800字小説練習(SB69)「冬のお祭りもとってもプレシャスだね、マカロンちゃん!」
祭り会場の入口でMIDICITY中の憧れの的であるシュウ☆ゾーが両手を広げ、テンション高く隣のピグマカロンに話し掛ける。
周りの空気は冬らしく冷たいが、空から昼間の太陽が優しい陽だまりを注ぐ。
「そうですねー。でもいいですか、シュ……じゃなかった、ゾーくんッ」
ピグマカロンが教師のように人差し指を立てて眉を吊り上げた難しい顔を近づけ、注意をする。
「変装して此処に居る事絶対バレちゃダメですからね! ミーとの関係も分かっちゃうし、皆パニックになりかねないんですからね!」
「ふふっ、そんな顔も出来るんだね、とっても可愛いよ」
「全然聞いてなーい!」
「きっと大丈夫だよ、さあ行こうか」
シュウ☆ゾーが片手を差し出す。なんの裏も打算もない、本当に自然な行為。こういうところが憎めないんだよなー、と頭の中で負けを認めながら逸れないように愛しく温かい手を取った。女性のように綺麗な手と分かち合う体温に、ピグマカロンの胸は高鳴る。小さな鈴のような音と共にときめきの血潮が体中を流れ渡った。
一通り買って後でベンチで食べよう話し合い、屋台を回って行く。ここへ来ると自然と童心に返る事が出来、靴音は自然と弾んだ。
「あ、わたあめ!」
甘いものに目がないピグマカロンはわたあめを売る屋台を見つけ、好奇心を働かせる。
「じゃあ、買ってこうか」
「はい、行きましょ! ――って、きゃ!」
早足でそこに向かおうとしたピグマカロンの体が傾く。卸したての底が少し厚いブーツでつまずいてしまったのだ。
その瞬間、シュウ☆ゾーの両腕がピグマカロンをとっさに捉える。彼には華奢な印象があるが、こういう時の力は男性ならではで逞しい。
体を支えた瞬間お互い大量の息を吐き、それがたくさんの白い煙と化す。その拍子にサングラスが鼻までずれ落ち、見つめ合う形になった。
煙の向こうから露になった長いまつ毛が、真冬の太陽を浴びて煌めく。祭りの喧騒が遠い世界になって、自分の大きな心臓の音とお互いの息遣いだけが聞こえた。
「大丈夫かい?」
「え、あ、はい」
話し掛けられようやく我に返る。ヘッドバンキングくらい激しく頷いて無事を知らせ、体勢を整えた。
「ゆっくり行こうか」
「は、はい」
手を繋ぎ直し、改めてわたあめの屋台へ歩き出す。
彼は気づいているだろうか。繋いだ自分の手が、さっきよりずっとずっと熱くなっている事に。