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    柊月んたまよしのり

    気ままに描いたり書いたりお休みしたりする。
    ジャンルは雑多。

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    POIPOI 27

    両眼を一時的に失ってしまったアークと、彼を甲斐甲斐しく介護してやるクロウのお話

    #Angelical_Syndrome
    #ジジイ組
    oldPeoplesGroup

    【A.S外伝】両眼を失ったアークの話若い頃のジジイ組、アークは驚くほど貧弱だしクロウも今程は強くありませんでした。
    そんな2人がある日敵襲にみまわれた際、弱いアークを狙った敵の数本の大きな棘により、アークは両目に棘を受けてしまいます。
    どうにか敵を殲滅し終えたクロウが駆け寄り大丈夫かと尋ねると、アークは
    「痛ぇーーー!!!!!めちゃくちゃ痛ぇーーー!!!!!!くっっそやろ、こんなん引っこ抜いてやる!!」
    と痛みと怒りで騒ぎながら両目に突き刺さっている2本の棘を掴み、クロウの「待て、そういったものは慎重に…」という制止も聞かずに勢いよく引き抜いてしまいました。
    その結果、棘についた返しにより眼球が棘に引かれるまま眼窩から抜け、ブチリという視神経の千切れる音とその絶大な激痛によりアークは「ギャッ…!!」と短い悲鳴をあげて失神してしまいます。
    そのあまりに衝撃的な光景に目眩を覚えたクロウですが、そんな事よりも目の前で両目を失い倒れているアークの事が心配です。
    クロウは気合いで意識を繋ぎ止めると、持っていた薬草で手早く止血などの応急処置をしたのち、アークを抱き抱えて大急ぎで彼の知る限りで一番の腕を持つ医者のもとへと飛んでいきました。


    その「医者」とは、翡翠の精霊。
    自身を翡翠と名乗り、人妖分け隔てなく診療してくれるという、その時代にはとても奇特な男でした。

    その彼の診察は丁寧でありながらも大胆で、
    「まず途中で起きたら怖がるだろうから起こして…っと。」
    と、気付け薬でアークを叩き起すと
    「よし、次は瞼と眼孔に麻酔をして痛みを遮断しようなー」
    と、手際よく麻酔薬を…
    眼窩へと直接流し入れて見守っていたクロウをも震え上がらせます。
    当然、アークも驚いて騒ぎますが、翡翠はそんな彼をまるで「いつも通りのこと」と言わんばかりに流すとアークの頭を緩やかにぐるりと回し、彼の下瞼辺りに脱脂綿を宛てがい、それを持たせると首を下に向けさせ躊躇なく瞼を引っ張り、用の済んだ麻酔液を銀の受け皿に落とします。
    その瞬間もアークは騒ぎますが、クロウは何も出来ず、ただ傍で
    「多少手荒だが腕は確かだ!案ずるな!大丈夫だからな!」
    と震える声で励ますことで精一杯の様子。
    クロウが名を持たぬ頃から交流のあった翡翠は彼のその冷静さを失い狼狽する様子があまりに面白く、アークの眼窩を消毒綿で丁寧に拭きながらクスクスと笑うのでした。

    やがて、処置を終えて薬と包帯、そして薬湯に使う薬草の種類を書いた紙をクロウに手渡すと
    「天使の再生能力から考えて、両眼くらいなら多少時間はかかれど無事に再生できるだろう。
    …さぁ、これからは完治するまで介護になるぞ?お前達が番になる為の予行演習とでも思って励むことだな!」
    そう揶揄い、2人から「俺たちはそんな関係じゃない!!」と怒られるのでした。

    そして数時間して自宅へと帰り着くと、クロウは紙に書かれた薬草を掻き集めるべく薬草をしまっている棚を片っ端から開けていき、
    「……今後はこの棚に見出しを付けることにしよう…」
    と、整頓の必要性を学んだようです。


    さて、そこからは山の民ならではの馴れた手さばきでテキパキと薬湯や薬膳粥などを作っていくクロウ。
    以前アークが薬草の苦味や臭味のせいでろくに口に入れられなかった時のことを思い出し、薬膳粥には幾許かの野菜や香草などを混ぜて食べやすく味を整えてやったところ、アークは大喜びです。
    目が見えなければ手元も見えないので、クロウが食べさせてやると、まるで飲むような早さで次くれ次くれと強請るアークはさながら、親鳥からの餌を求める雛鳥のよう。
    そんな彼の様子と、その世話に存外楽しく感じて思わず口元が緩むクロウに、アークは
    「あ、お前今楽しいって思ったろ?」
    と言い出しました。
    まるで表情を見たように言い当ててきた彼に驚き、
    「な、何故だ…?」
    と狼狽するクロウですが、アークの
    「見えなくても空気や声の感じで何となくお前が今どんな気分なのか分かるんだー」
    という言葉には
    「成程、視覚が遮断された分ほかの感覚が研ぎ澄まされているのか……これが適応能力というやつか。」
    と、感心するのでした。

    その後、厠の中まで着いてこようとしたクロウをどうにか押し出し手探りで用を足したり、
    クロウに風呂で身体を洗ってもらっている際に
    「こんなことまでさせてごめんなー」
    と、珍しく気弱なことを言うも、それに対するクロウの
    「いつも夜中お前がのびてる間にこうしているのだ。今更気にするな。」
    という、彼なりに純粋な優しさを込めた返しにより、日頃の情事を思い出してしまい、恥ずかしくなったアークが真っ赤になって黙ってしまったり…
    更には寝る時にアークが不安にならぬよう、寝る時も抱きしめてやったりと、日頃のそれに輪をかけて過保護とさえ言えるほど甲斐甲斐しく世話をするクロウ。
    そんな彼の有り難さを痛感しつつ、普段以上に甘やかされる嬉しさにふと
    「このままずっとこうしていたいなぁ……」
    などと考えてしまい、不謹慎なことを考えてしまったことを申し訳なく思い、一人で笑ったり落ち込んだりしているアークの姿を見て
    「目が見えぬ不安とは、かくも辛いものなのか…」
    と、アークが目が見えない不安から情緒不安定になっていると誤解したクロウは殊更に過保護になり、優しく扱うようになるのでした。


    翌朝、翡翠から貰った粉薬を飲ませようとしたクロウは、最初は子供に与える時のようにぬるま湯に溶いて与えてみたものの、溶けきらなかった薬が沈殿して残ってしまった為、結局2度もアークに苦い思いをさせてしまいました。
    そこで、ならば薬膳粥と同じく味を加えれば或いは…と思いそれを提案してみたところ、アーク曰く
    「あの味はスープや甘いのでどうにかなるもんじゃない。逆に味が大喧嘩して余計に飲めなくなる。ほんとに。」
    とのこと。
    話し合った結果、粉薬を粉のまま湯と一緒に飲むという方法で落ち着き、毎度薬湯と粉薬を頑張って飲んでいるアークの励みになるものがあればと思案したクロウは、自宅の周りの森から食べ頃の果物を採ってきては薬を飲み終えたアークに食べさせてあげるようになりました。


    ときに、若い頃のアークはかなりの負けず嫌いです。
    それはもう、「人一倍弱いくせに何を意地張っているのだ…」とクロウに呆れられてしまう程。
    そのため、視覚を失ったからと言ってじっと大人しくしている筈もなく……。
    寝室から茶の間のちゃぶ台までをクロウの介護なしでも行けるようになるべく、負傷する前までの自宅の風景の記憶を頼りに手探りながらもクロウの気配と手にあたる物の感触などを頼りにふらふらよたよたと、ふらつきながらもゆっくり移動します。
    それを見守っているクロウはアークがいつ転んでしまうか気が気ではなく、何度か助言をしようと口を開きますが、言葉を発する前にアークから
    「ノン!手助けはナシだぜ!」
    と力強く制止されてしまいます。
    そんなアークの努力にいたく感心したクロウは、引き続きハラハラしながらも
    「が、頑張れ!もう少しだ…!」
    と、ヒントを与えたい気持ちを堪えてひたすら励まします。
    そうして、どうにかこうにか自力で所定の位置についてきちんと正座したアークを見て、まるで我が子が初めて掴まり立ちを覚えた瞬間を見た親のような言い知れぬ感動と達成感が押し寄せてきて、不覚にも目頭が熱くなるクロウでした。(当時はまだ子を育てたことがありませんでしたが…)

    その時の食卓には、自分の力で頑張ったアークへのご褒美として追加でアークの大好物である葛餅も添えられたのでした。
    因みに、もしもアークが達成出来なかったとしても、頑張ったことへの労いとして葛餅をあげるつもりだったというのはクロウだけの秘密です。


    そんな生活も2週間ほど続いた頃のことです。
    徐々に再生してきていたアークの眼球は、包帯越しに瞼を触る限りだと完全に再生したように思えたのでクロウとアークは再び翡翠の元に訪れました。
    そこで初めて自力で目を開くものの、視力はまだ回復していないらしく、色と曖昧なシルエットくらいしか認識できなくて
    「まだ駄目かぁ……」
    と落胆してしまうアークに翡翠は
    「まぁそう気落ちしなくていいさ。眼球がここまで戻っただけでも大きな前進だからな。」
    そう言いながら目薬を取り出し、クロウに渡します。
    「これ、毎食後と就寝前に両眼に1滴ずつ落としてやりなさい。」
    と言われ、目薬の入った陶器の小さな急須のようなものをしげしげと眺めながらクロウは心の内で
    「(アークの事だ、慣れるまで怖がって暴れるのだろうな……)」
    と、この後に待ち受けているであろう苦難を思い、げんなりするのでした。

    果たして、その後自宅で実際に目薬をさしてやると…
    クロウの予想は大いに覆されることとなりました。
    せめて失敗して何度も無駄に辛い思いをせぬようにと開いた瞼を指で押さえつつ目薬を垂らすと、眼球に落ちた瞬間こそ身をビクッと跳ねさせて脊髄反射で瞼が閉じかけるものの、アークの口からは悲鳴も弱音も出ず、実に大人しいものです。
    普段の騒々しい彼をよく知り、今回も抵抗や弱音が飛び出すと想定していたクロウは驚きと困惑で
    「いやに大人しいな……?」
    と、心配げに訊ねます。
    すると、それに対しアークは
    「バァカ、俺だって我慢くらいできるんだぜ!早く治す為なら頑張るさ!」
    と、ドヤ顔ですが、クロウの
    「眼も開けぬ身の癖にあちらこちら歩き回ろうとして俺を振り回していなければその言葉も説得力を持つのだがな…」
    という一言でしょんぼりと小さくなってしまいました。
    そんな全身でコロコロと表情を変えるアークを面白く思うクロウですが、これは単に意地悪ではなく彼なりに考えがあっての苦言でもありました。
    眼を負傷して半月、最近ではクロウが優しい声をかける度に嬉しそうな…それでいてどこか申し訳なさそうな表情をするアークの様子に気付いたクロウはアークの変なところで健気で律儀な性格を考えると、甘やかすばかりでは逆にアークに負い目を感じさせてしまうのでは?と思い至り、それからはたまに小さな苦言や軽い嫌味を言って普段通りに近い話し方をするようにしているのでした。

    そしてクロウのその判断は正しかったようで、それからはアークも普段通りの調子を取り戻し、無理に笑顔を繕うこともなくなり、今では目隠しという状態への好奇心があらぬ方へ向かってしまい、所謂「目隠しプレイ」にハマってしまっている程であるのは流石に如何なものかとクロウを悩ませているところではありますが……
    まぁ何だかんだでそれも楽しんでいる彼らです。


    そしてアークが両眼を失ってからひと月が経とうかという頃…
    彼の両目は無事に視力も取り戻し痛みも無ければ後遺症などもなく、翡翠からの太鼓判も貰って文句なしの完全復活を遂げました。

    診察の際に、おそるおそる瞼を開いたアークの眼が真っ先に捉えたのは真正面にいる翡翠ではなく、その斜め後ろから本人以上に緊張した様子でこちらを見つめているクロウの姿でした。
    普段滅多に見られない貴重なその様子があまりにも面白くて、ついつい吹き出して笑うアークの様子に、翡翠も彼の視力が戻ったことを察しつつも、念の為と軽く視力を確かめます。
    やがてそれも終わると、カルテを書き終えた翡翠は
    「傷も残らず視力も全回復、その他、後遺症も無し…と。
    おめでとう、二人とも。今日からもう普通に過ごしていいぞ!」
    心からの祝福をたたえた笑顔で2人にそう告げました。
    それを受けたアークはガッツポーズをし、歓喜の雄叫びを上げます。
    そしてクロウに至っては余程嬉しかったようで、
    「長かった…。アーク、良く頑張った……!!」
    と、人前だということも忘れてアークを抱きしめ、普段表情に乏しい彼にしては珍しく、感動のあまり泣きそうになりながらアークの頭をガシガシと撫でます。
    そんな彼らを微笑みながら見守っていた翡翠でしたが、次の瞬間
    「ま、あと3日は薬湯と飲み薬は飲んでもらうけどな。」
    と、にっこり顔のまま言い放ち、2人を凍りつかせるのでした。


    その後…目に包帯をしていた頃の気丈さと健気さはどこへとやら、アークは飲み薬や薬湯を前に泣き言を吐いては逃げる隙を窺ったり実際に逃げようとしたりしますが、当時はまだまだ弱く、俊敏さも足りていなかったアークです。
    瞬時に捕獲され必死の抵抗も虚しく、きっちり全部飲まされるのでした…。
    ちなみに、あまりに激しく抵抗した時などは口移しで無理やり飲まされることもあったのだとか。


    しかし、そんな彼に手を焼きつつもクロウはどこか嬉しそうでした。
    盲目生活となった当初は普段では有り得ない程にしおらしくなり、気丈に振る舞うもどこか辛そうな様子のアークが心配で仕方が無かったクロウでしたが…今ではこうして、すっかり元通りの元気で騒がしい彼に戻り、嫌なものは嫌と、我儘まで言えるまでになったその姿に漸く
    「本当に完全復活したのだな」
    と、実感できたのです。
    他ならぬ親友の元気な姿に心の底から安堵したクロウは、態度こそ通常通りの冷たさに戻ったものの、内心では嬉しくて仕方がありません。
    しかし、まだまだ気恥しさに阻まれて素直になれないクロウは、口や態度には絶対に出そうとしません。

    …が、そこは長い付き合いのアークです。
    そんな彼の性格は熟知していますし、言葉の端々や仕草、癖などからクロウがどれほど安心して喜んでくれているかをかなり正確に察しています。
    特に、クロウは照れると頭をボリボリと掻きながら背を向ける癖があることや、喜んでいる時にはつむじから生える二本の毛が動物の尾のようにぴこぴこと揺れるのを知っています。
    そのため、クロウの悪態に対して文句を言いつつも、表情や声色はどこか嬉しそうなアークです。


    それから3日後……
    およそひと月にわたる飲み薬から漸く開放されたアークとの久々の晩酌を楽しんでいたクロウは、自分の隣で涼やかな銀色の光をたたえる月を嬉しそうに見上げているアークの横顔を見てぽつりと
    「やはり、目が見えているお前が一番良い。」
    そう零しました。
    その言葉にアークが「え?」と振り向くと、零した本人であるクロウは口元を手で隠し、どこか気まずそうに目を逸らしてしまいます。
    恐らく、無意識に口から出てしまって慌てたのでしょう。

    しかしクロウのその一言の真意に気付かないアークは言葉の通りに受け取ってしまい
    「バッカお前、そりゃあ目が見えないより見えてる方が良いのは当たり前だろ〜」
    と、笑ってクロウの背中をばしばしと叩きます。
    クロウも真意を悟られなかったことに安堵して
    「それもそうだな」
    などと返していましたが、安堵に気が緩んだはずみに
    「お前の瞳は見ていて飽きないからな」
    と、2度目の自爆をしてしまいます。
    しまった!という顔をした次の瞬間には顔を逸らしてしまったクロウのその狼狽した様子に、最初は頭に疑問符を何個も浮かべていたアークでしたが、月明かりでもハッキリと分かるほどに真っ赤になった彼の耳を見て合点がいったらしく…
    「なぁんだよクロウお前〜!何だかんだ言ってもやっぱ本当は俺の事大好きなんだろー?正直に言えよ、ほらほらぁ〜!」
    そう言いながら満面の笑みでクロウに抱きつき、顔を覗き込もうとするアークを片手で突っぱねて
    「見るな!今俺の顔を見たら殴り飛ばすからなっ!!」
    なんて、珍しく歳相応の口調で怒鳴るクロウ。
    普段は背伸びして冷静で大人びた振る舞いに徹しているのに、うっかり口からこぼしてしまった本音を聞かれた気恥しさで真っ赤になった今の顔は見られたくない…そんな彼なのでした。





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