キャンディの代わりに甘いキスを「ねえねえ、メタナイト。お菓子くれなきゃいたずらするぞって言って」
「……いきなりどうしたんだ?」
十月最後の夜。家で一人静かに読書をしていたメタナイトの元にカービィが突然訪ねてきた。
ぶかぶかの狼の着ぐるみ。
ワドルディたちと仮装パーティに行くと言っていたからその帰りだろうか。
カービィはニコニコしながら両手を後ろに隠している。
そんな様子が微笑ましいので、カービィの考えはなんとなく予想がついていたが、気づかないふりをする。
「……お菓子くれなきゃいたずらするぞ」
口に出してみるとなんだか恥ずかしい。メタナイトは仮面の奥で思わず苦笑いした。
「うふふーっ!残念でしたー!お菓子ならたくさんあるよーー!」
カービィはとびきりの笑顔とともに後ろに持っていたものを勢い良く差し出す。
カボチャのおばけの形をしたバスケットに色とりどりのキャンディが溢れそうなくらい詰まっていた。
「こんなに沢山……どうしたんだ?」
「パーティでもらったんだ。お菓子釣りのゲームしたんだけど、ぼく優勝したんだよ!いっぱいあるからメタナイトにもあげるね!」
カービィは嬉しそうにそう話す。昔から食べ物が絡んだ勝負にはめっぽう強い。
メタナイトは思わず頬を緩める。
「ありがとう」
「うん!今日はぼく、お菓子の大金持ちだからね!誰にもいたずらされないよ!」
カービィは得意げに胸を張った。
「…………」
「ん?どうしたの?」
ふと黙り込んだメタナイトをカービィは不思議そうに見つめた。
「……やっぱりいらない」
メタナイトそう呟くと、突然カービィを抱きしめてキスした。
「?!」
カービィは驚きのあまりバスケットを持っていた手を離した。
ばさりっと音を立ててカラフルなキャンディが床に散らばる。
メタナイトは一向に構うことなく、カービィを抱きしめる腕に力を込めた。
「……び、びっくりしたぁ!もうっ!いきなり何なの!」
しばらくして解放されたカービィはぷくりと頬を膨らませてそう言った。
顔が赤い。そんな様子が可愛らしくてメタナイトは思わず目を細める。
「すまない。せっかくだからいたずらしてみたくなったのさ……私はキャンディより君が良い」
カービィの耳元に顔を寄せてメタナイトはそう言う。
「……っ!!!」
メタナイトの甘い囁きにカービィは顔を真っ赤にした。
照れを隠すかのように、慌てて床のキャンディに手をのばす。
「メタナイトのばかっ!今度からお菓子あげないっ!」
「ふふっ。それは残念だな」
メタナイトは満更でもない様子でそう笑うとカービィと一緒にキャンディを拾い始めた。
end.