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    ichika__82

    光エスとかアイ光とかアイエスがすきです
    光はうちの子設定です

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    ichika__82

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    うちの子討滅戦の導入部分。イヴェールが蛮神化するまでを書いてみました。

    蒼天氷結あの時、目の前で何が起こったか理解できなかった。

    視界が紅で塗り潰され、前に居た彼がいなくなった。
    あたたかな雫が顔や腕から流れるのを感じた。
    どさり、ばしゃ、と耳障りのする音が響いた。

    「………………ごめん、また、きみを……ひとりに……」

    足元から聞こえる、聞き慣れた声。

    どうして君は、私のことばかり守ろうとするんだ。
    自分を大切にしなさいと君はいつも言うけれど、
    それはこちらの台詞だ。
    そう言い返しても、君はやれやれと笑うだけだった。

    「──────イレール?」

    動悸が酷い。声が掠れる。汗が頬を伝う。

    『戦神の化身を名乗るなど、不敬にも程がある』
    『猊下は何故このような存在をお認めになるのですか』
    『あの者が戦神の守護者だと?あの暗黒騎士が?』
    『奴等は許されぬ存在だ。神を穢す者など殺してしまえ』

    ああ、そうか。
    神に仕立て上げられた無様な男は、神を信じる者達に
    葬られようとしているのか。
    それをイレールが……私の騎士が、守ってくれたのか。

    『さあ、あとはあの不敬者ひとりだ』
    『戦神ハルオーネの名の元に、あの者に誅罰を!』

    不快な叫びが重なる。礼拝堂を埋め尽くすソレと私、
    不敬なのはどちらなのだろうか。

    「五月蝿い」

    ぱきん、と何かが砕ける音がした。
    段々と視界が白くなっていく。
    耳の先が痺れてゆくのが分かる。
    息を吐く度に、周囲が凍ってゆく。

    さむい。つめたい。
    あたためてくれたイレールは、もういない。
    私はひとりだ。

    『それは違うぞ、我が力を授けし人の子よ』

    女の声が頭に響く。
    力を振るえ、奴等を罰せよ、全てを壊せ。

    『汝こそが誅罰を下す者。さあ、我が力を共に示そうぞ』

    蒼天を氷の粒が覆ってゆく。
    ぱき、ぱき、と音を立てて民衆が氷像と化してゆく。

    『我が槍を持て、愛しき子よ』

    声に導かれるがままに手を伸ばす。
    煌めくダイヤモンドダストが指先へ集まり、
    一振りの槍となった。

    石突を地面に打ち付けると、氷像達は粉々に砕け散った。
    紅の氷粒がさらさらと雲海に消えてゆく。
    かの神がヒトに抱いていた願いの行く末を示すように。

    『民を守りし騎士は高潔であれ』
    『慈愛に満ちた、善良な民であれ』
    『汝の愛を貫け』

    裏切られた彼女の想いが呪いのように流れ込んでくる。
    槍を持つ手に込めた力が強まり、氷霧が身を包む。

    『ヒトの欲望に塗れた信仰も、歴史も、壊してしまおう』
    『我が槍を穢す民などに我が加護は必要ないであろう?』

    ああ、そうだ、その通りだ。

    偽りの歴史も、穢れた信仰も、全部壊そう。
    この国にはもはや彼女の加護は残っていない。
    そんな伽藍堂な国、無くなってしまえばいい。

    私は神を宿した人形でも、神の器でもない。
    だったらもう、私自身ももう要らない。
    全部、全部凍りついて、雲海の底にでも沈んでしまえばいい。

    思考が凍る。破壊への衝動だけを残し、意識が遠のいてゆく。
    最後に瞳に映ったのは、黒紅色の氷に包まれたイレールの姿と
    彼に伸ばした自らの手を覆う、氷でできた籠手だった。
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