妊娠中の妻が転んだと連絡を受けた時は、目の前が真っ暗になった。
職場を早退して病院へ向かった。眩暈がしそうなほど暑い。
幸いにも、母子ともに影響はないらしい。念のため、1泊だけ病院で休むこととなった。白いベッドの上で申し訳なさそうに微笑む妻を見て、やっと呼吸ができたかのような心地だった。
彼女が入院する大部屋を後にすると、もう夕方が近かった。廊下には、8月のきつい西日が差している。窓は閉められているのに、蝉の声がジワジワと聞こえる。安心したら、急に外の音や温度を意識して、どっと疲れた。
顔を上げると、向こうで誰かがうずくまっているのが見えた。はっとして駆け寄った。入院着を着ている。
「大丈夫ですか」
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