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    あやめ

    ジョーチェリ絵置いてます。女体化多め。

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    あやめ

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    jcオーコレ展示作品です。
    サマコレ展示小説の虎次郎視点のお話
    ※薫女体化です。
    虎次郎→薫→愛抱夢 前提の内容です。

    心理描写ばかりで小説とよんでいいのか分からないシロモノ。とりあえず力技で完成させました…。

    Departure此の所、日課が増えた。薫の病室に足を運ぶことだ。望まれての行動では勿論ない。ほんの数秒でも毎日薫の顔を見たいという虎次郎の身勝手な動機での日課だ。病室に顔を出すと決まって薫には憎まれ口を叩かれるが、それすら愛おしく感じてしまうのは惚れた弱みだろう。
    『桜屋敷薫』と書かれた病室の前を訪れる度に、薫は大怪我を負い入院している、という事実に直面させられる。
    怪我をした薫の姿を見る度に、胸が引き裂かれそうになる。けれど、側に居たいと思ってしまうのだ。
    虎次郎はふぅと小さく息を吸い込んだ。
    「入るぞ〜」
    「また来たのか。懲りない奴だな。」
    「なんだよ。冷てえこと言うなよな」
    開口早々、普段と変わらない調子の薫がいた。懲りないというのは、虎次郎がナースのナンパ目的で来てると思っているからだろう。こちとら100%全身全霊で薫目的で来てんだよ!と声を大にして叫びたい。

    「どうせ来るなら、酒でも持ってきたらどうだ」
    「お前なぁ。いくら何でもそういった常識は持ち合わせてるっつの」
    「ゴリラのくせにか?」
    「ゴリラじゃねえ!つか、無断で病室抜け出して酒をせびる様な奴に言われたくねぇ」
    入院している筈の薫が店に現れた時は正直度肝を抜かれた。頭、腕、脚と全身包帯だらけで、おまけにパジャマ姿。酒を要求したかと思ったら、そのまま眠りこけてしまう有様だ。プライドの高い薫がこんな無防備な姿を見せるなんて、よっぽど入院生活が苦痛なのだろう、と思うと同時に自分の元へわざわざ足を運んでくれた、という事実が嬉しくて内心浮かれてしまう。それが薫にとって、只の気の知れた幼馴染が経営している馴染みの店に来ただけだ、という理由だったとしても。
    自分は薫にとって特別な存在なのだ、と都合良く解釈してしまい何だか頬が緩む。
    「こんな身動きもロクに取れない状態で、一日中病室に強制収容されているんだ。仕事も出来んし、退屈でおかしくなりそうた。少しくらい構わんだろう」
    「だからって、やることが大胆すぎんだよなぁ」
    その時、病室の戸を叩く音が二人の会話を阻んだ。
    「どうぞ」
    今までとはまるで違う、他所行きの声色で薫は応じる。
    「失礼します。あっ、すみません。お取り込み中でしたか…」
    「いえいえ、大丈夫ですよ」
    お取り込み中だし、大丈夫じゃねえ、と虎次郎は心の中でツッコんだ。
    視線を扉の方に向けると、スーツ姿の20代半ばくらいの男が恐縮そうに立っていた。
    おそらく薫の仕事関係の者だろう。…そう思いたい。
    (この前、仕事用のノートパソコンを俺に持って来させたからな…)
    『帰れ』と言いたげに目配せする薫に、虎次郎に不服を申し立てたかったが、渋々退散する事となった。
    自分には決して向けない、柔らかな作り笑顔を男に向ける薫の姿が横目に見えた。
    (あの男、少しだけ愛抱夢に雰囲気が似てたな…)
    色白でスッとした容姿、という所ぐらいしか共通点はなかったが、それでも虎次郎の心は騒ついた。
    薫が愛抱夢に片想いをしている姿をずっと傍らで見てきた。片想いの辛さや切なさは身を持って知っている。ずっと想い続けた相手にあんな酷い仕打ちをうけるなんて、どんなに辛かったことだろうか。しかも女の顔に傷をつけるなんて、とても許されることではない、と愛抱夢に憤るが、もっと許せないのは何にせよ己自身だ。
    (無理矢理にでも、俺が愛抱夢とのビーフを止めるべきだった)
    こうなることを薄々わかっていながら、薫と愛抱夢のビーフを黙って見ていた自分が今となっては憎い。
    (あいつは一度決めたらテコでも動かない頑固者だ。俺がどうこう出来る女じゃないしなぁ。それに…)
    薫の願いを叶えてやりたかった。愛抱夢の思いを確かめたいという薫の気持ちを否定する権限など、俺にはないのだから。
    その結果、薫は大怪我を負ってしまった。倒れた薫の姿を今でも昨日の様に思い出す。病院までの道のりの中、薫を抱え、ただ必死に薫の名前を呼び続けた。
    このまま、薫を失ってしまったらと考えたくもない予感が頭をよぎる程、狼狽していた。

    今は包帯だらけで満身創痍の痛々しい姿だか、普段通りの振る舞いを見せる薫の元を訪れる事によって、ただただ安心感を得たいのだ。同時に自身の情けなさを実感する。
    (…せめて、今は側に居たい)
    それだけで、罪悪感が薄まる気がした。
    虎次郎は後ろ髪を引かれる思いで病院を後にした。

    翌日も虎次郎は薫の病室を訪れた。
    今日は邪魔が入らないで欲しい、と願う。たった少しの時間でも薫と二人だけで過ごしたい。
    「俺だ、入るぞ〜」
    「どこの俺さんだ」
    「相変わらず、口が減らねえ奴だぜ」
    想定内の薫の態度が愛おしい。心の声を読まれたら、間違いなくお得意の脚技をくらうだろうな。ギプスで固められた脚で足技を披露されるかもしれない。そんな事になっては困るので、絶対に気づかれない様にしなければ。
    「そういや、昨日の男、仕事の関係者か?」
    しばらくたわいのない会話を続けた後、虎次郎は切り出した。
    「ああ。予定していたイベントに出演についての緊急の打ち合わせをしたかったようだが、特に仕事の話もなく見舞いだけで帰って行ったな。この姿をみて流石に遠慮したのかもしれん」
    「最初から見舞い目的だったんじゃねえの?打ち合わせだったらメールかなんかで事足りるだろ」
    「だとしたら、気を遣わせてしまったかもな」
    「その配慮の十分の一でも俺に分けてくれたらなぁ」
    「何で私がお前の様なゴリラに配慮しないとならんのだ」
    「なんだと、このミイラ眼鏡!」
    「黙れ、この脳筋ゴリラがっ!」
    男の事を聞き出したかったが、最後には言い合いになってしまった。いつものことだ。
    兎も角、あの男は仕事関係の人間という事で間違いはない、と確認出来ただけ良しとしよう。
    いかんせん薫の周りの男にはどうしても敏感になってしまう。自分は色んな女に手を出しておいて、なんて都合の良い考えなのだろうか、と自分でも思う。
    鍛えられた肉体と恵まれた容姿に口説きのテクニックを存分に活かせば、女なんて腐るほど寄ってくる。
    その中の一部の女とは肉体関係も持った。
    その度に、数十年も熟成させた薫への報われない思いを掻き消すことが出来ないかと、ベッドを共にする女に期待した。
    だが結果は変わらなかった。どんな女を抱こうとも、全て薫に変換してしまう悪い癖が虎次郎にはあった。
    そして薫と比べて想像する。
    『胸は薫より小ぶりだな』
    『薫の方が色白だし、脚も綺麗だ』
    『薫はどんな表情で、どんな声で抱かれるんだろうか』
    身勝手過ぎて我ながら笑えてくる。
    行為の最中にうっかり薫の名前を口にしてしまい、相手に呆れられたことがあった。お互い本気ではない事は承知だったから良かったものの、平手打ちされても可笑しくはない失態だ。本当にひどい男だと虎次郎は自嘲した。

    薫とは物心ついた頃から一緒にいる仲だ。
    家族という程近くはないが単なる知り合い程遠くもない。友達、と言ったら薫は否定するだろう。薫曰く、虎次郎との関係はただの幼馴染の腐れ縁というヤツらしい。
    認識の差がありすぎて、この温度差に溜め息が出そうだ。
    俺がゴリラと言われる筋骨隆々の体型になったのも、何かと絡まれる薫を守る為に体を鍛え始めたことがきっかけだし、料理人の道を志したのは、薫に初めて作ったカルボナーラを褒められたことが発端だった。
    薫への想いを積もり積もらせて最早数十年。
    『強引が信条』と自称しているにも関わらず、薫にはその信条を一向に発揮出来ずにいる。
    薫にこの気持ちを伝えてしまうと今まで培ってきた関係性が崩壊してしまいそうでどうしても踏み出せないのだ。
    薫の事を幼馴染ではなく、一人の異性として見ていることなんて、当の本人は全く気づいていないだろう。
    (本当に情けないヘタレ野郎だよなぁ、俺は)
    それでも、好きだ。
    と薫の側にいる度、つくづく思う。
    愛しい女性が傷だらけの包帯姿で病院のベットに横たわっている。その度に胸が軋む。この大怪我を負わせた相手が薫の想い人である愛抱夢が故に尚更だ。
    実際の所、薫の愛抱夢へ恋心は高校時代に限られていたのだが、虎次郎はまだ薫が愛抱夢へ恋心を抱き続けていると勘違いしている。
    虎次郎自身、薫への恋心が普遍の為、薫もそうに違いないと無意識のうちに思い込んでいるのだ。

    「傷、まだ良くなんねーのな」
    「そんなにすぐに治るわけないだろう」
    「…本当に、ボロボロじゃねーかよ。
    女の顔に傷をつけるなんて。最低だぜ、愛抱夢の野郎はよ…」
    いつものように茶化して、なるべく核心には触れずにいたかったのに、思わず本音が漏れてしまった。
    「愛抱夢は、悪くない!…油断したこちらにも非はある」
    精一杯の強がりなのだろう。
    深く傷ついた胸の内を、必死に隠しているように見えた。
    「お前は悪くねぇよ。
    あんなやり方は、いくら何でも酷えだろ」
    「…ふん、次はやり返してやる」
    「お前は愛抱夢に甘いよな。昔から」
    また、本音が漏れてしまった。
    薫を責めるような言い方を打ち消すように、虎次郎は言葉を続けた。
    「強がんのもいいけど、あんまり、無理すんなよ」
    意地らしい薫の姿が余りにも切なくて愛おしく、虎次郎は思わず薫の頭に触れた。普段ならば拒絶されていただろうが、薫は抵抗もせず黙ってこちらを見ている。
    「早く治して、また滑ろうぜ。お前がいないと張り合いがないからな。お前が取り寄せたワインだって、早く飲みてえし」
    気を良くして話を続けた虎次郎だったが、薫の異変に気づき固まった。
    「…薫?」
    薫は泣いていた。
    ーあの気の強い薫が俺の前で涙を見せるなんて。
    「…帰れ。
    …見るな。…帰れと言ってるだろ!」
    声の震えを必死で抑えながら、気丈に振る舞おうとする薫の姿に、虎次郎の中の押さえ付けていた何かがブチン、と千切れた気がした。
    薫を守りたい。報われなくてもいい。俺が薫の支えになりたい。
    「こうすれば見えないだろ」
    気がつくと薫の体を抱きしめていた。
    細くて、今にも折れそうで、こんな身体でビーフに挑んでいたのか。と思わず泣きそうになる。
    ふるふると嗚咽で震える薫の身体を、怪我に響かないよう細心の注意を払いしっかりと抱きしめた。今までに触れたどの女性たちよりも、柔らかく、良い香りがする。
    その香りは何処か懐かしく、虎次郎の脳裏に 
    七年前のとある出来事が蘇る。
    (二度目があるとは思わなかったな。)

    愛抱夢がアメリカに旅立ってしまった翌日、授業時間になっても姿を現さない薫を探し、屋上へ向かった。予想通り彼女はそこにいて、一人遠くを眺めていた。虎次郎が近寄ると、少し驚いた表情で振り返る薫の様子が昨日の様に思い出される。
    「虎次郎…サボりかよ」
    「それはこっちのセリフだっつの」
    「ははっ、確かにそうだ」
    笑ってはいるものの、見るからに空元気だ。
    「愛抱夢の奴、今頃あっちに着いてる頃だろうな」
    空を見上げながら薫は言った。
    「気持ち、伝えとけば良かった」
    ポツリと溢れた言葉を虎次郎は聞き流さなかった。そのまま黙りこくる薫に近づくと、表情は見えないが肩が微かに震えているのが見て取れた。
    「薫」
    虎次郎が声をかけると同時に振り向いた薫の顔は涙で濡れており、虎次郎は内心動揺した。
    物心ついた時から一緒にいるが、泣き顔は見たことがなかったからだ。あの気の強い薫が、涙を見せるなんて。それだけ愛抱夢への想いが強いということなのだろう。その事実が悔しくて仕方がないのに、傷ついた薫の気持ちを思うと切なくて複雑な気持ちに苛まれた。片想いの辛さはよくよく知っているから尚更だ。
    好きだ。想いが伝わらなくても、俺だけは薫を裏切らないでいたい。
    様子を伺うようにそっと薫に近寄ると、虎次郎の胸に桜色の頭が沈んだ。
    薫のらしからぬ行動に激しく動揺したが、何も言わずに自身の胸に顔を埋める薫の温もりに、溢れそうになる想いを必死に抑えながら、優しく抱きしめた。

    「愛抱夢…」
    その声に、虎次郎はハッと我に返った。
    今腕の中にいる薫は、ピアスの代わりに包帯を纏った大人の薫だ。その薫があの時と同じように震える声で愛抱夢の名を呟いている。
    (俺なら絶対に薫を傷つけたりしねえのに。絶対に大事にするのに。何で、愛抱夢なんでよ…)
    悔しさとやるさなさで、自然と薫を抱きしめる腕に力が篭った。薫は抵抗もせず腕の中に収まっている。本当に、心の底から愛おしいと思った。

    どのくらい時間が経ったのだろう。何処となくふわふわした感覚が続いている中、少しずつ薫の震えが治まっていくのを感じた。
    どうやら薫は落ち着きを取り戻したようだ。
    抱擁を緩めてやると、薫は密着していた虎次郎の身体から顔を離した。
    泣き腫らし真っ赤になった瞳と涙で濡れそぼった表情の薫が不謹慎にも妙に色っぽく映り、心臓が跳ねる。
    「大丈夫か?」
    「…お前にこんなみっともない姿を見られるなんて」
    なんとか平静を装い尋ねると、薫はバツの悪そうな表情で応えた。
    「みっともなくねえし、泣きたい時は泣きゃいいんだよ」
    俺の胸なら、いつでも貸してやる。と心の中で続ける。
    「今さら遠慮される間柄でもねえだろ。どんだけ長い付き合いだと思ってんだよ」
    「…単なる腐れ縁だがな」
    「おーおー。そうかよ。そうやって言い返せるくらいなら大丈夫だな」
    涙でぐしゃぐしゃになりながら、精一杯の強がりを見せる薫が可愛らしくて、愛おしくて、思わず頬に触れてしまった。親指で涙を拭ったあとに、しまったと思った。少し調子に乗りすぎたかもしれない。薫の気を悪くさせてしまっては元も子もない。慌てて自身のポケットからハンカチを薫にそっと手渡した。
    『ゴリラくさいハンカチなんか使えるか!』いつもなら、こう返されていただろう。
    なのに目の前の薫はただ黙ってハンカチを受け取り、潤んだ瞳でどこか不思議そうに手元を見つめていた。
    やっぱり綺麗だ。美人だ。切れ長の瞳に色白の肌。美しい、と改めて思った。
    そしてやっぱり好きだ、と数えきれないほどに思ってまた繰り返しそう思う。
    今なら、この想いを伝えても、薫は受け入れてくれるのではないか。
    「なぁ、薫」
    虎次郎の呼びかけに薫は頭を上げた。返された真っ直ぐな眼差しに、虎次郎は後悔した。
    心身共に弱っているところをつけ込んで、あわよくば想いを伝えようだなんて、俺はそんな卑怯者じゃない。
    「…何だ?」
    無言で固まる虎次郎を薫は不思議そうに見つめている。
    そんなに見つめるな、可愛すぎて困るだろ。
    「いや、何でもねーよ。
    …んじゃ、そろそろディナーの仕込の時間だし、帰るとするかな」
    これ以上ここにいてはうっかり口を滑らせてしまいそうで、早く立ち去らなければと、内心焦りながら椅子から立ち上がった。
    「また、明日も来るからな」
    「…来なくていい」
    「へいへい。来てほしくなければ早く退院しろっての」
    「…このハンカチ、いいのか」
    「おー、別に返さなくていいからな。ちゃんと洗濯はしてるから安心しろ。んじゃあ、な。」
    病室を後にして、薫の愛抱夢への気持ちを改めて認識してしまった、と大きなため息が思わず漏れる。
    そんなこと、百も承知で、それでも俺は薫に惚れているんだ。
    バイクに跨りながら、ジリジリと焼けた道を駆け抜ける。
    このまま想いを告げずに一生を終えるのか?薫にパートナーが出来たらどうする?
    結婚相手を紹介され、式にも招待されても、俺は後悔しないのか?
    妄想じみた未来図が脳内を駆け回る。
    きっと暑さのせいだ、と精一杯誤魔化しながら、痛いほど突き刺す日差しを浴び、虎次郎はバイクを走らせる。
    俺が思い描く未来はもっと明るくて、今のような何気ない、それでも充実した日常で満ちているはずだ。そして、隣には薫がいる。
    そうだ。薫とずっと一緒にいたい。愛し合いたい。家族になりたい。今まで先の将来のことなど深く考えたことなんてなかった。料理人になったのも、ただ目の前の願望を叶える為に努力した結果そうなったし、楽観的にその日暮らしのような感覚で生きてきた俺にとって、これからも漠然と薫と一緒にいるのだろうな、と思っていた。しかし、これ以上の関係を薫と築きたいと、改めて認識してしまった。だがそれは到底今のままでは当然無理な話だろう。
    薫だって1人の女性で、いつか家庭を持つかもしれない。薫は貪欲で向上心のある女性だ。きっと自分に相応しい、社会的にも金銭的にも良い男を見つけるだろう。相手には人間性よりも条件を重視してバツがつきそうだがな、と長年の付き合いの中で薫の性格を熟知しているが故に野暮な想像をしてしまう。
    でも、俺ならきっとそうはさせない。させたくない。とまだ見知らぬ、いるかいないかもわからない相手に対抗心を燃やす自分が可笑しくて堪らなくなった。頭でやいやいと考えるのは性に合わないな、とバイクを停め、店まで向かう。
    使い慣れた鍵を鍵穴に突き刺すと、ディナータイムの仕込みの為、いつものように店内へと足を運ぶ。眼前のカウンター席に目をやると自然と薫の姿が思い浮かんだ。
    あれこれ考えるのはもうやめた。俺は俺の願望を叶えるために、いつまで経っても決して消えることのないこの気持ちに決着をつける為に、行動に移す時が来たのだ。
    太く丸太のような腕をコック服に通しながら、一大決心を胸に宿した。
    薫に想いを伝えよう。例えそれが残念な結果に終わっても、きっと俺たちの関係が終わることなんてないと信じて踏み出すしかない…

    いや、そうじゃないだろ!
    虎次郎は両手で己の頬を叩いた。
    「薫を幸せに出来る男は俺しかいねえんだよ!」
    弱気になっている己を叱咤激励するように、大声で決意を口にした。
    この時、薫にかつてない心境の変化が生まれているなど虎次郎は梅雨も知らない。

    二人の恋物語の歯車はゆっくりと着実にまわり始めるのだった。
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