ルーレット式おみくじ器何らかのトラブルの帰り道、全員示し合わせたように腹が減って、そのとき目の前にあったのは古めかしい蕎麦屋だった。
「おっ懐かし〜」
テーブルの隅にメニューと共に置かれた球体を目の前に引き寄せたのは、隣に座る鳥束だった。球体にはコインを入れられそうな横長の穴が球の周に沿って並び、上の半球はルーレットのようになっている。
『何だそれ』
「知りません? 自分の星座のところに百円入れておみくじ引けるんですよ」
ほら、ここをこうして。鳥束はレバーをばちんと引いた。肩透かしだったが、お金を入れたら半球のルーレットが回るのだろう。
『初めて見た』
「やってみましょうよ。百円玉百円玉……」
『あるぞ』
小銭を出そうと尻ポケットに入れたコインケースを出そうとしたとき、実は目の前に座っていた相卜がやっと声を出した。
「えっ」
目を見開く相卜。
「どうかしました?」
「あんたらガチ?」
信じられない、とでも言いたげな顔で、相卜はたった今僕と鳥束が回そうとしていた球体を指差して言った。僕の指で摘んだ百円玉は、獅子座の穴に吸い込まれそうになっているところだ。
『何だよ』
「あたしがいるんだよ?」
『それがどうかしたか?』
「あたし! 占い師!」
『韻踏んでる』
「うるせー! あたしがいるのにそれやんの?!」
「じゃあ占ってくれるんですか?」
「やってやろうじゃん」
『じゃあはい』
百円玉は獅子座の穴から相卜の手の中に行き先を変えた。
「んー、楠雄は……」
手にした百円玉を弄びながら、相卜が僕を見て目を細める。
「運勢はまあまあってところね。待ち人は来る。若い男ね。勉強も恋愛も特に何もなさそう」
「え、そんな感じ?」
「だって100円のおみくじでしょ。あたし、売れっ子占い師よ? 1時間を2万で売ってるの。100円でこれ以上聞けると思わないでよね」
『確かにな』
「でも、そのおみくじ器よりは当たってる自信あるよ」
『そりゃどうも』
そのとき、僕らが頼んだメニューが運ばれてきて、おみくじの球体は隅に寄せられた。相卜がいる以上はお役御免だった。
そうこうしていたら、家族連れが僕らの隣に座り、それはなんと佐藤くん一家だった。
——待ち人は来る。若い男ね。
100円のおみくじ占いですらこの的中率。僕らはこんどこそあの球体に百円玉を食わせようとしたことを詫びた。