パンケーキのばへしのその後長谷部に呼び出されたのは一緒にパンケーキを食べに行ってから2週間後のことだった。やけに改まった文面で、待ち合わせ場所はカラオケボックス。俺も長谷部もあまりカラオケには行かない方だから長谷部の意図が読めないままその場所まで来た。電車の乗り継ぎのタイミングが良かったらしく10分ほど早く着いたのだが、すでに長谷部が待っていた。紙袋を手に持っている。俺に気付くと一瞬の間があってすっと右手が挙がるのが見えた。長谷部と同じ仕草を返して近寄る。長谷部の口角は上がっているのに目が泳いでいた。
「早いな」
「ああ、まあな」
「ところで用件は何だ」
「それは中に入ってから話す。まずは受付だ」
そわそわと落ち着かない様子で目線をあちらこちらへやりながらこちらを見ずに話す。言い終わったかと思うとふいと身を翻して受付へ向かった。
「……2名。……2時間。……っと……すみません、」
受付の店員に聞かれるままに応えているようだが言葉に詰まったようだ。こちらに近付いて困った顔で尋ねる。
「機種はどうすると聞かれたんだが、お前何かわかるか?」
俺もカラオケの機種のことは分からない。どれでもいい、と答えると、そうか、と声がしてまたカウンターへ戻っていった。いつもならこういったことは一人で決めてしまうことが多いのだが、珍しいなと思いながら長谷部の背中を眺めていた。
「部屋は2階だ。行くぞ」
受付表が挟まれた小さなファイルを右手に持って階段をに視線を向ける。無言で階段を上ると部屋を示すサインを一瞥する。
「こっちだ」
一言だけ言うと右に歩いていく。その後を早足で追いかけると目の前でぴたりと止まった。長谷部はがちゃりとドアノブを引いて開けると俺を圧迫感のある狭い部屋に押し込んだ。俺と長谷部は黒い合皮張りの椅子に腰を下ろすと、口を開いた。