1.
ずっと、何かが足りない気がしていた。
家庭に恵まれ、友達もたくさんできて、少し大変でもやりがいのある仕事について、体調だって少しばかり人より病弱でこそあるがそれでも年に一回感染症にやられる程度で日常生活は人並みに送れる、そんな幸せな暮らしをしていた。
それでも、何かとても大事なものが欠けている気がしていた。
それが突然満たされたのは、ある春の日のことだった。
その日は、俺の働く保育園に一人の男の子が預けられる日だった。ご両親が大手会社の社長と副社長で、面倒を見ている時間がないらしい。
たまたまその子が入る予定のクラスの担当だった俺は、入口のところで出迎えた。
「おはようございます。」まずは母親に挨拶。そして
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