Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    zo_ka_

    @zo_ka_
    短いらくがき置き場予定。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    zo_ka_

    ☆quiet follow

    2月に出したいばちいさ本の冒頭。不穏だけどハピエンになるよ。

    タイトルは考え中 愛する人はさいごまでエゴイストだった。

     蝉の声。
     潔と歩くどこかの小道。
     入道雲は空高く、どこまでも行けてしまいそうな気がした。
    『もう疲れたんだ』
     潔の言葉。
    『じゃあ、全部捨てて、どっか行こう』
     少年だった。
     どこまでも行けると信じている、万能感に溢れた子ども。
     必要最小限の荷物と、サッカーボール。
     ドリブルをして、パスをして、どこかにあるゴールを探していた。
     何もかも投げ出した自分達はどこまでも行けるって信じていた。
    『蜂楽、ここまでありがとう』
     潔は持っていたボールを蜂楽に渡した。
    『潔?』
    『ここまででいいよ。俺、ここから先は一人で行く』
     そう言って潔は一人で走っていく。
    『待って!』
     蜂楽は追いかけた。
     潔ってこんなに足が早かったっけ。
     蜂楽は追いつけない。
     崖の上、潔が振り返る。
     笑ってた。
     両手を広げて落ちる。
     落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる。
     崖の下に、広がる赤い彼岸花。
     蜂楽は絶叫した。

    「っは……!」
     蜂楽はがばり、と起き上がる。
     そこは自室。
     日本のプロサッカー選手として生きている。
    「夢、だよね」
     もう少年とは呼べない。成人したのだから、あれは夢だ。
     それでも、あまりにリアルな夏の気配がこびりついている。
     今はオフシーズン。
     夏じゃない。冬だ。
     ベッドを降りれば、床がヒヤリと冷たい。
     自室を出て、隣の扉をそっと開ける。
     そこは一緒に暮らしている潔の部屋。
     起きることのない潔は、静かに穏やかに眠っている。
     蜂楽はほっとした。
     良かった。やはりあれは夢だ。
    「んん……」
     潔が目をうっすら開く。
    「ばちら……」
    「あ、起こしちゃった? ごめん」
    「ど、した」
    「怖い夢見ちゃってさ。でも潔の顔見たら落ち着いたから、大丈夫」
     笑ってみせたところ、潔は布団を持ち上げる。
    「潔?」
    「はやく、……寒い」
     意図を察した蜂楽はそっと布団の中に入る。
     潔の匂い、体温。
     ほっと胸が温かくなる。
     夏の残滓が剥がれて、どこかへ流れていく。
    「どこにも行かないでね」
     すっかり寝直してしまった潔には、言葉は届かない。
     それでいい。それでいいんだ。
     次に見た夢の中で、潔はコートの中、ハットトリックに喜んで、蜂楽はいつものように背中に飛びついた。
     楽しい夢。
     その後、久しぶりにかいぶつが出てきた。
     大丈夫、と一言。
     何が?
     問いかけに答えることはなく、優しく笑っていた。

    「潔」
     キッチンでケトルがゴボゴボと鳴っている中、リビングでテレビを見ている潔に声をかける。
    「どうした?」
     潔がソファからキッチンにやってくる。
    「ケーキ、どれ食べるの?」
    「んー。ショートケーキかな」
    「飲み物はコーヒーでいい?」
    「うん」
     貰い物のケーキは四つ。ショートケーキ、チョコレートケーキ、マスカットのタルト、ピンク色の何かわからないケーキ。
    「じゃあ俺はこのわかんないやつにする」
    「大丈夫なのか?」
    「ま、どれでも美味しいと思うし、甘いもの好きだから大丈夫」
     選ばれたケーキを皿に移す。
     潔は皿とフォークを持ってリビングに持っていく。
     蜂楽は潔用のコーヒーを淹れて、自分はココア。
     両方を持ってリビングに行く。
     マグカップを置くと、ありがとう、と言われる。
    「じゃ、おやつ、いただきます!」
     フォークを持ってケーキに切れ込みを入れて、口の中に運ぶ。
    「お、これちょっと酸っぱいけど美味しい」
     どうやらベリー系のケーキだ。
    「いさぎー、はい、あーん」
     声をかけると、潔がごく自然と口を開ける。
     そこにケーキを入れる。
    「じゃあ、こっちも、はい」
     ショートケーキの乗ったフォークをぱく、と食べる。
    「やっぱり、ケーキの定番って感じだね。美味しい」
     蜂楽は機嫌良くにこにこする。
     テレビでは、ニュースが流れる。
     ニュースキャスターが遠くで起こった不穏な事件について、淡々と原稿を読み上げている。
     オフシーズン以外は、日々のトレーニングと試合でニュースを見ることはあまりない。
     元々、蜂楽はニュースなんてあまり見ないのだけど。
     暗いニュースの次もまた暗い話。
     あの夢が蜂楽の脳裏でリフレインする。
     やめた、やめた。
     蜂楽は頭を振って、楽しいことを探し始めた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    zo_ka_

    REHABILI大いなる厄災との戦いで石になったはずのネロが、フォル学世界のネロの中に魂だけ飛んでしまう話1俺は確かに見た。厄災を押し返して世界を守った瞬間を。多分そう。多分そうなんだ。
     だけど俺は全て遠かった。
     ああ。多分、石になるんだ。
    『ネロ!』
    『石になんてさせない』
     ぼんやり聞こえてくる声。クロエと、後は、ああ……。
    『しっかりしろ、ネロ!』
     ブラッド。
    『スイスピシーボ・ヴォイティンゴーク』
    『アドノポテンスム!』
     はは、元気でな、ブラッド。早く自由になれると良いな。囚人って身分からも、俺からも。
    『ネロ……‼‼』
    「……」

    「なあ、ブラッド」
    「何だよネロ」
    「今日の晩飯失敗したかもしんねぇ」
    「は? お前が?」
    「なんか今日調子がおかしくてよ。うまく言えねぇんだけど、感覚が鈍いような……」
    「風邪か?」
    「うーん」
     おかしい。俺は夢でも見てるんだろうか。ラフすぎる服を来たブラッドがいる。それに、若い。俺の知ってるブラッドより見た目が若い。傷だって少ない。
     何より俺の声がする。喋ってなんてないのになんでだ?
    「ちょっと味見させてくれよ」
    「ああ、頼む」
     体の感覚はない。ただ見ているだけだ。
     若いブラッドが目の前の見たことのないキッチンで、見たことのない料理を 2283

    recommended works

    かほる(輝海)

    DONE逆転裁判
    成歩堂龍一×綾里真宵
    ダルマヨ。完全恋人設定。

    ナルマヨが好きなかほるさんには「さよならの前に覚えておきたい」で始まり、「ほら、朝が来たよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
    #書き出しと終わり #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/801664
    サヨナラの前に覚えておきたいことがあった。キミと過ごした時間と、その思い出。そして、その肌の温もりと匂い。ぼくはもう、誰かをこんなに愛することなんてないと思っていたから、心に刻みつけておきたかったんだ。でも、「お別れの前に、最後の『ふれあい』を……」なんてお願いするのは、男としてどうかと思ったし、実際そんな余裕もなかった。みぬきを養子として迎える手続きに、自分の弁護士資格の手続き。マスコミ対策も苦労した。
     あの頃、真宵ちゃんは何度かぼくに連絡をくれていてた。でも、タイミングが合わず、折り返しを掛けることも忘れ、少し疎遠になっていた時期もあった。ちゃんとゆっくり話をできたのは、全ての手続きが終わった後だったように思う。真宵ちゃんは、泣けないぼくの代わりに泣いてくれた。だから、ぼくは真宵ちゃんに「あの日の真実」と、今は姿が見えない黒幕について、ありのままを話したんだ。
     これで全てが終わったと思った。ぼくは表舞台を離れ、地道にぼくの道を行く。真宵ちゃんは、家元として堂々と陽の当たる道を歩いていく。だから、ここでお別れだと……。でも、実際は想像していたものと全く正反対の反応だった。
    『よか 1359

    zeppei27

    DONE企画2本目、うさりさんよりいただいたご指名の龍馬で、『匂いを嗅ぐ』です。龍馬は湯屋に行かないのでなんというか……濃そうだな、などと具体的に想像してしまいました。香水をつけていることもあり、変化を楽しめる相手だと思います。
     リクエストありがとうございました!
    聞香 千葉道場の帰り道は常に足取りが重い。それなりに鍛えている方だが、疲労は蓄積するものなのだと隠し刀は己の限界を実感していた。所詮は人の身である。男谷道場も講武館も、秘密の忍者屋敷もすいすいとこなしたところで、回を重ねれば疲れるのも道理だ。
     が、千葉道場は中でも格別であった。理由の一つは毎度千葉佐那が突撃してくることで、一度は勝負しないと承知してくれない。そうでもなければ、「私に会いに来てくださったのではないですか」などとしおらしい物言いをされるので弱ってしまう。健気な少女を健全に支えたつもりが、妙な逆ねじを食わされている形だ。
     佐那だけならばまだ良い。性懲りもなく絡んでくる清河八郎もまあ、どうにかなる。問題は最後の一つで、佐那が坂本龍馬と自分との手合わせを観たいとせがむところにあった。彼女は元々龍馬と浅からぬ因縁があり、ずるい男は逃げ回るばかりで年貢を納めようとしない。その癖、隠し刀の太刀筋が観たいだのなんだの言いながら道場までついてくる。佐那は龍馬と手合わせできないのであれば、二人が戦う様を観たいと譲歩してくれるというのが一連の流れだ。
    3110