色なき風夢それは夢。在りし日の記憶。
その男はいっそう強く吹き抜けた風に目を細め言った。
「『色なき風』だな。道満。」
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───「法師さま」─
──「法師さま」───
己を呼ぶ子らの声。
縁側に腰掛ける初老の男ははっと顔を上げた。
「法師さま、法師さま」
「どうしたの、ほおしさま」
まだ舌足らずな幼子が不安そうな目で覗き込んでくる。
その男は少し皺のできた目元を柔らかに細める。
「ンン、今晩の夕餉は何にするかと。考え込んでおりました。」
その言葉に傍らに居た子らは安心したように笑い、庭で遊ぶ子どもたちの群れに戻っていった。
駆け回る子らの弾けるような笑い声。縁側から見える播磨の里。
程なく刈り入れ時となる稲穂は夕陽に照らされ、金に輝き、秋風に波打っている。
限りなく穏やかで和やかな風景。
目を閉じる。
瞼の奥にまだ先程の情景が焼き付いている。