独白 町で使われなくなった小さな教会がある。そこは老朽化していて、人が訪れることはない。誰もいない教会には猫が棲みついており、私はその猫に餌をやるのが日課だった。いつものように私は教会へ行き、扉を開ける。
誰もいない筈の教会に、誰かの後ろ姿があった。その人は長椅子に座り、私がいつも会っている猫を膝に乗せていた。
猫が私に気付くと、にゃあと一鳴きして私の足元へ擦り寄る。目の前の人は、立ち上がるとこちらへと振り向いた。目が合った瞬間に私は息を飲んだ。まるで聖火を閉じ込めたかのような青い瞳と、白銀のような髪。人生でこのような美しい人に出会うのは二度とないだろうと言っても過言ではないくらいだ。
何か話をしようと思ったが、浮かぶ言葉は何も無く、私と彼は無言のまま、その場に立ち尽くした。
しばしの沈黙の後、男が口を開いた。「私は罪人だ。ここで懺悔をしていた」と。唐突に言われ、言葉の意味を理解するのに少しだけ時間がかかった。
この美しい男性が一体何の罪を犯したのか私には到底想像がつかなかったが、男の瞳には後悔の念が浮かんでいた。男は「独り言だ。邪魔をした」と言うと、その場を立ち去った。
次の日、偶然にも町中で男の姿を見つけた。男の隣には、彼より少し若いであろう青年が並んで歩いていた。青年の男に向ける眼差しはとても眩しく、暖かい。男の表情も昨日とは変わり、少しだけ笑みを浮かべていた。
やはり彼の犯した罪については分からなかったが、彼らの様子を眺めているときっと自分には知らなくていい事なのだと思えた。昨日、あの教会に立ち寄ったのが私でなくとも、彼は同じ言葉を伝えていただろう。
気付いた時にはもう、彼らの姿は見えなくなっていた。それから二度とその姿を町で見ることはない。
とある町の女性の記憶