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    yukikeri3

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    yukikeri3

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    新刊の原稿に書いてたけどたぶん消す未来主と若にるの出会い編

    その時ニールは死を覚悟していた。だがそれは誰のせいでもない、身から出た錆というやつだった。

     それまでのニールにとって、身の回りの物事が退屈で仕方がなかった。せっかく入学した名門大学も半年ほどでフェードアウト。好奇心の赴くままに裏街道を渡り歩いていたら、いつの間にか良くない連中の使いっ走りになっていた。いわゆるマフィアと呼ばれている連中だ。
     ニールはそこで鍵開けの技術を覚えた。もともと物覚えがよく頭が回る。ありとあらゆる防犯システムやアナログから電子に至る鍵の構造。あっという間に精通するまでになり、悪い連中からは便利に使われた。
     いわゆる下っ端だったが、それはそれで楽しかった。言われるがままに鍵を開け、システムをハッキングした。それによって何が盗まれようと誰が死のうと関係なかった。
     そのツケが今、回ってきたのだ。

     組織同士の対立抗争に巻き込まれ、銃撃戦の真っ只中にニールはいた。今までは鍵を開けて小遣いをもらえばそれでおしまいだったのに、今回はそうはいかなかった。ニールがこじ開けたのは、敵対組織が資金を貯め込んでいた大型金庫の鍵だった。だがこじ開けた金庫の中からは大金ではなく、銃を構えた敵対組織のメンバーが待ち構えていたのだ。どこからか情報が漏れたのだろうか。身内にスパイがいたのかもしれないが、ニールが窺い知れるレベルの話ではない。とにかく最悪の事態だった。
     誰よりも銃口の近くにいたニールは、最初にに肩を撃ち抜かれた。だが丸腰だった分逃げるのも速かった。とっさに金庫の扉に隠れる。すぐさま分厚い金属の壁の向こうでマフィア同士の銃撃が始まった。
     見つかるのも時間の問題だ。これは死ぬな。そう思った。
     死ぬ前には今までの人生が走馬灯のように浮かぶという。楽しかったこと、世話になった人たち。だが今のニールの脳内に過ぎるのは碌でもない記憶ばかりだ。僕の人生つまらなかったな。こんなことなら素直に大学に通っておけばよかった。まあでも、生き延びたとしてもきっと同じことの繰り返し。それならいっそ今、死んでしまった方がましなのかもしれない。
     出血で朦朧としながらそんなことを考えていると、今までとは明らかに異なる重火器の爆破音がずしんと鼓膜に響いた。一瞬後、爆風に目を塞がれる。何が起こった? キーンと鳴る耳に、爆破されたコンクリートの破片がパラパラと落ちる音が別世界から聞こえてくる。
     直後、ガラガラと瓦礫が崩れ落ちる音と共に、複数人がドカドカと侵入する足音が聞こえてきた。ファック! マフィアの怒声。銃声が鳴り響く。だがそれもしばらくして聞こえなくなり、横たわっているのであろう男達の呻き声に変わった。
     金庫室、制圧! 爆煙の向こうから凛とした声が聞こえてきた。マフィア連中のものとは違う、訓練された人間の発声だった。警察の特殊部隊だろうか。ただのマフィア同士の小競り合いに、ここまで大きな部隊が投入されるなんて聞いたことがない。普段なら精々地方警察が関の山だ。
     このままでは自分も殺される。頭をフル回転させて退避ルートを模索する。さっきまで死を覚悟していたくせに、滑稽だ。だがド素人のニールに名案など浮かばずはずがない。やけっぱちで扉の裏から駆け出したニールは、数秒後には何丁もの銃を突きつけられハンズアップをしていた。


     警察病院で治療を受け拘置所に移送されたニールは、重要参考人として検挙されたものの組織に所属していなかったこと、重要機密を知らなかったことなどが幸いして重い罪には問われずに済みそうだった。だがしばらくは拘留され、裁判を待つ身であることには変わりはない。
     そんなニールのもとに保釈の知らせが入ったのは、拘留所に移送されて一週間ほどしてからのことだった。
    「僕が保釈? どうして」
     思わずそう訊ねたが、必要最低限のことしか話さない刑務官からは保釈金が支払われ正当な手続きがされたからだという答えしか返ってこなかった。当然のことながら保釈金のあてなどなく、ましてや弁護士との面会すらまだ済ませてもいない。不可解な気持ちを抱えつつも、拒否をする理由などひとつもなかった。
     事務室で書類にサインを済ませると、入る時に没収された手荷物と服が返された。案内された更衣室で着替えると、拘留所の外に出る。久しぶりに浴びる陽の光が眩しくて目を瞬かせながらこれからどうしようかを考えていると、一台の高級車がニールの目の前に音もなく停まった。
     お偉いさんでも来たのだろうか。邪魔にならないように避けようとしたニールの前で助手席のドアが開く。
    「乗れ」
     呆気にとられているニールに、運転席の男が言った。ドイツ製の高級車に似つかわしくない、髭面で軍服を着たサングラスの男だった。あの日金庫室でマフィア達を制圧した特殊部隊を思い出し、身構える。
    「誰かと間違えてるんじゃないかな」
     牽制するように言うと、男はサングラスをずらしてニールを一瞥した。
    「いや、お前だ。ニール」
     向こうは自分の素性を知っているようだ。もうこれは逃れようがない。逃げだそうとすればまた先日みたいに銃口を突きつけられるだろう。こういう輩はここが拘置所の前だろうとお構いなしのはずだ。さすがに何年も裏社会とつきあいがあれば、それくらいは理解できる。
    「……わかったよ」
     ここは抵抗しない方がいいと踏んだニールは、恐る恐る高級車の助手席に座った。革張りのシートは初めて経験する快適な座り心地だったが、それを堪能する余裕などない。車は静かに走り出す。運転席の男は黙って車を郊外へと走らせる。通った道を忘れないように注意しながらニールは男に話しかけた。
    「ねえ、あんた達、僕に何の用?」
    「どうして一人じゃないと思った」
     質問に質問で返されて、ニールはムッとした。だがこの状況で無駄に反論することは得策ではなさそうだ。
    「あんた、金庫室でマフィアを制圧した部隊のひとりだろう」
    「何故そう思う」
    「マフィア同士の小競り合いにあんな大規模な部隊が出てくることなんて例外だ。何か訳ありだと思ったんだよ」
    「その『訳あり』が自分だと?」
    「全く心当たりはないけれど、状況からみるにそうかもね」
     両肩を上げてみせると、男は「なるほどな」とだけ言ってまた無言になった。
    「で、僕の質問への答えは?」
     どうせ答えやしないだろうと思った質問は、案の定無視された。ニールは肩をあげて「だよね」とだけ言った。車はどんどん山奥へと入っていく。もうここまで来ると標識も民家や店もなく、道を記憶しようにもお手上げだ。殺すつもりならもうとっくにやられているだろう。きっと別の用事があるに違いない。例えば鍵開けとか。そういう頼み事だけで終わればいいのだけど。絶対そうはいかないだろう。
     もうどうとでもなれ。ニールは隣のいかつい髭面を盗み見て目を閉じた。どこに連れて行かれるのか分からないのならば、いっそ眠った方がましだ。


    「おい、着いたぞ」
     男の声で目を覚ます。欠伸をしながら窓の外を見ると、巨大な白い建物が森の中に聳え立っていた。建物には軍事要塞に使われているような大型のアンテナがいくつも備えつけられている。衛星通信傍受用のアンテナにレーダー受信機、電波妨害用のアンテナ。ニールの知識で分かる範囲だけでもそれだけ揃っている。長閑な環境に似つかわしくない、異様な光景だった。
     男に続いて車から降りる。腕時計で時間を見ると拘置所で車に乗ってから二時間ほど。街中から二百キロも離れていないこの場所に、こんな施設があったとは。国家レベルの軍事情報をハッキングしたことはあったが、こんな施設の存在は記憶にない。警察組織や軍でなければ諜報機関のそれとしか思えない。これはとんでもない場所に来てしまった。そう直感した。
    「行くぞ、何をぼーっとしてる」
    「いや、帰ったらグーグルアースでここを探してみようかなって」
    「ここから帰れるとでも思っているのか」
    「パパとママが心配してる」
    「お前のパパとママは十五年前に死んでいるし、里親とも音信不通だろう」
    「わお、そこまで調べてるんだ」
     これは一筋縄ではいかなそうだ。こいつらが自分に何を期待しているのかは知らないが、こんな場所に閉じ込められるくらいなら、あの場で殺されていた方がましだった。
    「まあ、そんな顔をする前にボスに会っておけ」
     言われなくても君たちはそうさせるんだろう? 疑心暗鬼になりながら施設へと向かう男の後を追う。ここで逃げ出したら蜂の巣にでもなるんだろうかなんて考えながら。
     施設に足を踏み入れる。近年建てられたと思われるそこは意外にも人の気配に溢れていた。大きな図面を抱えて歩く白衣の女、議論しながら歩く軍人風の男女が広い玄関ホールを横切るのが見える。
     ニールの前を広い歩幅で歩いていく男に軍人風の一人が声を掛けた。
    「アイヴス。それが〝例の〟か」
    「ああ、そうだ」
     例の、というのが自分のことなのだろう。軍人風の女の方が無遠慮に覗き込み「なるほどな」と口角を上げた。不躾というか馴れ馴れしいというか。ちょっと独特の雰囲気のある連中だということだけは理解できた。そして、自分を連れて来た男ががアイヴスという名前だということも。
    「ボスがどんな顔をするか見ものだ」
    「泣くかもしれんな」
     アイヴスと女の軍人がそんな軽口を叩く。泣く? ニールにはここのボスになるような知人はいなし、ましてや自分を見て泣くような人物にも心当たりはない。
    「ねぇ、それってどういう意味だい?」
     思わず会話に割って入ると、二人は目を合わせて笑い出した。
    「なかなか度胸が据わってるじゃないか」
    「だろう? 面白そうだ」
     一向に疑問への明確な答えをもらえないニールは段々腹が立ってきた。普段はあまり怒りを表す方ではないが、さすがに堪忍袋の緒が切れた。ニールは思いっきりアイヴスの脛を靴の踵で蹴り上げて全速力で走り出した。
    「ツッ! クソッ、この野郎!」
     怒声をあげるアイヴスから逃げながら振り返ると、腰を落としてアスリートのように走り出すのが見えた。あ、これは絶対すぐに追いつかれる、と思った瞬間、誰かにぶつかる。突き飛ばして相手もろとも転がるかと思いきや、衝撃を吸収するかのように重心を反転させながら抱きとめられた。
    「これはなかなか、跳ねっ返りだな」
     耳元で聞こえた低い声にハッとして振り返ると、カラメルソースのような瞳が間近に見えた。キッチリと着こなした三つ揃えのスーツに、丁寧に刈り揃えられた髪と髭。アンバーの微笑んだ口元から白い歯が少しだけ覗いている。ニールよりも少し背は低いが、がっしりとした体躯。不思議な迫力に気圧されて、ニールは思わず後ずさった。
    「ボス、すみません」
     アイヴスが後を追ってくる。どうやらこの不思議な男がニールを見て泣くかもしれないと言われた〝ボス〟らしい。
    「どうせホイーラーと彼を揶揄ったんだろう」
     図星を突かれたアイヴスは、ばつが悪そうに頭を掻いている。さっきまで偉そうだったのにいい気味だと薄ら笑うと、じろりと睨まれた。
    「怪我はなかったか」
     ボスと呼ばれた男に矛先を向けられて、ニールは小さく「すみません、大丈夫です」と謝った。目線を上げるとまた、男と目があう。彼らが言ったとおり自分を見て泣くのだろうかと思ったが、それはなさそうだ。ただ、圧迫感ある瞳のの奥にほんのすこしだけ、優しい視線を感じた気がした。
    「君がニールだな」
     差し出された手に恐る恐る自分の手を重ねると、強い力で握り返される。自信に溢れた人間がする握手だ。
    「何故自分がここにいるのか分からない顔をしているな」
    「当然です。一体ここは?」
    「君の力を借りたいんだ」
    「あなた達の役に立ちそうな力なんて僕にはない」
    「今はそうかもしれない」
     全くもって話にならない。ニールが呆れているのが分かったのか、ボスと呼ばれた男は苦笑して「着いてくれば分かるさ」と歩き出した。
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