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    square_osatou

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    square_osatou

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    プロットの前半を眠さんに投げた結果。
    後半のファンブル具合が酷い。もしもこれが小説じゃなかったら……。

    海なしの人魚海なしの人魚
     海なしの人魚という噂をご存知だろうか。
     ある日を境に、狂気的な恋心に取り憑かれてしまうのだ。その姿はまるで陸に憧れる人魚姫のようだとも、恋に狂った者はみな海なしの人魚だとも言われている。

    ***
     
     最近、恋愛相談が増えた。
     オリビアの占い事務所では、恋愛絡みの相談が相次いでいた。
     どの客も想い人にぞっこんで、ほぼ惚気話をしに来る客も少なくはない。相手はとてつもない美貌の持ち主で、濡れたような髪が美しいのだと語る客が殆どだった。だが、その相手に恋するどの客を占ってみても、「恋人の逆位置」のカードが出るのだった。
     まるで、同じ人物に複数の客が同時に恋をしているかのような現象だと、オリビアは思っていた。
     今日もずば抜けた美貌と濡れたような髪の持ち主に恋する客がやってきた。
     手始めにタロットカードをシャッフルし、客に山札を作らせる。そこから相手を想いながら、一枚めくらせた。
     やはり「恋人の逆位置」だ。
     わかっていても、さすがに気持ちが悪くなってくる。オリビアは自分の正気が揺さぶられるような感覚に襲われた。
     気を取り直し、カードの結果を伝えようと客の方へと顔を向けた。なるべく前向きにカードを解釈して客に伝えるのがオリビアのやり方だ。
     しかし、今日の客はいつもと違っていた。
     恋人の逆位置という結果を前に、信じられないとばかりに絶叫し、カードをテーブルに叩きつけ、そのまま事務所を出て行ってしまったのだ。
    「ちょっとお客さん……!? どこいくんですか! まだ支払いが……!」
     占いの結果が気に入らないというのは事はよくある事だが、料金未払いを放っておくほど、今のオリビアに余裕はない。
     急いで事務所を飛び出し、客の後を追いかけた。逃げ出した客はどこかへ向かっているようで、オリビアのことなど見えていないようだった。
     やっとの思いで客に追いつき、きっちりと料金を徴収した。その後、客はふらりと姿を消してしまった。
     
    「はぁ……今日は散々だったわ。でもきちんとお金は貰えたし、なんとかなったわね」
     その夜、リビングで寛いでいたオリビアの目に入ったのは、昼間の客が街外れの廃墟近くで遺体となって発見されたというニュースだった。
     死因は高所からの転落で、自殺とみられている。
    「まさか占いの結果に絶望して……? そんなわけ、ないわよね……」
     居心地の悪さを感じながら、オリビアはテレビの電源を落とした。
     次の日、買い出しに出かけたオリビアが見たのは、昨日の客と同じ目つきをした常連客だった。
    「あら? あの人はいつもの……。でも様子がおかしいわね。ちょっと声をかけてあげた方がいいかもしれないわ」
     オリビアは声をかけるタイミングを見計らいつつ、常連客の後を追いかけることにした。
     しばらく追いかけていたのだが、オリビアは途中で常連客を見失ってしまった。気がつけば、昨日の事件があった廃墟近くまで来ていた。
    「やだ、ここ昨日の事件現場近くじゃない……。お客さんも見失っちゃったし、帰りましょう」
    「あれ〜!? オリビアさんじゃないですか!」
    「きゃッ!?」
     突然話しかけてきたのは、一度占ったことのある女子高生だった。確か、この子も濡れた髪の相手との相性を占ってくれと依頼してきた客だ。
    「こんなところに一人で来たらだめよ? 途中まで送るからお家に帰りなさい」
    「やだなー、オリビアさん! これからあの人に会いに行くんですよ! オリビアさんだって応援してくれたじゃないですか。 当たって砕けろ! 頑張って告白するんです! ……あ、オリビアさんも来てくれますか? 一緒にいてくれたら心強いなあ〜! ね、お願いです! 来てください」
     ペラペラと一方的に喋り倒す女子高生に圧倒され、半ば無理矢理に廃墟の中へと引き摺られていった。
     
     廃墟の中には、常連客と同じような目つきをした人があちこちにいた。オリビアが占ったことのある客も、何人か見受けられる。
    「なんなのよ……ここ……」
     ここは単なる廃墟ではない。オリビアの直感がそう告げる。そういえば昔、狂気的な恋に取り憑かれるという噂話を聞いたことがあった。確か、「海なしの人魚」と呼ばれる現象で、取り憑かれた者は盲目的な恋心を抱くという。
     もしかすれば、ここにいる者はみな海なしの人魚に取り憑かれているのではないか。だとしたら、彼らは狂気に走って非業な死を迎えるか、残酷な犯罪者となるかのどちらかだ。
     そうなる前に彼らを説得して帰さねばならない。
     比較的軽症そうな者なら、オリビアの説得も聞き入れてくれそうだ。
     まだ目つきのはっきりしている者に声をかけ、ここに来てはいけないこと、昨夜事故があった危険な場所であることを伝えた。オリビアの説得の甲斐があり、数人は帰すことができた。
     その姿を見て、先程の女子高生が不思議そうに呟いた。
    「……どうして? あの人に会えるのに……。ねえ、オリビアさんもあの人に会っていこうよ。どうして逃げようとするの?」
    「ちょッ……! あなた達は正気じゃないわ! 海なしの人魚はあなた達の作り出した幻想よ! しっかりなさい!」
    「説得しようっていうの? もう遅いよ。だってあの人のところに来ちゃったんだもん。私はあの人に告白して、それで……」
     全く話が噛み合わなかった。
     それどころか、オリビアの言葉に触発された恋する者達が一人また一人と集まってくる。これでは逃げるしかない。
     オリビアは振り返って走り出した。
     恋する者達が群れとなって襲ってくる。オリビアは必死に逃げたが、廃墟に張り巡らされた根に躓いてしまった。ひどく足を挫いたらしい。壁伝いに歩くのがやっとの状態であった。
     周りには恋に取り憑かれた者達がオリビアを探して彷徨っている。
     オリビアは必死に声を抑え、身を隠した。
    「あ〜、こんなところに居たんだあ。ほら一緒に行こうよ。みんなで告白したら、きっと成功するよ」
    「嫌ッ! 放して! どこへ行こうって言うのよ!」
     女子高生とは思えない力で引っ張られた。まるで手足が千切れてしまいそうなほどの怪力だった。
     ぞろぞろと集まってきた恋する者たちに囲まれ、廃墟の奥へ、奥へとと引き摺られていく。
     途中、何か奇妙な植物が妖しげな香りを放ちながら、群生しているのが見えた。
     よく見るとそれは、植物に寄生され息絶えている人間の姿だった。
    「なッ……なんなの、これ……。人……なの……?」
    「あの子は告白に失敗しちゃったんだね。でも大丈夫。ほら、幸せそうでしょ?」
     そう言うと、オリビアの顔を無理矢理に遺体の方へ向ける。
    「うぅ、やめて……ッ」
     オリビアはもう限界だった。
     心身ともに疲れ果て、もうこのまま流れに身を任せてしまった方が楽なのではないかと、思い始めていた。
     突如、床に開いた大きな穴が現れた。
    「ねえ、オリビアさん。私たちの代表者としてあの人に告白してきてくれる? くれるよね?」
    「……え?」
    「お願いね」
     オリビアは床の穴に投げ込まれた。

    「いたた……。ちょっと! ここから出しなさいよ!代表で告白って、好きでもない相手に告白なんか出来るわけが……な……」
     オリビアが振り向くと、そこには巨大な花が咲き乱れていた。
     強烈な香りに頭がくらくらする。オリビアは思わずその場に膝をついた。
     ぼんやりと人影が見える。
     濡れたような髪の、見たことのないほど美しい顔立ちの人物だ。
    「あなたが……海なしの人魚……」
     オリビアの心が強く揺さぶられる。まるで、恋をしそうだった。が、オリビアの頭にあの遺体の姿がよぎる。恋をすれば、彼の末路は同じようなものだろう。
     到底、恋などできるはずがなかった。オリビアは必死で巨大な花の部屋から逃げ出した。
     転がるようにして部屋を出たオリビアは、海なしの人魚に恋をする人々の前に飛び出した。
     彼らの目線が、なぜ告白しなかったのかと責め立てるように感じられた。ここにいる誰もが、オリビアを責めているに違いない。むしろ、今まで関わった全ての人間に恨まれ、反感を買ってきたとさえ思えた。
     オリビアは深刻なパラノイア状態にあった。
     極度の人間不信に喚くオリビアをよそに、海なしの人魚に恋をする人々は、再びオリビアを花が咲き誇る部屋へと連れて行く。
     オリビアは必死に振り払おうとしたが、ひ弱な彼の力では太刀打ちできなかった。
     二度と目に入れたくないと思っていた植物の前に突き出される。巨大な植物はまるで生き物のように根を伸ばし、オリビアを捕らえようとした。
     根の動きは思いの外ゆっくりで、それをかわすのはそう難しいことではなかった。
     巨大な植物は魅了した人々を使ってオリビアの動きを封じようとした。しかし、夢うつつな状態の人間に捕らえられるほど、オリビアはぐずではない。
     一人、また一人と自ら命を絶つ者が出始めた。次第に狂気が満ちて、互いの首を絞め合う者や、凶器を巡って乱闘になる者など、まさに地獄絵図と化した惨劇が繰り返された。
     オリビアの精神は限界を超え、ついに発狂した。この場で起きた出来事や、奇妙な植物に寄生された遺体、目の前で絶たれる命など、全てを忘れてただそこに立ち尽くした。先程は容易に避けられた根も、今のオリビアでは避けることは不可能だった。
     虚ろな目をした彼を、根は容赦なく締め上げていく。植物は自分に惚れ込まなかった相手を恨んでいるかのようにも思われた。
    「……ぁ……うぅ……」 
     オリビアは今にも窒息してしまいそうだった。だが、抵抗するだけの力も、記憶も持ち合わせていない。ただただ苦しいと思うだけで、どうすることもできなかった。
     やがて、オリビアの全身から力が抜けた。だらりとぶら下がる彼の身体は、もはや意識を失っていた。このままでは、オリビアは絞め殺されるのを待つだけである。
     
     やがて、周囲が騒がしくなった。どうやら廃墟の外に人が集まっているようだった。中には警察や人命救助隊がいる。先程オリビアが帰した誰かが、中の惨状を見て通報したらしい。
     騒ぎを聞きつけた植物はオリビアを解放し、大人しくなった。この後、幸いにもオリビアは救助隊に救出され、数少ない生還者となった。しかし、オリビアはこの出来事を何も覚えておらず、警察もお手上げ状態だった。
     被害者は全て、事件のあった廃墟の近くに住んでいたり、面白半分で廃墟に出入りしている者だったという。
     次の日には集団自殺ということで片付けられ、ニュースや新聞にも取り上げられたが、次第に人々からは忘れられていった。
     
    「海なしの人魚、正体は強烈な幻覚作用をもたらす毒花。人の心を惑わし、集団自殺などを引き起こす恐ろしい植物。こんな街にも生えてるなんてね」
     一人の少女がぽつりと呟いた。
     少女には大きな尻尾が生えており、大きな目には海なしの人魚が写っている。ポケットからマッチを取り出すと、慣れた手つきで火を点けた。
     何の躊躇いもなくマッチを放ると、海なしの人魚は炎に包まれた。
     少女は炎上する廃墟からするりと抜け出すと、何事もなかったかのように夜の闇へ消えていった。

     事件から数週間後、無事に病院を退院したオリビアは、占い師としての活動を再開していた。
     この事件に関する記憶は一切持ち合わせていないが、特別困ることはなかった。
     一度は生死を彷徨ったからと言って、霊力的なものが上がったとか、占いの腕が磨かれたとかいうこともなかった。
     オリビアは今日も、独特のキャラクターで生き方に迷った人の相談に乗る。
     その中には、常識を逸脱する存在絡みの相談もあるのだが、彼がその事に気づくのはもう少し先のことである。
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