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    つくね

    @gl_fo3

    ボツ、表で出すとよろしくないものなど
    i:あめだまメーカー様

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    つくね

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    某小説に影響受けすぎなのとずっと放置されてたので一旦ボツになりました リメイクの可能性はある

    夏目とマヨイのホラー
    午前七時五十五分、三年B組

    夢ノ咲学院三年B組。まだ朝早く、朝練が早めに終わった生徒くらいしかいない教室。透明の朝陽が差し込むごく普通の平和的学校生活で、
    しかし怪人と呼ばれた彼、礼瀬マヨイだけが異質だった。
    異質、といってもイジメなんかで言われる『浮いている』という程度のものではない。というかむしろ変人だけで構成されているような学院で、マヨイは変わっているという点では没個性である。

    彼は肉塊を抱いていた。

    その内臓が総て入っているのか定かでないほど薄い腹と、手で掴んでも余裕がある細い腕に彼の頭と同じくらいの赤く濡れた塊を張り付かせて、彼は登校してきたのだ。学院指定の青いブレザーには濁った赤の模様。
    それは腐り落ちかけていた。それは謎の液体を滴らせていた。それは奇妙に脈動していた。それは、まるでマヨイには存在しない胎の中に入ろうとでもするかのように蠢いていた。
    マヨイはそれを後生大事に抱えて、窓際の一番後ろにちょんと座っていた。教室の後ろの入り口からそこまで、板張りの床に点々と濡れた跡。

    その大変グロテスクでともすれば宗教画のようとも言える光景を教室の前の入り口で目の当たりにした夏目は、面倒ごとの気配を察知してどうしたもんかとたっぷり五分間悩んでから普通に自分の席、マヨイの隣に座った。液体が机と椅子にかかっていないか入念に確かめることも忘れない。

    そして速攻の後悔。近くで見ないとわからなかったが、マヨイの腹とワイシャツには拳がひとつ通るくらいの穴が空いていたので。骨も内臓もない、向こう側が見通せる穴。側面は肉塊と同じ液体で濡れ、朝日を反射しぬらぬら光っている。何なんだ、冗談か?タチの悪いドッキリ?馬鹿じゃないのか。ということは抱えてる肉塊は自らのもの?それにしてはまあ悍ましい形、穴と大きさも合わないが?

    「…おはよウ、怪人くん」
    「ぁ、夏目さん」

    おはようございます、とマヨイが困ったように笑う。やっぱり夏目さんはこれ、見えるんですねぇ。ひとの世界の理から片足外れたまま、彼のユニットと同じ色の瞳が出会った頃よりは合うようになった視線を気まずげにわざとらしく逸らした。

    「痛くないわケ?」
    「ええ、不思議と」
    「まァキミが変な風になるのは今に始まったことじゃないけどサ、もうちょっと危機感もちなヨ」

    夏目が呆れたように頬杖をつく。虎猫を思わせるきんいろの眼が不機嫌そうに細められた。

    「最近はお寺の方に頂いた塩を舐めてから寝ているんですけどねぇ…この子にはどうも効かなかったみたいで」
    「あっソ…それなんかの怪異なんダ?なんでそのまま登校してきたノ」
    「真白さんにそこまで見送られてしまったので…」

    そこ、とマヨイの手が階段の方を指す。友也は自らを普通と称すが、所謂オカルトにはとことん鈍い。マヨイに女の霊が憑いていようが異形のモノと話していようが全く動じないし見えてもいないというのだから相当なものだ。何にも見えない彼がご丁寧にいろいろくっ付けたマヨイを教室まで連れてくるので、なんだかんだ巻き込まれる夏目にとっては良い迷惑である。まあ仲良くやっているようで何よりだが。しかし、朝陽に照らされた生白い腕が緑と赤と紫を混ぜたような色で濡れているのはいただけない。夏目だってホラーやらオカルトが嫌いなわけではない。むしろ好きだが、怖い話は夜更けにやるべきであり、朝にするのはちょっとばかり場違いであるので。

    「解決法」
    「わかりませんねぇ」
    「呑気だネ…そんな風に液体垂らしてテ、不便じゃなイ?」
    「一定以上離れると消えるみたいですし…廊下、綺麗だったでしょう?」
    「そういう問題じゃないんだけド」

    すみません、と最早口癖のように言ったマヨイが肉塊の上に手を戻す。ぐちゃりと分かりやすく嫌な音がしたので夏目は苦虫をダース単位で噛み潰したような顔をした。

    「部屋に置いて来ればよかったのニ」
    「あ、そうですねぇ。確かに」
    「寝ぼけてんノ?」

    そのまま授業受けるわケ、と言いかけて。古びて音質のひどいスピーカーからキン、と薄いハウリング。隣の紫がびくつき、それに導かれるように時計を見やると長針はいつの間にやら半周していた。クラスメイトも既に大体全員揃っている、その中でも霊感がある奴らは遠巻きにこちらをチラチラ伺っている。
    予鈴だ。



    きぃん、といつも通りに録音されたチャイムが流れだす。いつも通りに、
    あれ、と言ったはずだったのに声が出ない。

    次の音が鳴るまでひどく時間がかかった。
    頭の中を直接ざらざら削られるようなノイズが、どうして、それに共鳴するように哭いたその肉塊が、ちょうだいよ、ぜんぶ。笑う。笑う。顔のパーツなんかひとつもないのに。その代わりにすこんと抜け落ちたようなマヨイの表情。食い破られたような腹の穴。
    痛い?窓の外には赤紫の空。
    心だけは焦るのにからだが動かない。
    マヨイの腹に開いた穴が一瞬すごく大きくなった気がして、張り付いた肉塊が赤子のかたちをしていた気がして、少年の顔をしていた気がして、ああでも大人の腕にも、老人の脚にも見えた、それが。

    こちらを向いたような気がして。







    どうして気がつかなかった?
    その声は夏目のもの。


    こぉん、かぁん、こぉん。突然にチャイムの残りの音が鳴った。



    急に気温が上がったようだった。否、夏目の体温が下がっていただけだ。ひどく汗をかいていた。窓の外は真夏の青空。きっと自分は青ざめているのだろう、元凶のマヨイが心配そうにこちらを伺ってくる。彼の膝のうえに垂れた肉塊はただの肉の塊でしかなく、いや、心なしか大きくなっている?彼の胴体の穴も?

    心臓がうるさく早鐘を打つ。





    午前八時四十分、秘密の部屋

    夏目は結局、マヨイと共に今日の授業を諦めた。マヨイ本人は大丈夫ですよぉ、と呑気にのたまっていたが、どう考えても放置しておくのは悪手だったので。とりあえず、と肉塊を引き剥がして液体を拭き取り、じっとり濡れた服を着替えさせる。ぬめぬめしていて最悪だった。夏目のシャツでは若干小さいだろうが、まあ些事である。胴の穴にも包帯を巻いたからこれである程度は綺麗なまま保つだろう。

    「…それデ?何してんノ」
    「抱っこ紐を作った方が楽かなぁと…」
    「頭ぶつけタ?」
    「先ほど走ったときに何度か落としそうになってしまって」
    「ここに置いてけばいいでショ」
    「この子私と離されて泣いてるんですよぉ…」

    マヨイは何やら脱いだシャツに細工をしていた。道すがら訥々とソレがどんな風になったか話して聞かせていたのに、この期に及んでまだ肉塊を連れ回すつもりであるらしい。泣いているとかいう情報はもう本当に聞きたくなかったし、この子なんて呼び方もしないでほしかった。頭が痛くなる。

    「ボクのシャツ汚さないでヨ」
    「洗濯してお返ししますので…」
    「汚すなって言ってるんだけド?」

    勝手に壁を割って取りつけた水道でざかざか手を洗いながら、夏目は解決法を考える。
    『よくわからないもの』への対処は、場数も踏んでいるしできる方だとは思うが…今回に関してはあまりに情報が少ない。今までは八尺様だのさとるくんだのといった比較的メジャーな奴ら(もしくは適当な呪文と蓮巳謹製の塩で消し飛ぶ弱い奴)だったので朧げな記憶を頼りに何とかやりきったが、本当に全く何も分からない上にまあまあ強そうな奴は困ってしまう。下手に弄って悪化したら最悪である。割を食うのはマヨイだ。

    「塩でも塗り込んでみル?」
    「…ちょっとお料理すぎませんか」
    「言ってみただケ」
    「胡椒ならありますけど…」
    「………ダメ元でやってみようカ」
    「駄目ですこの子無駄だって」
    「なんで会話できるノ?てか本人(?)が無駄だっていうなら効くんじゃなイ」
    「あ、確かに………っひ、、いったぁ…」
    「痛覚共有してるんダ…」
    「やっぱりこの子私のお肉なんですかねぇ」
    「その言い方やめロ」
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    つくね

    MOURNING誕生日小説と同時に書いてたら影響受けて流れがド被りしたのでボツになりました かなしい
    てのひらをあわせる「マヨさんさァ、最近全然ご飯食べてなくない?」
    「フム…マヨイ先輩はいつもあまり食べていないみたいだけど、最近は特に、だね」
    「このままでは体調を崩してしまうかもしれません…心配ですな」
    「じゃあさ!おれに、考えがあるんだけど」



    『マヨさんに朝ごはんと昼ごはん、たくさん食べさせてあげてくれませんか?』



    あさごはん、ふかふかパンケーキ

    じゅう、熱されたフライパンから小気味良い音が鳴る。
    砂糖と、卵と、小麦粉と、牛乳を混ぜた甘い匂い。午前七時の共有スペース、運動部のひとたちは朝練でもう寮を出ているし学校がないひとはもう少し寝ていようかという半端な時間。目の前には空っぽの白い皿。それと、ガラスコップのなかのオレンジジュース。テーブルの真ん中に置かれた花瓶に生けられているピンクと黄色のガーベラ。キッチンでジャグリングのように何枚もパンケーキを焼いているのはエプロン姿の日々樹渉。そこに何人かが皿を持って並ぶ。まるで絵本の中みたいな“あさごはんのしたく”で、優しくて暖かくてしあわせだから消えてしまいたくなる。
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