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    全授後リバーランドで暮らす二人の話。
    続きはゆっくり更新。全授5章が始まる前に書いたので矛盾あり。

    もう全てがIFだ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!

    #ロンサザ

    朝日の中でもう一度夢を見る 辺獄での戦いでフィニスの門は閉じ、選ばれし者とその仲間達は無事に現世に帰還した。それぞれの国が和平を結んだオルステラ大陸に、平穏が戻りつつある。灯火の守り手達は己の帰るべき場所に戻り、選ばれし者もその役目を終えた。
     ロンド・レイヴァースもその一人であったが、彼は聖火協会から身を引き、この雪国を離れ、リバーランド地方の小さな村へと身を置いた。かつての師であったサザントスと共に。



    ***



     この村へ来てから何度目の朝だろうか。サザントスは起き上がって、ベッドに腰掛けた。ロンドの姿はない。先に起きて、畑仕事をしているのだろう。
    「………………」
     サザントスは手のひらを見つめる。
     黒呪炎に蝕まれた身体に聖火を操る力はもう無い。弱々しい炎が現れてはすぐに消えていく。辺獄でロンドが炎をサザントスに分け与えていなければ、ここにはいなかったかもしれない。正直に言えば、ここにいない方が良かったと思っている。自分にとっても彼にとっても。彼には彼の歩むべき道があるのだから、自分などに縛られないでいてほしかった。
    「…もう起きてたんですね、サザントスさん」
     いつの間にか畑仕事を終えたロンドが帰ってきていた。
    「朝ご飯作るので待っててくださいね」
    「ああ、いつもすまない」
    「いいんですよ、まだ本調子じゃないでしょう。それに今のサザントスさんには休息が必要ですから」
     そうして、いつものようにロンドが朝食を用意する。畑仕事も彼に任せっきりだ。私は毎日彼の後に目を覚まし、炎の弱さを確認して、彼が用意した朝食を食べる。情けないことに、今の自分には彼がいないと何もできなかった。
    「そういえば今日は村の方から手作りのジャムを頂いたんですよ。パンと一緒に食べるのが一番美味しいそうで」
     そう言って、薄く切ったパンにジャムを乗せて、美味しそうに頬張る。その様子を見ているだけで腹が満たされる気がした。自分も一口だけ口に入れるが、それ以上進むことはなかった。その様子を見ていたロンドが心配そうな顔で覗き込む。
    「もしかして口に合わなかったですか?」
    「…いや、美味しい」
     そうですかと言って笑う顔に、罪悪感が増す。元々、食に関心がなく、一日に必要な食事しかしていなかった上に、黒呪炎を宿した身に食事など不要だった。そのせいか今までよりも食欲が失せ、これ以上口に入れると戻してしまいそうだ。
    「無理はしないでくださいね。お皿を片付けたら少し外を歩きませんか」
    「………」
     ロンドを見る。彼の表情はいつもと変わらない。
     ​わからない。わからない。何もできない私に毎日付き添い、彼は一体何を望んでいるのだろう。
     ​─────彼が憧れていた過去の自分にはもう、戻れはしないのに。



    ***



     どこまでも真っ白なフレイムグレースと比べて、リバーランド地方はずっと緑が続いている。川の流れる音、鳥の囀る声、草花の匂い。どこをとっても、フレイムグレースとは違う。
     サザントスはかつて自分の背中を追い掛けていたロンドの背中を見つめた。小さかった背中は今や自分とほとんど変わらない。ただその背中の後を追う。

    「実は、頼まれていた薬草があって…」
     普段から、サザントスとロンドは二人で村の住民に頼まれた簡単な薬草を採取しに行っている。話を聞けば、その植物はそこらの雑草と同じような見た目をしているが、日陰を好み、赤い実をつけるという。素人に見分けがつくか怪しいが、頼んできた薬師の女性はかなり高齢で、自分一人ではあまり遠くへは行けない。採ってきた薬草は自分の目で見分けるから、似たようなものでも構わないとのことだった。

    「この辺りを探してみましょう」
     ロンドは目星を付けてしゃがみ、一つ一つ丁寧に植物の特徴を照らし合わせていく。サザントスも、少し離れた場所にしゃがみ込み、ロンドと同じように雑草の中から探し出す。
    「…………」
     薬草探しに夢中になっているロンドを見て、サザントスは今のうちにどこかへ消えてしまいたい衝動に駆られた。
     私がいなくなってしまえば、彼は自分の人生を歩めるだろうか。
     思い立つと同時に足が、彼のいる場所とは反対方向に歩き出した。音を立てないようにその場から離れる。途中で道を外れて、森の中へと迷い込む。早く、早く。彼の追いつけない場所へ。

     そうして、どのくらい歩いただろうか。外へ出掛けた時はまだ昼前だったが、木に覆われた周囲は薄暗く、不気味なほど何一つ音がしなくなっていた。
    「…………………」
     サザントスは足を止めて、辺りを見回す。草陰から、ちらちらと光るもの見えた。
    ​────魔物の瞳だ。軽く十数匹ぐらいいるだろう。意識を耳に集中させると彼らの息遣いが聞こえる。
     護身用の短剣に手を伸ばす。刃の短いこれでは腕を噛まれる可能性があったが、仕方ない。元々、薬草を取りに行く道にはほとんど魔物が出ないということもあって、普段から軽装で出掛けていた。
     ガサ、と草の揺れる音がしたと同時に一匹の狼が飛び出す。それを躱しながら振り返り、続くようにして後ろから襲いかかる二匹を斬りつける。また新たに三匹が飛び出してきて、そのうちの一匹がサザントスの右腕に飛びかかった。
    「………っ!」
     右腕に牙が突き刺さる。激痛が走る。怯む暇はない。素早く短剣を左手に持ち替え、魔物の喉を刺して振り払う。右腕からボタボタと血が流れるのにも構わずに、サザントスは剣を構え直した。


    ***


     その頃、ロンドは袋に薬草を詰め込み、今から帰ろうとしていた。
    「ふぅ、集めるのに大分苦労したな…。あまり多くはないですけど、サザントスさん、そろそろ帰りましょう……………………サザントスさん?」
     声を掛けるが、サザントスの姿は見当たらない。その場にロンドだけが一人、残されていた。

    (2022/7/2)
    ***


     ​──────残るは二匹。サザントスはわざと背中を見せて逃げるように走った。獲物が弱ったと勘違いした彼らは、すぐに後を追い掛けてきた。木の裏側に隠れ、回り込んできた一匹の喉元を斬る。血飛沫が顔にかかる。残された一匹に短剣を向ければ、鳴き声を上げて走り去っていった。
    「はぁ………」
     サザントスは魔物の気配がないことを確認すると、木の根元に座り込んだ。一気に力が抜け、頭がぼうっと靄がかったような感覚に陥る。酷い倦怠感に襲われ、指一本も動かせないことに気付いた。
     毒だ。原因はおそらく狼の唾液だろう。
     腕を噛まれてから随分時間が経った。身体を動かした分だけ、毒の巡りも早くなる。頭が重い。呼吸が上手く出来ずにヒューヒューと喉が鳴る。
     このまま意識を手放してしまおうと目を閉じると誰かの声が薄らと聞こえてきた。
    「​───────!」
     徐々に声と足音が近付いてくる。その声を聞けば、目を開けなくても誰かわかった。
    「サザントスさん!」

    「急にいなくなったと思ったら…」
     ロンドはサザントスの腕の傷を見るなり、一瞬言葉を失った。

     この村に来た頃に言われたことがある。
     ​─────道から外れた森の中に、魔物がいるんだ。森から出てくることは滅多にないし、村人が襲われたという話もない。でも、牙に毒を持っていてね。万が一だと思って、解毒薬を持ち歩いていたほうがいい。

     状況を理解したロンドはすぐに腰に下げた鞄から小さな布袋を取り出した。
    「薬です。飲んでください」
     サザントスの口に解毒薬を入れるが飲み込む様子はない。水筒を口に当ててもぼたぼたと端から水が零れていく。
    「っ、後で謝ります」
     ロンドは水筒の水を自分の口に含むとサザントスの唇に合わせ、水を流し込んだ。こくりと喉が動いたのを確認して、それを数回繰り返す。サザントスの身体を背負い、来た道を急いで引き返した。
     ロンドの背中に抱えられながら、サザントスは弱々しく口を開く。
    「…………私のことは………」
    「嫌です。絶対離しませんから」

     怒気を孕んだ声と力の込められた腕に、サザントスはなぜか目頭が熱くなるのを感じた。

    (2022/7/3)
    ***


     目が覚める頃には、空が黒く染まっていて、ベッドの側でロンドがじっと自分を見つめていた。目が合うと、安堵の表情で「よかった」と声を漏らした。同時に彼から大きな腹の音が聞こえて、昼から何も食べずにいたのだと気付く。
    「あ…すみません、安心したら急にお腹が……………もう、勝手にいなくなったりしないでくださいね。本当に寿命が縮むかと思いましたよ」
     あれだけ勝手なことをして、「貴方にはもう呆れました」と言われると思っていた。しかし、この男は絶対にサザントスを責めることはなかった。
    「…私こそ、勝手に遠くへ行って悪かった」
     目を合わせる気にはなれず、視線を逸らし謝罪の言葉を伝える。ロンドは貴方が無事だったので気にしてませんよと微笑んだ。
    「お昼から何も食べてないですから、少し口に入れませんか。傷の治りが少しでも早くなるように」
     ロンドはサザントスの身体を起こしてベッドから離れると、テーブルに置いてあったスープを持ってきた。
     白いスープの中に細かく刻んだ野菜が入っている。以前、フレイムグレースで食べていたシチューと同じ香りだ。
     サザントスはそれを受け取ろうとするが、ロンドはスプーンでそれを掬い、目の前に差し出してきた。
    「……一人で食べられる」
    「右腕、痛むでしょう。無理はダメですよ」
    「…………」
     少しの痛みぐらい平気だと右腕を動かそうとしたが思った以上に強い痛みが走り、腕が止まる。包帯を巻いて止血してあるとはいえ、下手に動かせばまた出血してしまう可能性がある。サザントスは黙り込んで、諦めたようにスプーンへ口を近付けた。
     口に入れた瞬間、柔らかく解れた野菜とミルクの控えめな甘さがじんわりと広がる。身体が温まって、安堵からほう、と息が漏れた。
    「……美味しい」
    「ふふ、よかったです。おかわりもありますよ」
    「一杯で十分だ。それにお前もまだ食べていないだろう。さっきからずっと腹の音が鳴っているぞ」
    「僕も後でちゃんと食べますから!」

    (2022/08/21)
    ***


     あの後、ロンドが村の薬師を訪ね、状況を説明すると、薬師は新しく解毒薬と解熱薬を飲ませ、止血の処置を施してくれた。幸い、あの時すぐに状況を理解したロンドが解毒薬を飲ませたお陰で大事には至らなかったようだ。

     日が暮れ、お互いにベッドに入る。家がそこまで大きくないこともあり、サザントスとロンドは一つのベッドを二人で共有していた。
     お互いに背中を向け、無言のまま眠りにつく時を待つ。
    「サザントスさん、まだ起きてますか?」
    沈黙を破ってロンドが口を開いた。
    「…あの時はすみません。なりふり構っていられなくて」
    「あの時?」
    「森の中で貴方に薬を飲ませた時のことです」
    「……別に、気にしていない。元は私のせいだ」
    「そう、ですか。よかった……嫌な思いをさせてしまったと思って」
     ぽつり、ぽつりとロンドの声が静かな部屋に響く。
    「おやすみなさい。何かあったら、起こしてくださいね…」
    「ああ」
     あの時。不思議と、嫌な気持ちにはならなかった。
     サザントスは指先で自分の唇に触れる。
    「…………」
     むしろ、謝るのは私の方だと思った。好きでもない、ましてや男の自分と。必要なことだったとは言え、自分自身の身勝手さが招いた結果だ。
     寝返りを打ち、背を向けて寝るロンドの、月光に照らされてきらきらと輝く髪を見つめる。数分もすれば、瞼が次第に閉じていった。

    (2022/09/01)
    ***


     黒呪炎に身を堕としてしまった自分に、人の魂を弄んだ者に真っ当な人生を送ることはできないだろう。否、生きていること自体許されない筈だ。それなのに、こうして生きている。
     辺獄で、私は選ばれし者とその仲間と戦い、敗れた。どこかでそれを望んでいたのかもしれない。戦闘で消耗した身体は鉛のように重く、そのまま死を迎えるつもりでいた。
     立つのもままならず、剣を地面に突き立て、膝から崩れ落ちる。自分に向けられた剣先を見て、静かに目を閉じた。
     しかし、その剣が振られることはなく、ロンドは鞘に剣を納めると彼に歩み寄った。
    「サザントスさん」
    「あの日、貴方は僕に言いましたよね。何の為に戦うのかと」
    「最初は貴方のようにになりたかったんです。貴方に助られた日から、ずっと貴方の背中を追い掛けてたんです」
     ぽた、ぽた、とサザントスの顔に水滴が落ちる。ロンドは泣いていた。
    「でも今は、自分の意志で貴方を救いたい。聖火の導きじゃない。僕が望んだことです」
    「だからどうか、生きて、何にも気付けなかった僕に貴方の全てを教えてください。一人で何もかもを背負わないで」
     ロンドの青い炎が二人の身体を包む。先程までの鉛のように重たかった身体が少しだけ軽くなった。
    「私は、お前と…………」
     ​─────遠のく意識の中で、顔も声も知らぬ母に抱かれる夢を見ていた。

    (2022/09/03)
    ***

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