それをすてるなんてとんでもない! 大戦から数年が経ったある日のこと。我らが長兄の嫁さん・エイミさんに呼ばれて風の賢者の屋敷を訪れたおれは仰天した。案内された広めの部屋が、エイミさんをモデルにした絵画や像で溢れていたのだ。
とにかくいろんなエイミさんがいる。
いつもおれらが見ている、仕事のできるカッコイイ姿だけでなく、おれらが見たことのない、少女のように笑うエイミさん、苦悶の表情を浮かべるエイミさん、そして、なんとも艶かしい姿の……
「おいポップ!何をじろじろと見ている!」
我らが長兄のお出ましだ。
何でか知らないが大戦後ヒュンケルは芸術に目覚め、剣や槍と同様に徹底的に極め、気付けば売れっ子芸術家になっていた。
世に出回っているヒュンケルの作品は、主に大戦を題材にした作品だが、どうやら世間の知らぬところで、愛妻をモデルにした作品をしこたまこさえていたらしい。
「ねえヒュンケル、いくらなんでもこのままでは家が埋まってしまうわ。売るか捨てるかしてもらえないかしら?」
「嫌だッ…!!!先程のポップのように、この絵や像を見た者が君の隠された魅力に気付いてしまうのは耐えられないし、捨てるだなんてとんでもない…!」
「はぁ…じゃあせめてこれ以上作らないでもらえる…?」
「それも無理な話だッ…!!君を見ていると、この手でその美しさを表現したい衝動を抑えられないッ!!!」
…なんだこのやりとりは…?駄々っ子かよ?芸術家ってそういうもんなのか…?
ああ言えばこう言うヒュンケルに、ついにエイミさんは伝家の宝刀を抜いた。
「…じゃあ取引しましょう。これらの作品を捨てるか、二度と私に触れないか」
「!?」
おれは、我らが長兄がこんなに苦悶する顔を見たことがない。ほんとエイミさんと暮らすようになって、表情が豊かになったな……。そんなことをしみじみ思った。
その後、自室に飾れる範囲の作品だけ残しても良いこととなり、何時間もかけてヒュンケルは選別した。そして、残りの全てはおれの極大消滅呪文でこの世から消し去られることとなった。
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後日談
その後もどうしても制作の衝動を抑えられなかったヒュンケルは、エイミさんに内緒で作品をつくるたびに、絵画は おれやマァムやノヴァやメルルのところに預け、彫像はデルムリン島へと運び込むことになり、おれは頻繁にその手伝いをさせられることとなった。
おしまい