彼岸の桜(仮) よく晴れた心地のよい昼下がり、公園までの小ぢんまりとした通りには黒い点の群れが幾つも蠢いて、なんとも不快だ。黒髪の黄色人種ばかりで狭苦しい日本という国は蟻の巣みたいだと思う。僕たちはひとごみ──文字通り「人のゴミ」の中にいた。僕たちもその「ゴミ」の一部なのがまた癪だった。じゃあ、なんで鮨詰め状態のコンビニにいるのかって? それは、柄にもなく、花見をすることになったからだ。
隣にいる慎一(しんいち)君が買い物カゴに自分用の缶ビールを一本入れたのを僕は見逃さなかった。
「君には、これだよ」
僕は缶ビールを棚に戻して缶コーラを入れてやった。
「なあ、糸鶴(しづる)さん。俺をまだガキかなんかだと思ってる訳? もう、俺もおっさんだよ……」
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