介様、新しいものをお出ししますので……!」
    「それに」
    缶を取り上げようとする忠を器用に避けながら、愛之介はその身体にしなだれかかる。吐息がかかるほどに、忠の耳元に顔を近付けて、そっと囁いた。
    「しっかり食べて、僕で腹ごなしするのも悪くないだろう?」
    「……急ぎます」
    夜更かしの後の、のんびりとした朝寝坊などいつぶりのことか。甘えるように身体を預ける愛之介の体温を感じながら、忠は残った丼の中身を、慌てて口の中へと押し込んだ。
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