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    夢斗(ゆりいか)

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    POIPOI 32

    🦑/タイトルが決まらないけど書き上げてどっかに載せるまで寝られないフェーズに入っちゃったので投稿します!!!(やけくそ) ※23/07/31改題、加筆修正

    #スプラトゥーン3
    splatoon3
    #マイイカ
    #マイタコ
    #マイタコイカ
    #クマサン
    ##文

    Irreversible バンカラ街に変わらず広がる澄んだ青空と照りつける日差しを、今日ばかりは恨めしく思いながらユズキは足を引きずるように帰宅した。
     思い返せば朝起きたときから何となく体全体が重いような感覚はあったのに、気のせいだろうとスルーしてバイトに向かったのが良くなかった。体調を崩すことが滅多にないので完全に油断していた。初めは問題なくクリアできたもののクマサンポイントが1200に到達する頃にははっきりと熱っぽさを感じ、クマサンに相談して昼前でバイトを引き上げることになた。
     街の空間を埋め尽くすように並ぶマンションの一画にユズキの部屋はある。愛用しているバンカラコロンを脱ぎ捨て、窓際にたたまれた布団を広げてすぐに飛び込む。狭いワンルームには、三年ほど続けているバイトの報酬ギアが詰め込まれたクローゼットの他は最低限のものしか置いていない。自炊はしないのでキッチンはきれいなままで、小さな冷蔵庫に入っているのは賞味期限の切れた調味料と飲み物くらいだ。
     窓から入ってくる風が、締め切った分厚いカーテンを微かに揺らす。空気が乾燥しているので気温ほどの不快感はない。
     熱と倦怠感に加えて頭も痛くなっていた。横になるといくぶん楽だが、眠くはないので手持無沙汰に寝返りをうつ。ふと、ここに越してくるときに会ったコジャケのことを思い出した。
     あのとき――電車の隣の席で外を流れる景色を眺め、同じ駅を降りて街に入ってから、コジャケはそのままユズキと別れて一匹で街に溶け込んでいった。バトルで勝敗を判定するネコのように、外で気ままに暮らす道を選んでくれたことはユズキにとっても救いだった。これまで金イクラを奪うために無数のシャケを倒してきたのに、面倒を見て下手に懐かれでもしてしまったら、目の前のコジャケにどんな顔をしていいか分からない。
     とはいえ、一人で何もせず過ごす時間はひたすら退屈だった。もし今そばにコジャケがいてくれたら――。都合の良い考えに思わず嘲笑が漏れる。外は暑いが元気だろうか。通りがかるイカやタコから食べ物を分けてもらったり、日陰で涼んだりして強かに生きているのだろう。
     せめてクラゲが観察できたらと起き上がって外を見たが、視界にはマンションが並ぶばかりで高層ビルの窓清掃に従事するクラゲの姿もなかった。一人でいることにはとっくに慣れているのに、具合が悪くなっただけでこんなに心持ちが変わるとは思わず、ユズキは困惑した。
     そういえば帰りに買った薬を飲んでいなかったと思い出し、流しに向かう途中で足元がふらついた。やっとの思いでコップに水を出し錠剤を流し込む。熱を出して不足していた水分が体中に行き渡る感覚があった。再び布団に戻り、ただただ睡魔がやってきてくれることを願った。少しでも早く意識を落としてこの風邪を直したかった。

     ごろごろしているうちにいつの間にか寝ていたらしい。日が暮れてきた頃、玄関からノックの音がして目が覚めた。熱とだるさが未だに残る体を引きずってドアを開けると、タコガールがスーパーの袋をドアノブに提げようとしていた。ゼリー飲料やエナジーバーなど、すぐ食べられそうなものが雑多に入っている。
    「先輩」
     ユズキに先輩と呼ばれたタコガール――ササキは商会で知り合ったバイト仲間であり先輩だ。ユズキと同じようにいつも一人で来ていた彼女とはすぐに顔馴染みになり、時間が合うと一緒に現場に向かうようになった。
    「起こすと悪いと思って」
    「ありがとう、とても嬉しいよ。治ったらお礼は必ずするから」
     思わぬ友人の来訪にユズキは動揺していた。まず、ササキとは家の場所どころか連絡先すら交換していない。お互い商会にいる時間が長いし行けば大抵会えるので必要に駆られることがなかった。恐らくはクマサンにでも聞いたのだろうが、わざわざそこまでして来てくれたことが、申し訳なさと嬉しさでユズキは自分でも感情がよく分からなくなった。
     ただ素直になればいいだけの話なのに、なんとなく恥ずかしくて平気なふうを装って応じてしまう。
    「……調子はどう?」
    「熱はまだあるけど、朝よりは少し楽になった」
    「元気になったら、また一緒にバイトしよう。お大事に」
    「ああ、また商会で」
     言葉を交わし、手を振ってササキを見送る。部屋に戻って改めて袋の中身を見て、ユズキはようやくお腹を空かせていたことに気付いた。自分のインクと同じ水色のスポーツドリンクとエナジーバーを胃に収める。単に胃が膨れるだけではない何かも一緒に満たされていくような気がした。 

     一日ぐっすり寝て起きた頃には熱も下がり、症状もほとんどおさまっていた。ユズキはいつもよりかなり遅い時間に家を出て商会へ向かった。あと一晩様子を見てもよかったかもしれないが、そろそろ外に出ないと体は元気になっても気が滅入る一方だった。
     日中カンカンと照りつける太陽は傾き、建物が長い影を落としている。空気が乾いているおかげもあって過ごしやすさが格段に違う。
     変わらずクーラーボックスの上に鎮座するクマサンに、ユズキはさっそく昨日のことを確認した。彼は勝手に住所を教えたことを詫びた上で、ササキが誰かを探している様子だったから声を掛けただけだと答えた。
    「後のことはすべて彼女自身の判断だよ」
    「……?」
     その言葉の意図するところを掴みかねていると、シフトを終えたササキが屋上から戻ってきた。
    「体はもういいの?」先輩の方もユズキが来ているのに気付くと、花が咲いたような笑みを浮かべた。
    「ああ、おかげさまでよくなったよ。それで思ったんだが、」
     先輩の連絡先を――そう続けようとした言葉に、ササキの声が重なった。お互いに同じことを言おうとしたことに気付いて、同時に笑い声が漏れた。
    「ユズキはこれからバイト?」
     クマサンと話し、ササキとも無事に電話番号とメールアドレスを交換したユズキは、今日商会に来た目的は既に果たしていた。シフトに入るのは明日からでもいいだろう。
    「なら、一緒にご飯にしない? ……快気祝いっていうんだっけ、こういうの」
     断る理由はなかった。とはいえ誰かと外で食べることがないユズキには行き先のあてがない。商会を出て街を歩きながら、適当な定食屋でも探すかと思ったところでササキから提案があった。ご飯が美味しくて一人でも入りやすいお気に入りの居酒屋があるという。ユズキは興味本位で試したらひと口で気持ち悪くなって以来お酒は飲んでいないが、それは言わずに誘いに乗った。

     エプロンをした店員のクラゲに案内されて二人掛けのテーブル席に座る。木目調で統一された和やかな雰囲気の店内は、バトルやバイト上がりの人たちでほどよくにぎわっていた。
    「ごめん、ユズキが飲めないの知らなくて」
     注文を決める段になってユズキはようやく事実を打ち明けた。
    「居酒屋の雰囲気が好きなんだ。でも一人じゃ入れないし、滅多にない機会だからさ。気にしないでくれ」
     それも間違いではないが、正確にはササキの好きなお店がどんな場所か興味があった。後ろめたさに俯く彼女を見ながら、わざと伏せたのは自分なのだから気にすることはないのにとユズキは思う。
     少しして、頼んだ飲み物と一緒に小鉢にのったお通しが出された。ササキが注文したものはダブルカルチャードという名前の、麦の一種を原料にしたお酒を乳酸菌飲料で割ったカクテルだ。ユズキは烏龍茶を飲みながらお通しの酢の物を箸でつついた。
    「元気になってよかった。何日も来なかったらどうしようって」「商会に行ったらユズキがいるのが当たり前になってたから」
     お酒の入ったササキは、比較的無口な彼女にしては随分とおしゃべりだった。本音を話さないことにかけてはユズキも引けをとらないが、ユズキと違って口に出す言葉そのものが増えている。 
     どうも思っていた以上に心配されていたらしい。気にかけてもらっていることをユズキはありがたく思うと同時に、そんな先輩の様子を興味深く見ていた。もしお酒というものに耐性があったなら、自分も飲めば何か変わっただろうか。 
     ユズキがメインで頼んだ食事が来る頃には、話題は昨日発表されたばかりのフェスのお題のことになっていた。
     人生において重要なものは、富か名声か、それとも愛か――。愛かなと呟いたササキに対して、ユズキは持ち前の気楽さでやはりお金ではないかと答えていた。
    「こっちに来て報酬が変わったけど、向こうにいた頃にたくさんゲソを稼いだおかげで今の生活に困っていないといっても過言ではない。程度が過ぎれば毒になるのはどれも変わらないだろう?」
     焼豚がごろごろと入った炒飯に舌鼓をうちながらあっけらかんと言うのを、ササキはどこか羨ましそうに見ていた。
     かつてササキはイカたちの街の地下に広がるエリアで暮らしていた。お世辞にも良かったとはいえない当時の生活がどのようなものだったかほとんど忘れてしまったが、友達と呼べる存在がいなくて寂しかったことは今でもよく覚えている。地上の世界に生活の拠点を移しバイトを始めた理由は他にもあるが、時間がかかっても心の許せる友達が欲しかったことは大きな動機の一つだった。
     ササキから見れば充分社交的なユズキはしかし自分と同様にいつも一人で、そのうえ一人でいることを楽しんでいる様子さえあった。彼女が無自覚に持っている強さがササキには理解できず、ただ眩しかった。 
     一方で、ユズキにはみんなのいう「愛」がなんなのかよく分からなかった。おカネはバイトでもらえるし、ユズキは詳しくないがみんなに人気のアイドルや誰もが知るアーティストは名声を得ている例だろう。愛だけが、彼女にとって抽象的で曖昧なままだ。
    「…………たぶん、ないと寂しいものだよ」
     人生で大切なものに愛を選んだササキに愛とは何かを問い、たっぷりと時間をおいて得られた答えはそれだけだった。デザートとして二人の前に運ばれてきたバニラアイスが溶け始めていた。
    「クマサンならどれを選ぶかな。やっぱりお金?」
     やわらかくなったアイスをスプーンですくいながら、この前の商会の七夕飾りに商売繁盛と書かれた短冊があったことをユズキは思い出していた。お金にがめつい印象はないが重要視していてもなんらおかしくない。なんならクマサンに愛についての講釈を求めてもいい。何にでも詳しい彼ならきっと答えてくれるだろう。
     ラストオーダーをとりに席をまわっている店員クラゲの姿が視界の隅にうつっていた。明日の夜一緒にクマサンに話を聞いてみようと話をして、二人は解散した。

     すっかり暗くなった帰路を、思い出さなきゃいけないのに忘れていることがあるようなもやもやを抱えながらユズキは歩いていた。飲んでこそいないが居酒屋の空気を存分に吸って浮き立った気持ちを、夜風がそっと撫でていく。
     先輩の「愛がないと寂しい」という言葉を聞いて以来、ユズキの中で何かが引っかかっていた。聞き慣れた低い声がずっと頭の奥で響いているのに、言葉は霧がかかったようにぼやけている。
    (クマサンが何か言っていた……?)
     バイトの現場において、目の前の索敵/処理/納品に集中しているユズキには、飛んでくる無線に意識を割く余裕がほとんどない。ただでさえ電波の状況によっては音声がノイズにかき消されることも珍しくないため、クマサンの話を聞くのが大好きな彼女もこのときばかりは頻繁に彼の声を脳内で素通りさせていた。どうしても思い出せないなら、きっとこのかんの出来事だ。
     深呼吸して、現場での記憶を反芻する。聞こえてくる声を、幾度となく網膜に焼き付けた光景を手繰り寄せる。
     暗闇を割くように照らすヘルメットのライト、
     足を掬わんと押し寄せる無数のコジャケ、
     己へと真っ直ぐ向けられた敵の狙いを示す赤い線、
     溢れんばかりのシャケをのせガタガタと音を立てて迫りくる戦車――――

     ――彼らもまた・・・、ひとりぼっちはさみしいのだろうか。

     言外に、しかしはっきりと、何より彼自身が孤独であることを物語っているその言葉は、まるで雷にでも撃たれたかのようにユズキの脳天を貫いた。
     突如、お酒を一滴も飲んでいないのに、胃の中のものが食道をせり上がってくるような感覚が湧き上がった。往来から向けられる視線も構わずその場にうずくまる。咄嗟に喉に指を突っ込んだものの、嘔吐いて唾液が垂れるだけだった。
     ユズキはこれまで、特定のコミュニティの一員にならないことを自ら望んで生きていた。バトルやバイトを楽しむ人、文句を言う人、他の何かに打ち込む人……街のみんなを俯瞰するのが性にあっていて、寂しいと思ったこともなかった。
     他者と個人的に関わった経験に乏しい彼女は、たとえ敬愛するクマサンが相手であっても(あるいは「だからこそ」かもしれない)、他者が抱える感情というものに思いを馳せたことがなかった。
     熱を出して一人で寝込み、側にコジャケでもいたらと夢想した、あの気持ちこそが「寂しさ」ではなかったか。布団の中で苦痛と共にひたすら耐えた、一生続くかのように思えた無の時間を――あるいはユズキには想像もつかないようなそれ以上の苦しみを、彼が達観した語りの向こうに隠しているのだとしたら。
    「……っ、ぐぇ……うっ……」
     歯の隙間から空気と一緒に呻きが漏れる。クマサンから自分の知らない世の中のあらゆる話を聞くのを日課にしているユズキが、初めて「知りたくなかった」と思った。
     遊んでいるゲームのネタバレを意図せず踏んでしまうみたいに、何かを知る"タイミング"や"何を知るか"を完璧にコントロールすることは不可能だ。そして忘れることはあっても、知らなかった頃には戻ることはできない。何も気付かず呑気にクマサンと話していたあの時間を、彼女は永遠に手のひらから取り落としてしまった。

     己の無知と、初めて自覚した感情の重さに押し潰されていた。
     彼女が次にバイトに復帰できたのは、ヨビ祭もフェス当日も終わった二週間以上後のことだった。 
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    夢斗(ゆりいか)

    DONE🦑/タイトルが決まらないけど書き上げてどっかに載せるまで寝られないフェーズに入っちゃったので投稿します!!!(やけくそ) ※23/07/31改題、加筆修正
    Irreversible バンカラ街に変わらず広がる澄んだ青空と照りつける日差しを、今日ばかりは恨めしく思いながらユズキは足を引きずるように帰宅した。
     思い返せば朝起きたときから何となく体全体が重いような感覚はあったのに、気のせいだろうとスルーしてバイトに向かったのが良くなかった。体調を崩すことが滅多にないので完全に油断していた。初めは問題なくクリアできたもののクマサンポイントが1200に到達する頃にははっきりと熱っぽさを感じ、クマサンに相談して昼前でバイトを引き上げることになた。
     街の空間を埋め尽くすように並ぶマンションの一画にユズキの部屋はある。愛用しているバンカラコロンを脱ぎ捨て、窓際にたたまれた布団を広げてすぐに飛び込む。狭いワンルームには、三年ほど続けているバイトの報酬ギアが詰め込まれたクローゼットの他は最低限のものしか置いていない。自炊はしないのでキッチンはきれいなままで、小さな冷蔵庫に入っているのは賞味期限の切れた調味料と飲み物くらいだ。
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    夢斗(ゆりいか)

    DONEスプラ3/マイイカとクマサンで七夕にかける願いの話。ヒーローモードのネタバレがあります
    星合の夢 窓からそそぐ太陽の光でユズキは自然に目を覚ました。朝と呼べる時間は終わろうとしていたが、窓を開けるとカラッとした心地よい空気が肌に触れる。バンカラジオの天気予報で三人が話していた通りのお出かけ日和だ。
     着替えて牛乳とシリアルで朝食を済ませる。いつもならばこのままクマサン商会に向かうのだが、今日はちょっと寄り道をすることにした。

     海を埋め立ててつくられたヤガラ市場には、海の向こうからやってきた様々な品物を売るテントが立ち並ぶ。果物や魚、衣類、雑貨から果ては何に使うのかよく分からない代物まで、雑多なそれを物色するのがユズキは好きだった。
     そのあとは桟橋で遠くに活気を聞きながらぼんやり海を眺めるのがお決まりのコースだ。いつもバイトで見る海は淀んでいるのに、ここはなぜか深い青を湛えていた。場所によって色が違ったりするものなのだろうか。海についてユズキが知っていることはほとんどないが、バイトをしていると誰もが頻繁にその名を聞くことになる。彼にはきっと思い入れのある特別な存在なんだろうと、ユズキはぼんやり考えていた。だからこそクマサンから海の話を聞いてみたいし、同時にそれが聞くのを躊躇ってしまう理由でもあった。
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