たなばたさま「さーさーのーはーさーらさらー
のーきーばーにーゆーれーるー
おーほしさーまーきーらきらー
きーんぎーんすーなごー」
保育園で今日歌った曲を車の中で口ずさむ。
「「ごーしーきーのーたーんざくー
わーたーしーがーかーいーたー
おーほしさーまーきーらきらー
そーらーかーらーみーてーるー」」
2番はお迎えに来てくれたお父さんと一緒に歌った。お父さんと一緒に歌えて嬉しくて顔を合わせる。ちょうど信号待ちをしていてミラー越しに目があった。
「たなばたさまの歌ですね。今日は保育園で皆さんと願い事を書いたんですか?」
「うん!書いたよー!楽しかった!」
「それは良かったですね」
「お父さんもパパと一緒に願い事書こう?」
保育園で願い事を書いたんだけど、それとは別に各家庭にと保育園で小さな笹をいっぽん渡された。飾り付けは自分達したんだよね。折り紙を使ったり、絵を描いて紐をつけて括ったり楽しかったなぁ。その笹が私の足元に置いてある。
「雛さんは保育園でどんな願い事を書いたんですか?」
「んーとね…「アキちゃんと仲良くいられますように」だよ?…あっでもね?お家の笹につける願い事は「家族が元気でいられますように」にしようと思うの!」
「それは嬉しいですね」
「お父さんは何を書くの?」
「そうですね…ご飯を作りながら考えましょうか」
そんな会話をしながら我が家へと帰宅したのだった。
帰ってすぐに家にあるビニール紐を持ってベランダへ向かう。倒れない様に笹をくくりつけて手洗いうがいをしに洗面台へ。手を洗ってお父さんに見せたら、タオルでふんわりと包んでくれた。手を綺麗にしたら次はお着替えをしに自分の部屋へ。お父さんがいつもの部屋着を出した手を止めて少しだけ考えてるみたいだった。
「…??おとーさん?」
「…あっ…すみません…雛さん、今日は少し趣向を変えましょう」
「しゅこー??」
水色の生地にひまわりが咲いている。七海のおばあちゃんが送ってくれた甚平を出してくれたのだった。
「お父さん!似合う??」
「もちろん!似合ってます!可愛いですよ」
「……お父さんも浴衣か甚平さん着ないの?」
「……良いですね…ご飯の用意が終わったら着替えましょうか」
わーい!とバンザイしながら、はしゃいでしまう私をニコニコしながらカメラに収めていくお父さん。そんなお父さんの前に立って今晩のメニューを聞いてみた。
「今日はお素麺ですよ」
「お素麺!ちゅるっと美味しいやつー!」
「そうですね。美味しいやつですよ…そろそろ準備しましょう」
いつもの様に台所に立って料理をする。卵の割り方も上手になったと思う。レンジで錦糸卵を作って、きゅうりは細切り。トマトは薄切りにして…最後にお父さんが出してきたのは赤いウインナーだった。この間パパのお誕生日の時に使った残り物だ。
「お父さん、たこさん作るの?」
「んーたこさんも良いですけど、違うものにしましょう。雛さん、当ててみてください」
「わかった!」
赤いウインナーを縦に半分に切る。切った面を下にして丸くなっている端に小さく切れ込みを入れていく…なんだろう?
「…まだ分かりませんかね?」
「うーん??これでおしまい?」
「いいえ、これから少し火を通しますよ」
フライパンを出して少しだけ油を入れたら半分に切られた赤いウインナーを入れていく。しばらくすると小さく切れ込みを入れたところがプチプチと開いていった。
「!!お父さん!カニ!」
「ふふっ…わかりましたか?正解です」
「やったー!当たったー」
茹で上がった素麺を氷水でキュッとさせて手でギュッと絞って水分を抜く。洋食皿にパパ(大盛り)とお父さん(普通盛り)、私(小盛り)の素麺を分けていった。タレは2種類準備した。1つはレモン汁とポン酢に砂糖とごま油の醤油だれ。もう1つは煉ごまに醤油や砂糖、マヨネーズなど入れたごまだれ。よく見る冷やし中華の様にハムのゾーン、錦糸卵のゾーン、トマトのゾーン、あとはカニさんウインナーをさせて完成です。出来上がった素麺をラップをかけて冷蔵庫に。今日も暑かったからさっぱり美味しい冷やし中華ならぬ冷やし素麺で。パパが帰ってくるまで少しお時間があるから、その間にお風呂に。今日はお父さんとお風呂だー!
ワイワイ楽しくお風呂に入った後で着替えてちゃんと水分補機をしてる。さっきは水色のひまわりの甚平さんだったけど、今度紺色の花火の柄。これは伊地知のおばあちゃんが送ってくれた甚平さんだ。汗がひくまで1人扇風機の前を陣取って風に当たっていると居間の扉が開いてパパが顔を覗かせた。私の姿を見て一言。
「こら、扇風機を独り占めしない」
「あっ!パパ!お帰りなさい!」
「誰ですか?お父さんだって暑いのに扇風機の前を陣取っている子は?」
「…私でーす…暑いんだもん…」
「建人さん、良いんですよ。私は団扇がありますから」
「…潔高は雛に甘いですね」
「…建人さんほどではありませんよ」
「フー…2人ともただいまです」
「「お帰りなさい」」
「お風呂先にいただきます。それからご飯にしましょう」
「着替えは準備しますからそのまま入ってくださいね」
「潔高、ありがとう」
「パパ、いってらっしゃーい」
パパは私の頭をポンポンっとするとお風呂へ入っていった。
お風呂からパパが帰ってきた。居間に入ると一言
「ふぅ…涼しいな…」
私を抱えて扇風機の前を陣取っていく。
「パパ!さっき怒ったのにー?」
「コレは良いんです。何せ1人で陣取ってません」
パパに後から抱き抱えられて背中が熱い。目の前は扇風機の風。背中がじんわり熱い…汗をかきそうになった私に気がついたのか今度は向かい合わせでハグをする。お風呂上がりだからか石鹸とパパの匂いが混じってる。思わず抱きついた所で「ぐぅ」私のお腹が鳴ってしまった…
「…雛さん、建人さん、晩ご飯にしましょう」
「えぇ」
「…はーい…」
パパはチャコールグレーの生地にターコイズ色ストライプの柄。お父さんはパパと同じチャコールグレーなんだけどストライプの色がオリーブ色らしい。今日は3人とも甚平さんで晩ご飯を食べるんだけど服装がいつもと違うだけでこんなにもワクワクするのかと興奮を隠せない私。いつもは手伝いをするのに、服が汚れると困りますからとお父さんに断られてしまった。残念だ。次の機会だなぁ…
3人でいただきますをして冷やし中華風素麺バージョンを食べる。お素麺が冷えてて美味しい…お父さんに取り分けてもらった素麺の量で私はお腹いっぱいになったけど、パパは足りなかったのかもしれないね。多めに茹でた素麺はほぼパパの胃袋である。
「「「ごちそうさまでした」」」
手を合わせてごちそうさまをする。片付けをした後お父さんが折り紙で作った短冊を持ってきてくれた。
「今日は雛さんの保育園から笹をいただきました。みんなで願い事を書きましょう?」
1人一枚づつは少ないので書けるなら2枚で…と我が家の勝手なルールが発動。願い事を1つしか考えてなかった私は少しだけ頭をひねってしまう。
「雛さんは書けましたか?」
保育園で最近硬筆を習っているから平仮名なら書けるようになったんだよ〜!
「うん!1個はかけた!」
『かぞくで なかよく げんきに くらせますように』
私の書いた短冊を見せるとパパもお父さんも嬉しそうに笑ってくれた。パパはというと
『雛の願い事が叶いますように』
『潔高の願い事が叶いますように』
と書いてある。お父さんも
「雛さんの願い事が叶いますように』
『建人さんの願い事が叶いますように』
と書いてある…私は余ってある短冊をスッと2人に差し出して
「パパ、お父さん、自分のお願い事を書いてね?やり直しです」
やり直しをお願いしたのだった。
その後3人とも悩みながらお願い事を書いてベランダに置いてある笹の葉にくくりつけた。
お外はやっぱり生温くて汗をかきそうになる。空を見上げても星は中々見えないけれどお空の上で織姫様と彦星様が仲良くしてるんだろうか…?してたら良いな…
「さーさーのーはーさーらさらー」
私がぼんやり歌い始めると
「「「のーきーばーにーゆーれーるー
おーほしさーまーきーらきらー
きーんぎーんすーなごー」」」
家族3人で合唱になった。パパが手を上げる
「すみません…2番の歌詞がわかりません」
3人目を見合わせて笑っちゃった…