『ジェット』 夢を見た。
しとしとと降る雨の中、空を仰ぎ見るように佇む影。それがこちらを向いたかと思えば、子供のようにべーっと舌を出して。そうして、背を向けて去っていく、夢。
ああ待って、行かないで。
手を伸ばしてみたけれど、悲しいほどに腕は短くて、その背には届かない。
やがて降っていた雨がやんで、空を覆っていた雨雲は消えて。彼の背中も空へと溶けるように消えてしまった。残ったのは透き通るような青空だけ。
雲ひとつない、きれいな青空だった。
それなのに、こんなにも悲しい。まだお別れなんてしたくはないのに。
「――……なんで泣いてる」
「…………え……」
夢の中、遮るように静かな声がした。
声に導かれるように振り返って、掬い上げられるようにしてはっとして目を開ける。ぼやけた視界の先にいたのは横たわったアッシュだった。光を反射しない、けれど夕暮れ時の空が燃えるような色をした瞳が困惑したようにこちらを見ている。グレイを束の間の夢の世界から引き戻したのは、アッシュの声だったらしい。
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