騎士達の休暇 この日のイシュガルド・ランディングは、夏の太陽よりも高い熱気で包まれていた。
「アルトアレール様、どうかお気をつけて!」
「アイメリク様!行ってらっしゃいませ!」
「皆様にハルオーネのご加護がありますように!」
黄色い歓声と共に、飛空艇へ向かう面々へ向けた声援が響く。アイメリクとアルトアレールの二人が困ったような笑顔で貴婦人達に手を振ると、歓声は一層大きくなった。
そんな様子を面白くなさそうにしているのが、アルトアレールの弟・エマネランだ。
「兄貴達は良いよなぁ。貴族院で大活躍して、イシュガルドの貴婦人達は皆二人に夢中だ」
「エマネラン様。フォルタン家の男子として立派な姿をお見せすれば良いのですよ」
「ちょっ……オノロワ……」
「オノロワの言う通りだ。外交が得意ならば、イシュガルドの社交界だけではなく他国にも通用できる人脈を作れと言っているだろう?」
「兄貴まで……」
がっくりと肩を落とすのは、フォルタン家の次男・エマネラン。流石に国家元首であるアイメリク・ド・ボーレル貴族院議長の前でこう言われてしまうと、何も言い返すことができないようだ。
「二人とも、そのくらいにしておいてやれ。そろそろ飛空艇の点検が終わるそうだ」
「アイメリク卿、かしこまりました。では参りましょう」
四人の行き先は、東洋の都市国家・ラザハン。イシュガルドの夏よりもずっと暑く、多湿で、冬であっても雪が降らない地域らしい。多様な種族が鮮やかな色彩に包まれて暮らしており、噂に聞く限りでは此処イシュガルドと正反対な国とも言えそうだ。
アイメリクとあるトアレールがイシュガルドでは異例の長期休暇を取り、視察も兼ねてラザハンに赴くことになった。滞在の間はラザハン太守である星竜ヴリトラの元で世話になることになっているが、どうやらエスティニアンが手配を手伝っていたらしい。久々に友の顔を見られると、アイメリクはどこか浮き足立っているようだ。
「アイメリク卿、どこか嬉しそうですね」
「あ、ああ……」
「親友との久々の再会、ってやつでしょ?相棒もいるらしいし、俺も楽しみだな」
「ああ、そうだな。彼も居るんだった」
竜詩戦争を終わらせた立役者の一人、イヴェール・シュヴァリー。終末を防ぎ『英雄』という柵から解放された、アイメリクのもう一人の友。
二人はラザハンでどうしているだろうか。東の空をぼんやりと眺めながら、アイメリクはサベネアの衣装に身を包んだ二人を想像してみた。
──驚くほど似合わないな。
空の旅の後に全く同じ台詞をエスティニアンとイヴェールの二人から言われることを、皮はまだ知らない。