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    YukimaCoC

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    華牧桜誕生日SS。 変葬ネタバレありエディション

    「4月1日未明 曇り時々雨」 毎年4月1日が近づくと、行く先々の現場で花を貰う。そのほとんどが桜、桜、桜。桜の花 って花束として人にあげられるのだなと初めて貰った時は感心もしたが、毎年毎年もう10年 以上も同じ時期に同じ花を大量に貰うと流石に辟易としてくる。だいたい、自分の誕生日をめ でたいと思ったことなんて、物心ついた時からない。「主役」になってしまう日だからだ。社交 的で顔の広い両親は僕が覚えてないほど幼い頃から毎年家でパーティを開いては、僕を人のた くさんいる華やかな場の主役にまつりあげていた。目立つのが嫌いな僕は、当然誕生日が苦手 になっていった。俳優をはじめてからはスケジュール的にも難しくなり家でのパーティはなくなったが、それでも誕生日に主役扱いされるのには変わりなく、むしろ規模は大きくなったように思う。SNSで自分の誕生日を祝うためのハッシュタグが知らない大勢の人たちに使われ ているなんて、未だに信じがたいし受け入れたくない。 ただ、楽しみなこともひとつくらいはある。 日付が変わった瞬間に鳴るラインの通知。誰が送って来たか、もはや名前を見なくても分か る。毎年欠かさず0時ぴったりにメッセージを送ってくる相手なんて、無二の親友くらいしかいない。返信するとすぐまた何か返ってくる。何度かやりとりしていると、電話がかかってきた。
    「桜― 誕生日おめでとう!」
    「ラインでも言ってたろ。…… ありがとう」
    「プレゼントはまた会った時に渡すからさ」
    「わざわざいいのに」
    「俺があげたいからあげるんだよ」
    「………… ありがとう」
     なんとなく、互いの近況なんかを語り合う。ハルがあの時よりも少しは元気そう、というだ けで俺にとってはもうじゅうぶんプレゼントになっている。
    「桜は忙しい?まあ忙しいか。来週から新しいドラマも始まるもんな」
    「ああ、今日も昼間それの撮影で、終わる時に花とケーキ貰ったんだよ。誕生日だからって」
    「えー良かったな。そういうのってさ、たまに朝の番組とかでも映像流れたり、ドラマの公式 アカウントに写真あがってたりもするよな」
    「今日のもカメラ回ってたからたぶんそのうち流れると思う。それで、毎年この時期になると そうやっていろんな所で花とか貰うんだけどさ、なんか今年やたらそのスパンを短く感じたんだ」
    「ええ?歳とって一年が短く感じるみたいなこと?おじさんみたいなこと言うなよー」 「いや、俺も一瞬そういうことかなって考えたんだけど、ちゃんと心当たりあった。去年は冬頃にも花をいっぱい貰ってたからそう感じたんだなって。…… まあ、あれは俺が直接貰ったっていうより、死んだに俺手向けられてたものだったけど」
     去年の12月頃、自分の死を外から眺める機会というものに遭った。それは世間的を多少騒がせるほどのニュースとなって、それなりに大きな場所を借りてお別れの会なんてのも開かれていて、大きな献花台に置かれた張り付いた笑顔を浮かべる自分の写真とそれを囲うように飾られた花々。そこにあったのも、ほとんど桜だった。「華牧桜」のために、冬に咲く品種を、大 勢の人がご丁寧に用意したのだろうと、他人事のようにぼんやりと画面越しに献花台を眺めていた。
    「あの時は完全に他人事だと思って見てたはずなのにさ、なんか自分が貰った気にもなってたんだなって誕生日が来て気づいたよ」
     おかしいよな、と自嘲気味に言ってみせる。しかし電話口からの反応はない。
    「ハル?」
    「…… 桜、あの時」
     ああ、ミスったな。そうだった。 ハルは俺なんかと違っていいやつなんだから。 「ごめん。悪かった」
    「⁉なんで桜が」
    「今の話さ、ほんとに軽い気持ちで喋ってたんだよ。テレビでエピソードトークでもするみたいに。でも、あの時の話持ち出したらハルは気にするよな、笑えないよなって、ハルの反応聞くまで気づかなくて。だから、ごめん」
     ハルがあの時のことに関して「桜を巻き込んでしまった」みたいな意識を持っていることはなんとなく分かる。だからこそ古閑明という人間は、友人の自殺を気に病んで変葬するまでに至ったのだろう。けれど罪悪感を抱くべきは決してハルの方ではない。俺の方だ。 久世堅悟という別人にもう少しで完全に死に変わるところだったハルを、俺が引き留めた。 引き留める時、偉そうなことやかっこつけた台詞をいろいろ吐いた気がするけれど、根底にある動機はただひとつ、単純な感情だった。嫉妬。文字通りハルの人生を変える人間が、自分じゃなくてどこの誰とも知れない奴なんて、嫌だ。もうこの世にいない、しかも苦しみに耐えかねて死んだ誰かに対しての感情ひとつだけで、久世をハルに戻した。ハルは久世として生きていった方が楽で幸せだったかもしれないのに。そして俺自身、華牧桜に全く未練はなくて、船橋あかねとして彼の近くに居られるだけで満足していたはずなのに。だから、
    「ハルは謝らなくていい。というかあの時のことについてだったら、今後も絶対謝ってくれるなよ?」
    「そっ、か……。じゃあ、あのさ、一個だけ質問していい?」
    「ん?」
    「俺の時って、どんな花が飾られてた?なんか桜の話聞いてたら気になってきた」
    「………… 覚えてない」
    「えー?まあ、人の葬式で飾られてた花なんて、言われてみればいちいち覚えてないか」
    「花だけじゃない。ハルの葬式のことはほとんど覚えてないんだよ。………… 本当に、頭真っ白だったから」
    「あー…… そっか。それは…… ごめん」
    「もう良いって」
     俺はハルと違っていいやつじỶない。自分のエゴのためだけに親友を連れ戻したひどいやつだ。だから、二度目のごめんは遮らずに受け取った。
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    SPOILER華牧桜誕生日SS。 変葬ネタバレありエディション
    「4月1日未明 曇り時々雨」 毎年4月1日が近づくと、行く先々の現場で花を貰う。そのほとんどが桜、桜、桜。桜の花 って花束として人にあげられるのだなと初めて貰った時は感心もしたが、毎年毎年もう10年 以上も同じ時期に同じ花を大量に貰うと流石に辟易としてくる。だいたい、自分の誕生日をめ でたいと思ったことなんて、物心ついた時からない。「主役」になってしまう日だからだ。社交 的で顔の広い両親は僕が覚えてないほど幼い頃から毎年家でパーティを開いては、僕を人のた くさんいる華やかな場の主役にまつりあげていた。目立つのが嫌いな僕は、当然誕生日が苦手 になっていった。俳優をはじめてからはスケジュール的にも難しくなり家でのパーティはなくなったが、それでも誕生日に主役扱いされるのには変わりなく、むしろ規模は大きくなったように思う。SNSで自分の誕生日を祝うためのハッシュタグが知らない大勢の人たちに使われ ているなんて、未だに信じがたいし受け入れたくない。 ただ、楽しみなこともひとつくらいはある。 日付が変わった瞬間に鳴るラインの通知。誰が送って来たか、もはや名前を見なくても分か る。毎年欠かさず0時ぴったりにメッセージを送ってくる相手なんて、無二の親友くらいしかいない。返信するとすぐまた何か返ってくる。何度かやりとりしていると、電話がかかってきた。
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