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    hareteichi24

    @hareteichi24

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    今現在、R18もの置き場になっております。あと、ついった裏垢の呟き保存用。

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    hareteichi24

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    元々はこちらに投稿する用に書いてた弁シェリオメガバでしたが、例のエックスのAPI騒動の時にパスを紛失した方がおられて、入れなくなったとご報告いただいてからずっとどうしようか悩んでいたんですが。
    一応こちらにも投稿は続ける形で。一応。支部にも投稿してありますし。見てる方がおられるのかがそもそも不明なんですよね…。
    しかし、まーじでエックス碌なことしねぇ…。
    【後編】はR18になります。

    #弁シェリ
    lunchbox
    #カラ一
    chineseAllspice
    #BL松
    #オメガバースパロ
    Omegaverse AU

    弁シェリオメガバ続き 4話目【前編】それを目にしたのは本当に、偶然だった。
    同じ家に暮らしていれば当然、彼の後ろ姿を見る機会もあったはずなんだが。
    今までなぜ気付かずにいられたのかと不思議に思うくらいに、ソレは一松くんの首筋にクッキリと深く刻み込まれていた。

    以前、噛み跡を見るかと尋ねられた時。一瞬怯んだこちらへと向けられた……まるで温度のない笑みが未だに脳裡に焼き付いて離れない。
    その瞳の奥に、わずかな嫌悪の色でも滲んでいるならまだ救いがあった。
    心の底からどうでもいいとでも言いたそうな、諦めといった単純な感情すら浮かんではいないその表情せいで、あの笑みを未だ忘れられずにいるのか。
    理由がわからないまでも、思い出すたび胸に溜まるモヤモヤした蟠りのようなものが今になっても消えずにいて、それもまた気持ちのいいものではなかった。

    痕跡に気づいたその時。一松くんには不似合いにも思えるそれから目が離せずにいると、一点に注がれる視線が気になったのか問題の首筋を手で撫でて隠した彼に「…なに」と不機嫌そうな顔で問いかけられた。
    それに一瞬迷って「いや」と返した自分の声の頼りなさにも戸惑う。
    なに、と聞かれても。明確に浮かぶ答えなど持ち合わせてはおらず、ハッキリしない俺の返答に一松くんがあからさまに眉を顰めた。
    そのまま、おかしなヤツを見るような冷めた目をこちらに寄越して身を翻した彼の背を、無意識に視線で追いかけた。どうにも目を惹かれるその首筋から無理矢理意識を引き剥がし、深く溜息を吐く。
    どういうわけか初めて会った日からずっと変わらず、Ωとしての匂いを認識できているだけに若干疑いの気持ちが残っていた。
    だが、その場合。そんな嘘をついて一松くんに一体どんな得があるのか。という、より不可解な疑問が付随してくるため、ほぼほぼ真実を話しているのだろうと考えてはいたが。
    ……だってなぁ?
    番から逃げるために家を飛び出して死にかけたり、問題の番に再会してしまったと言って青褪めた顔で事務所に飛び込んできたあれら全てが演技だとは思えない。しかも、番解除の手続きを踏むために大枚を叩いて弁護士を雇う……とか。虚言の可能性を疑うたび『なんのために』と、一瞬でも疑ってしまったことが酷く馬鹿らしく思える。
    もっと早くに、こうやって確認していればそんな無駄な疑いを抱くこともなかっただろう。
    が、どうにも気が進まなくて今日までズルズルときてしまったわけだ。
    ……確かに、あったな。
    どこの誰がつけたものかも知れない咬み痕が。一松くんの頸に。
    無意識に自分の首の後ろに当てた手でそこを撫で、また一つ嘆息したあとでいつか耳にした話について思いを巡らす。
    まだ事例が少ないからなのか寓話レベルの信憑性しかないが、それについて書かれた論文を面白半分に勧められたことがあった。当時は、カケラの興味すら湧かずに断ったんだったか。今にして思えば、惜しいことをしたな。とさえ感じる。
    勧めてきた相手がザックリとした説明をしていた気もするが、その内容ですらうろ覚えでしかない。
    確か、番ったαよりも上位のαがΩの頸を咬めば、前者の間で交わされた番契約を上書きできるとかいう…。
    こうやってあらためて思い出してみても、酷く胡散臭く感じる。
    でも、実際それを試してみて。
    もし上手くいけば面倒な訴訟手続きを踏むことなく、しかも即刻。一松くんが望むように、今番っている相手から解放してやることができるわけだ。
    そんな考えが頭をよぎったせいで、またその頸の辺りから目が離せなくなる。
    「……だから、なんなんだよ。さっきから。いい加減、視線がうるせぇ」
    コーヒーカップを2つ手にして戻ってきた相手から嫌そうな顔で睨まれ、戸惑いながら視線を外す。
    「……なんでもない。気にしないでくれ」
    いや。いくらなんでも。ダメだろ。それは。
    一瞬でも、可能性として真面目に考えてしまった自分に呆れた。
    上書きして?どうするんだ、その先。
    α嫌いで、誰とも番うつもりはないと言った彼を。今度は自分が縛ることになるとか、本末転倒もいいところだろう。
    「なんでもなくはないでしょ…。言いたいことがあんならハッキリ言えば」
    カップをこっちに手渡しながら不機嫌そうに告げた相手の動きを視線で追う。
    オーバーサイズのものが好みなのか、それとも身体の線を隠したいのか。身を屈めると大きく撓む服から覗く頼りない首筋にまた目が囚われた。
    「……言いたいこと、」
    さっきの考えに引き摺られ、鸚鵡返しに一松くんのセリフをなぞった俺を見て、相手が軽く瞠目したあと深刻そうな表情になって眉根を寄せる。
    「…え、なに。もしかして、どっか調子でも悪いです…?最近、忙しかったみたいだし……今日は早めに休んだ方がいいんじゃない…?」
    「……あぁ」
    気持ちのこもらない生返事をした途端にいっそう難しい顔つきになった一松くんに、淹れたてのコーヒーが入ったカップを取り上げられそうになり、慌ててそれを制して席を立った。
    「そうだ、急ぎの仕事が入ったのを忘れていた。コーヒーをありがとう、一松くん」
    これ以上同じ空間にいるとうっかり取り返しのつかないことを口走ってしまいそうで、早口で捲し立てて背中を向ける。そこに、
    「…どんだけ働く気だよ。できるなら、早めに休んだ方が…」
    「ああ、わかってる」
    口調はぶっきらぼうながら心配の滲む声がかけられて、顔だけ振り返って安心させるように微笑んでみせた。
    「…や、その顔と言い方。絶対わかってないでしょ」
    なのに、返ってきたのは毛の先ほどの信用もない言葉と態度で。
    いつの間にそんな、人の顔色を読めるようになったのかと。ともに過ごした数ヶ月を思い返して、なんとも言い難い擽ったいような心地で苦笑いした。


     * *  * * * *


    だが、その数日後。
    「……また、会った…」
    夕飯の買い出しに行くといって出かけたはずの一松くんが、30分と経たずに戻ってきたのを不審に思い玄関まで迎えに出ると、血の気の失せた顔で呆然と立ち尽くしたままそう呟いた。
    今にも取り落としそうなビニール袋をその手から取り上げ、細かく震える腕を掴んで家の中に引っ張り入れる。
    されるがままノロノロとサンダルを脱ぎ捨てた彼の、怯え切ったような表情を見下ろしながら重くなった口から迷うように言葉を絞り出した。
    「……しばらく、うちを出ない方がいいかもしれないな」
    それはイコールで、一松くんの唯一の友達の猫にも会いに行けないということになるが、
    「…うん」
    放心したように力なく頷いた相手がこちらの手に渡ったビニール袋をチラッと見やった。
    いつものように買い物のついでに路地裏に寄るつもりだったのか、数個の猫缶が収められているそれをぼんやりとした瞳で見つめ小さくため息を吐く。
    その一連の動作を見て、承知の上での返事だったことを悟った。
    問題の番に見つかるたび憔悴したように項垂れる一松くんをリビングまで連れて行き、
    「なにか、温かい飲み物でも淹れよう。座って待っていてくれ」
    そう言い聞かせるように声をかけると、ふらつく足取りでなんとかソファのところまでついてきた相手が力尽きたように身を投げ出した。
    玄関にいたときよりはまだ、若干色味を取り戻したように見える顔色を窺ってからキッチンの方へと一歩踏み出すと同時。
    「……どうして逃げるんだ、……って言われた…」
    ポツリと囁くような声が聞こえて足を止める。
    「そんなん……どうしてって、……決まってんじゃん。何度も……おれっ、無理って……やだって、言ったのに…」
    そして自分が振り返るより先にまた、小刻みに震え変に引き攣ったセリフが場に落ちた。
    ほとんど独り言じみたそれになんと返すべきか迷い、出しかけた言葉を吐息に変える。
    今、なにを言ったとしても慰めにすらなりそうもない、完全に自分の殻に閉じこもってしまったかのような一松くんの様子にまた気取られない程度のため息を吐く。
    「職探しの件で、一つ提案なんだが」
    そうしてから、努めて普段と変わりない口調を装い話を振った。
    「ハウスキーパーとして、正式に君を雇いたい」
    ゆるゆるとゆっくり頭を擡げた彼に告げると虚を突かれたとばかりに瞬時固まり、少し間を置いて唇を戦慄かせながら目を見開いた。
    「……は?なに、……なに言ってんの…?」
    「その日に必要なものがあれば言ってくれ。帰りに買ってくる。俺が出かけたあとで気づいたものについては、電話でもメールでもいい。その都度、連絡さえ入れてくれれば…」
    「ちょ、…ちょっと。待ってっ!あの、」
    「なんだ?」
    顔面蒼白で沈み込んでいたさっきまでとは打って変わって、困惑と戸惑いともう一つ。なんとも名伏し難い感情へとくるくる表情を変え、両手をワタワタ動かしていた一松くんが大きく息を吸い込む。
    「……え、だって。…え、そんなんで……は?あの…おれ、このままここにいていいわけ…?仕事も…手伝えないし。…その、金も払えるかどうかわかんねぇのに…。迷惑ばっかかけてるし、それならいっそ…」
    『出ていく』と言いかけたであろう彼の声を断ち切るようにして被せた言葉は、自分でもわかるくらいに硬質で少しだけ急いて聞こえて、気づかれないよう苦笑いした。
    「だからこそ、正式に雇いたいと言っているんじゃないか。対価は見合う程度になるが、正直家のことをやってもらえるだけでもかなり助かる。君さえ良ければこちらとしてはいつまで居てくれてもかまわない」
    言うと、躊躇うように口元を小さく動かしてみせた相手が、腹の辺りでモジモジと自分の指を絡め合わせて軽く俯く。
    「…でも…」
    やっと出てきた言葉はその一言で、沈黙が続くだけの時間が無駄に思えてさらに条件を付け足した。
    「今までだって家に仕事を持ち帰ることもあっただろ。その時にまた手伝ってくれるなら、追加でキチンと手当も出すぞ」
    落ち着きのない様子でソファに浅く腰掛ける一松くんの方へと歩み寄りながら、我ながら底意地が悪いなと思えるような可能性を二つ提示する。
    「ここを出て、家に帰るか。それともまた、相手に見つからないように街を彷徨い歩くか」
    どちらを選ぶにしろ、関係を解消したいと願っている現在の番に自ら捕まりにいくような浅はかな行為だ。
    彼の両親の考えが変わっていない限り、家に帰れば強制的に番に引き合わされるであろうことは目に見えている。なにより、再会した時と同じように無謀な行動の末行き倒れたとして。
    弱り切って身動きすら取れなくなった彼を見つけたのが例の番相手だったなら、逃げることも叶わず今度こそ容易く囚われてしまうだろう。
    「君がそのうちのどちらを選ぶかまでは知らないが、そうしたとしてどうなると思う?」
    親切心からの助言めいた口調で問えば、たちまち目の前の顔が曇る。
    それをわかっていながら簡単に出て行こうとした彼に、謂れのない苛立たしさが湧き起こり眉根を寄せた。
    「自分の身に危険が及ぶとわかっている中で、急いで出ていく必要もないだろう」
    「……や、でも…」
    ここにきてもまだ素直に頷いてはくれない相手に焦れて、やや圧するように念を押す。
    「それでいいな?」
    「……ぅ、や……。う、…ん…」
    最後まで抵抗する姿勢をみせていた一松くんが不承不承といった様子で顎先をわずかに引き、強引に了承を取り付けたのはこちらだというのに酷く申し訳なさそうに項垂れた。
    それを見て若干の罪悪感が湧かないでもなかったが、一先ずは取り付けた約束事を反故にされる前に取り急ぎ書面に起こすため、開いたまま放置されていたPCに新たな契約内容を打ち込んだ。


     * *  * * * *


    たしかに。ずっと家に閉じ籠っていろ、というのが酷な話であるのもわからなくはない。
    が、いつどこで会うかわからない危険性を承知の上でホイホイ出歩くのはどうなんだ。
    あの日から10日ほど経過した今、危機感がだいぶ薄れてきているらしい一松くんの動向にため息しか出ない。
    あれだけ怯えて青褪め震えていたというのに、無断で外を出歩いた回数は今日までで4回。日中家をあけている俺が把握しているだけで、だ。おそらく余罪はもっとある。
    言い訳としては『これだけだったし、頼むのに気が引けた』とか『売ってる店、すぐ近くだったから』とか。こちらに対する遠慮というもっともらしい理由付けがあるだけに、どうにも強くは言えなかったんだが。それはともかくとして。
    「もう少し、危機感を持ってくれ。…頼むから」
    「…つか、なんでせんせの方がそんな疲弊してんの」
    全く悪びれないふてぶてしさで外から帰ってた一松くんと玄関を出たところで鉢合わせして、家の中に引き入れたのち声をかけると、返ってきたのがそれだった。
    何事もなかったかのように過ごせるのはなによりだが、こっちとしては心配が尽きなくて軽く頭痛を覚える。
    「君がいないのに気がついて、何度探しに行ったと思っているんだ」
    今回もなにか足りないものがあったようで、小さな買い物袋を片手に提げた相手をまず家に上げてから、握り締めたスマホを仕舞いつつ自分も靴を脱いであとに続いた。
    またなにかあったら。と不安に駆られて連絡を取ろうとしても、スマホ自体を置いて出掛けることもあるらしい彼に繋がるのは数回に一回程度。と、くれば文句の一つも言いたくなる。
    だというのに、むしろ余計なお世話とでも言いたげに、そんな俺を鼻で笑った相手の態度に腹が立った。
    「大袈裟。今んとこ、……精々1、2回くらいじゃなかったっけ…」
    「4回だ」
    殊更冷ややかに告げてやれば、今まで少しも真面目に取り合おうとはしていなかった一松くんが足を止め、オドオドとこちらを振り返った。
    「そん、な…あった?」
    「あったな」
    「…えと、あの……あれから、何日くらい……経ってるっけ」
    『あれから』が何を指すのか言わずとも伝わるとでも思っているのか、言葉足らずの彼の目を真っ直ぐに見て答えてやる。
    「10日だ」
    「……で、でも。そのうちの、たった4回だけだし…」
    「空の猫缶が捨ててあるのを見かけた回数はそれよりもずっと多いぞ」
    「え、や……そんなはず……、だって。その度洗って捨てに行ってるし…って、……あ」
    さすがに腹に据えかねカマをかけてみたら、それに見事に引っかかった一松くんが慌てたように両手で口を塞いだ。
    「やっぱりそうなんじゃないか」
    「…いまのは…ちが、」
    「なにが違うんだ」
    「だから……違うんだってば」
    一気に弱々しくなった声に一つ息を吐き、廊下の途中で歩みを止めた彼の肩を押す。
    「言い訳があるなら聞いてやってもいいが、手短に頼む。あと、夕飯の片付けが済んだら少し手伝ってくれ。明日の朝までに間に合わせたい仕事があるんだ」
    「…それ、おれの言い訳とか聞いてる場合じゃないでしょ…。絶対。夕飯も、もうすぐできるんで。できたら呼ぶから」
    言外に『それまで仕事してこい』とばかりに素気なく手で追い払われたため、エプロンを首に通した一松くんにコーヒーを頼んでソファに座り、問題のファイルを立ち上げた。
    「…え。そこでやんの?」
    「ダメか?」
    「……や、ダメとかではないですけど」
    口ではそう言いながらもどこか迷惑そうに口籠もった彼を見て首を傾げる。
    「手伝ってくれって言っただろ」
    「あとで、つってたじゃん…」
    「一々移動するのも面倒だ」
    「……そういうことなら、まあ…」
    そのままふいっと横を向いた相手の視線がリビングの時計に注がれているのに気付いてまた声をかける。
    「なにかあるのか?」
    「……別に」
    「…って、一松くんが言うときは大体なにかあるよな」
    そう言うと小さな舌打ちが聞こえ、キッチンの方へと移動していた猫背がいっそう丸まった。
    「……そうやってさ。おれの行動とか、読んでくれなくていいんで…」
    「無理だろ。さすがにわかるぞ」
    わかりやすい。までいうと言い過ぎだが、表情が乏しいようでいて何事においてもわりと顔に出やすいらしい一松くんが疲れたようなため息を落とし、またチラリと時計を見上げた。
    「なんだ?見たい番組でもあったのか?」
    普段帰宅すると、大体において点いているはずのテレビも今は消えている。
    それ以前に持ち帰りのコレを除けば、今日は比較的仕事が早く片付いたこともあり帰りも若干早くなったんだが…。
    「…ああ、それでか」
    まだ帰ってこないだろうとタカを括って不用意に外に出た彼の不在に気づけたのは。
    「なにがだよ。あの…怖いんで、勝手に一人で納得しないでもらえます…?」
    不信を滲ませて嫌そうに顔を歪めた相手に向かって手を一振りした。
    「いや、こっちの話だ。気にしなくていい」
    そうなると、本当に俺の留守中に好きに外出しているであろうことが知れて、かすかに痛んだこめかみを無意識に押さえる。
    今のところ、事務所か家か。『こっちが近かったから』という微妙な言い回しではあったものの、自分がいる方に避難してきてくれるのは正直助かっている。
    だが事務所を留守にしていることだって勿論あるし、家にいつもいられるわけじゃない。それだけに、勝手な外出はなるべく控えてほしいところだ。
    「…無理矢理閉じ込めるわけにもいかないしなぁ」
    「……いきなりなに怖ぇこと言ってんの…。つか、なんの話だよ」
    先ほど『別に』とか無愛想に言っていたくせに、遠慮する必要もないと結論づけたのか普通にテレビを点けた一松くんが腕まくりをしてこちらを見た。
    「『今後、外出は一切致しません』っていう誓約書でも書くか?」
    見たというよりは睨まれてるといったニュアンスの方がしっくりくるような、至極嫌そうな目つきで下目に見下ろしてくる相手の顔がさらに歪む。
    「……まさかの。おれの話だったわ…。普通に考えて、書くわけないよねぇ…。そもそも、それ。監禁じゃねーか…」
    「しばらく外に出ない方がいいって話だったのを反故にしているのは一松くんの方だろう」
    「…まあ、そうですけど。でも、ほら…そうそう会うわけないっつーか…。今までも、逃げられたわけだし…」
    「接近禁止命令が出されている中で『探していた』とか『どうして逃げるんだ』とか言ってくるような相手だぞ?万が一捕まったらどうなるかさえも想像できないのか」
    「……つ、捕まらなきゃいいだけの話でしょ」
    動物の赤ちゃんがどうとか、ペットカメラに映った可愛い映像がどうとか。和やかな話題と相反する不穏な会話を繰り広げていくうちに部屋の空気がどんどんと険悪なものになってきていた。
    それに気づいてはいたが、まるで他人事のように振る舞う一松くんの態度に苛立ち言葉を重ねる。
    「君は、まだ相手と番のままだということを忘れているんじゃないか?」
    「忘れてはない……ですけど、もちろん…」
    モニョモニョと口を動かして答える彼が口ごもり、あからさまに視線を逸らした。
    「もしも、相手と会ったことがキッカケでヒートが起きたらどうするつもりなんだ。その状態でまともに逃げられるとでも思っているのか?」
    「…や、それは…」
    詰問するような口調になっているだけに責められているとでも思ったのか、たじろいだ相手が眉根をキツく寄せて唇を尖らせる。
    「それとも、その場合はすべて諦めて例の番の許に行くつもりでいるのか」
    「でも、……番が近くにいなくても定期的にヒートは起きるっていうじゃん。そん時の匂いは、番しか認識できねぇとかも聞くけどさ。大体、ここにきてから何ヶ月経ったと思ってんだよ。一度もないってこと自体が異常でしょ」
    「だからなんだ」
    言いたいことの趣旨がいまいち掴めず問い返すと、なにか迷うようにあーうー唸った一松くんが小さく「…だから、」と呟いた。
    「だから……だから、もしかしておれ。今、…Ωとして機能してないんじゃないか……とか、思ったり…思わなかったり…」
    結局どっちだと言いたくなるような曖昧な言い回しで、おそらく自分でもよくわかっていないのであろう可能性を口にした相手が気まずそうな視線を投げてきた。
    「……やっぱ、これ。ちょっと無理あります…?」
    やはり自信なさそうに問いかけられて、こちらも首を捻る。
    今も変わらずΩであることがわかる程度の匂いを常に纏っているのは間違いないんだが、それを感じ取れる自分も異常といえば異常なんだよな…としか思えず、すっかり馴染んだ甘い香りを払うように指で鼻を擦った。
    そのあとで、再び浮上した疑念をまずは取り除くためとりあえず確認してみる。
    「……もう一度訊くが、本当に妊娠はしていないのか?」
    「…ッ、してねぇっつってんだろーが!真面目な顔して怖ぇこと何遍も言うんじゃねぇよ!」
    予想通り烈火の如く怒られはしたものの、それもそうかと納得もした。
    もしそうなら前回の検診で判明しているはずであろうし、言い出しにくさから一松くんが隠しているんだとしても体型の変化などでそのうちバレるような嘘をつくメリットもない。なにより、隠し事にプラスして妊娠なんていう重圧に一人で耐えられるほどのメンタルの強さも持ち合わせていなさそうな相手だけに…。
    可能性としても、やっぱりないな。
    考えている間マジマジと見つめていたのが悪かったのか、また不機嫌そうな舌打ちが聞こえた。
    「じゃあ、なんでなんだろうな」
    「……そんなん、おれに聞かれても困るんですけど」
    ヒートが起きない理由なんか知るはずもないこちらにとっては本人に尋ねるのが一番手っ取り早いんだが、当事者の一松くんでさえわからないとなると…。
    「Ω専門ではないんだが、こういうことに詳しい知り合いがいるから今度聞いてみるか」
    「……へー。…え、おれが会う必要とかないですよね…?」
    それを尋ねて答えてくれそうなアテがあったためほぼ独り言のつもりで呟くと、律儀に相槌を打った相手が恐る恐るといった調子で話しかけてきた。
    「ン?むこうが詳しい話を聞きたがるようなら会ってもらえると助かるが、特に必要ないんじゃないか?」
    必要はないだろうと安心させるつもりが、かえって険しくなった一松くんの表情を見てこちらも眉を顰める。
    「……あんたさ、その。…時々無責任にノリが軽いのなんなの…」
    「一松くん本人の口から説明する必要がある。と言って頼み込んだら会いに行くのか?…というか、会いに行けるのか?」
    「…ぅ、まあ……行かなくて済むなら、行きませんけど」
    自分から難癖を付けてきたくせに、モゴモゴ尻すぼみになっていったセリフを聞き流して軽く頷いた。
    「だろうな」
    考えるまでもなく、一松くんならそう答えるだろうという返事に一言返して開いたPCに向き直る。
    「なあ、一松くん。コーヒーを頼む」
    「…あ。やべ…夕飯の支度…」
    これ以上進展のなさそうな話を切り上げ軌道修正を果たすと、ハッとしたように踵を返した相手がこちらを振り返りざまに、
    「ちょっと待ってて。今」
    慌てたように言い置いてキッチンに駆け込んでいった。

     * *  * * * *

    4話目【前編】終わり
    4話目【後編】に続く
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    弁シェリオメガバ続き 4話目【前編】それを目にしたのは本当に、偶然だった。
    同じ家に暮らしていれば当然、彼の後ろ姿を見る機会もあったはずなんだが。
    今までなぜ気付かずにいられたのかと不思議に思うくらいに、ソレは一松くんの首筋にクッキリと深く刻み込まれていた。

    以前、噛み跡を見るかと尋ねられた時。一瞬怯んだこちらへと向けられた……まるで温度のない笑みが未だに脳裡に焼き付いて離れない。
    その瞳の奥に、わずかな嫌悪の色でも滲んでいるならまだ救いがあった。
    心の底からどうでもいいとでも言いたそうな、諦めといった単純な感情すら浮かんではいないその表情せいで、あの笑みを未だ忘れられずにいるのか。
    理由がわからないまでも、思い出すたび胸に溜まるモヤモヤした蟠りのようなものが今になっても消えずにいて、それもまた気持ちのいいものではなかった。
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