和泉守兼定
「……は…?…つまんねぇ冗談言ってんじゃねぇよ」
こちらも理解が追いつかない系。知らせに来た政府の人間に行き場のない感情をぶつける。胸ぐら掴んで政府の人の目をぐって睨みつけるけど、相手は別に動じることも無く、ただ掴みかかられるのを受け入れてくるだけだったからパッと手を離す。「…葬儀は明日、向こうの世界で執り行われます。……お顔を見られるのは…今日のうちかと。」って言われて、勝手にずっと一緒にいる、日常を共に生きる、本丸が役目を終える最後の日を一緒に迎える、そう思い込んでた自分の危機感のなさに絶望した。
まだ実感が湧いてないから、向こうの世界に行ったらこれは実はドッキリで普通に生きてるかもしれない。縁起でもないドッキリを仕掛けやがってって怒ったら済む話かもしれない。その少しの可能性を信じて急いで向こうの世界に行く。
世界へ降り立つと、そのすぐ目の前には既に死化粧をされて安らかに眠ってる審神者の姿。和泉守も主を失う悲しさを知っていた。1回経験しているんだから、次も上手く乗りきってみせると考えていたのに、いざ愛した人の死体を目の当たりにすると思考を止めざるを得なかった。
自分が見てないところで勝手に死んだ怒りと、今日も主が本丸に帰ってくるのが楽しみだなと思ってたのにこんな再会になってしまった事への虚しさと、もう笑って話すことが出来ない悲しさが同時に押し寄せてくる。
きっとここで 自慢の主だった。愛してる。 なんて言えたらかっこいいんだろうけれど、そんな余裕もなくて、ただ冷たくなった審神者の手を握って
「逝くな…っ…まだ……まだオレは……アンタと…っ…」
って途切れ途切れにしか言葉が出てこなくなる。
葬式の日の早朝、審神者の親族が主の体を確認しに来たら、何故か手に少しの温もりがあり、左手薬指には綺麗な朱色の紐が蝶結びされていた。