バンカラ祭 エンガワ河川敷の舗装されたアスファルトを文字通り埋め尽くす人出に、この世にはこれほどの人が存在しているのかとユズキは一周回って感心する。遠くからでも充分見られるほど大きな花火を、間近で大切な家族や友人と見ることをここにいた全ての人が楽しんでいた。一箇所に大勢が集まると大変なのがこの帰りで、河川敷を出る人たちが狭い道に行列を作っている。警備服を着たクラゲが自分の頭にも負けない大きさのメガホンを担いで必死に何かを訴えていた。花火を打ち上げる音はとうに止んで久しい。
バンカラ街の団地に越してくる前のユズキであれば、クマサン商会から家までの帰り道か、部屋のベランダから僅かに見える分だけで満足していただろう。わざわざ人混みに揉まれてまで行く人の気が知れないとすら思っていたのに、どういう風の吹き回しか彼女は今河川敷の土手に座って人々の流れを観察している。
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