最後の距離彼女たちの関係は、告白をしていないだけで恋人のように近しい。
しかし結局“恋人のよう”は“恋人のよう”な間柄でしかない。
手も繋がない、抱き締め合わない、キスだってしない。
彼は、自分たちの隙間に存在する身分や立場を、とても大きなものとして捉えている。
彼女とて、多くの子供たちを蔑ろには出来ない身なのは確かだ。しかし彼と恋仲となる上で、それを気にした事はない。
彼の庭に作られたベンチへ二人で座り、星月夜を見上げる。
『私の事、好きですか?』
あえて軽い調子で訊いてみる。今日もはぐらかせてしまった。
だが今日は諦めない。痩せこけた顔を玉肌の両手で挟み、ぐっとこちらを向かせる。
「身分と私、どちらが大切なのです?」
もう逃れられないこの質問で、最後の距離を埋めて欲しかった。
(おわり)