マヨイくん、遊びましょ!ボツ 理由:公式との齟齬
「つまりネ、鬼ごっこなんだヨ」
「何が?」
「クソ赤毛ぇ、魔法の使いすぎで頭おかしくなったか?」
「こら晃牙ちゃんそんなこと言わないの」
夢ノ咲学院の三年B組。授業が終わり、偶然仕事も長期休暇、このまま寮に帰るのも半端な時間。Switchの逆先夏目が机に腰掛けて言った、高校三年生がするには子供っぽいお遊びの提案。
「鬼ごっこ…!楽しそうであるな!」
「……逆先、学校でやるのか」
腰に下げた刀とひとつに結った髪を揺らして目を輝かせるのは紅月の神崎颯馬。その隣で逆に暗い顔をしたのはUNDEADの乙狩アドニス。
「アドちゃんくん文句でもあるノ?」
夏目がその琥珀色の瞳をゆるく細め、アドニスの方を睨め付ける。夏目のアイドルらしく整った顔はそういう表情が一等似合う。ぬるい放課後の空気は簡単に張り詰めた。
「廊下を走るのは、良くない」
「確かに〜?」
そんな硬い空気を意にも介せず大真面目な顔でアドニスが言い、Knightsの朔間凛月が欠伸をしながら同調する。元々本気でもない、剣呑な空気がずるんと緩まった。
「じゃあ何処でやるのサ」
「鬼ごっこするのは確定なのね?」
不貞腐れて唇を尖らせる夏目を見やり、眉を下げて苦笑するのは凛月と同じKnightsの鳴上嵐。
「したいでショ、だっテ」
「その通りでござる鳴上殿!」
「ええ〜、めんどくさぁい」
「たまにはいいじゃねぇかリッチ〜」
「コーギーが言うならいいけどさぁ」
凛月と嵐はそこまで乗り気ではないものの、なんとなく全体が鬼ごっこの雰囲気になって。高校生男子なんてのは元々悪ふざけと悪ノリで生きてるようなもんなので。皆アイドルをやっているのだから体力面の心配もないし、目下の問題は会場だけ。
「もうESビルでいいんじゃね〜か」
「あそこ、いつも誰かしら走り回ってるものねぇ」
「…仕事の邪魔になるのではないか」
「うむ、あどにす殿の言うとおり。我等もあいどるの端くれとして節度ある行動を心がけねば」
「二人とも真面目だね〜」
「ア、なラ、夜なら良いんじゃないノ?皆退勤してるだろうシ」
「夜ぅ?警備ど〜すんだよ」
「思い出したんだヨ」
皆、一人足りないと思わなイ?
「いや……」
「…あ、もしかしてマヨイちゃん?」
「その通リ」
「いやわかんね〜よ、あいつ一回も授業来たことねぇじゃね〜か」
晃牙が呆れたように言う。実際その通りであった。進級して早々窓際の一番後ろに追いやられたマヨイの机には入学した四月からこちら誰も座ったことがないし、もう既にそこに誰もいないことが平常運転になっていたので。盂蘭盆会で関わりのある夏目はともかく、嵐が覚えていたのが奇跡というレベル。
「怪人くんなら秘密の抜け道を知ってるから鬼ごっこが面白くなるシ、それにビルのマスターキーを持ってるはずだしネ」
「ギザ歯ヤロ〜足速え〜しなぁ」
「そうなノ?楽しみだネ」
「…しかし、逆先殿は礼瀬殿がどこにいるのか知っているのか?」
「………それハ、今から考えル」
「先輩達!マヨイ先輩ならおそらく星奏館に戻っていると思うよ!!!」
「ちょっとォヒロくん声おっきい!」
話し合いの停滞。薄い沈黙がそこらを覆い、凛月あたりが帰っていい?などと言い出す数秒前、響いたのは重く眠い空気を吹き飛ばすようなラッパに似た声。