弁シェリオメガバ続き 4話目【前編】それを目にしたのは本当に、偶然だった。
同じ家に暮らしていれば当然、彼の後ろ姿を見る機会もあったはずなんだが。
今までなぜ気付かずにいられたのかと不思議に思うくらいに、ソレは一松くんの首筋にクッキリと深く刻み込まれていた。
以前、噛み跡を見るかと尋ねられた時。一瞬怯んだこちらへと向けられた……まるで温度のない笑みが未だに脳裡に焼き付いて離れない。
その瞳の奥に、わずかな嫌悪の色でも滲んでいるならまだ救いがあった。
心の底からどうでもいいとでも言いたそうな、諦めといった単純な感情すら浮かんではいないその表情せいで、あの笑みを未だ忘れられずにいるのか。
理由がわからないまでも、思い出すたび胸に溜まるモヤモヤした蟠りのようなものが今になっても消えずにいて、それもまた気持ちのいいものではなかった。
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