【秋の空に舞う喜劇】~プロローグ~
誰もいない広い演劇舞台に、少年が一人
カーテンコールの前で立ちつくす。
その少年が誰かは、まだわからない。
少年は貴方(貴女)に気付くと
不敵な笑みを浮かべ、司会者。あるいは
口上役のように語り出す。
少年は舞台を仕切るかのように
高らかな声で「皆々様、お立ち会い!」と
挨拶をする。
軽くお辞儀をし、
少年「ようこそ、おいでくださいました。」
少年「これより始まりますは、
現代に生きるとある双子の祝宴物語。
お席に腰かけた紳士の方も淑女の皆々様も。
退屈そうにはなさらずに、お飲み物やお菓子を手に取って、どうぞ心ゆくなくこのお噺に
耳を傾けてくれますよう、」
よろしくお頼み申し上げます。
そう言ってぺこりと会釈をし、
少年と思われしものは、
カーテンコールの中に吸い込まれるように
消えていった。
どこかでひとりでにブザーが鳴り響き
カーテンコールの幕が開く。
~開演~
秋の寒い季節がやってきて
吹く風が冷たくなるとき
いつもの通学路を歩いていると、
椿「むっ、」
藤崎「おっ、」
もう何度も見慣れた顔に、
ばったり出くわす二人。
当時は顔を合わせれば子供のような口喧嘩を
したり、とにもかくにもなんとなく
気に入らないだけで争いが絶えなかったが
最近は少しずつ変化の兆しが出たようで
椿「今日は珍しく一人なんだな。
いつもだったら、鬼塚や笛吹が
一緒だっただろう」
何故か今日に限って仲間のヒメコやスイッチは
少し遅れて学校に向かうと言われたようで
藤崎「まあ、な、あんまよくわかんねーけど。今日だけは登校時間を遅らせるからとか。
でもそういうおめーだって、従者の忍者は
どうしたんだよ」
忍者とは加藤希里の事で、椿をいたく慕っている少年。
いつもは椿の隣に張り付くような感じで
登校を共にしていたのだが、気配すら
見当たらなかった。
椿「や、だからキリは別に僕の家来とかでは…。…まあ、理由はおおかた君と一緒だ。」
登校前、急に自分の家の前に現れたかと思えば
希里「すみません、、会長、、!!
誠に勝手ながら、本日はどうしても学校に遅れて行かなければならないので!一緒には登校できませんっ!」
悔し涙を流しながらいう突然の告白に、
椿はあんぐりと口がふさがらない。
椿「えっ、えっ、な、なんの話だ?キリ。
というより何故僕の家がわかったんだ?」
涙目で身体を小さく震わせている後輩のキリを
心配しながら、話が見えてこない椿。
キリは主と称する椿に報告したあと、
顔をあげ
希里「すんませんっ、従者としてあるまじき
言動ですが、理由を開かすわけには
いきませんっ。遅刻だけはしないので、
ではまた!」
椿「あっ、ちょっ!!」
つむじ風のように椿の前から消えるキリ
~回想終了~
椿「……と、いうわけだ。キリはああ見えて
真面目で優しい人間だから、僕をからかってるんじゃないことはわかってる」
言い終わったあと、藤崎は特に興味なく
「ふーん」と生返事をし
藤崎「ま、どうせあいつらの事だ。こんな
あからさまに隠すような行動とってんだ。
ロクな事しか企んでんじゃねえの?」
その発言を聞き、椿はむっと口を尖らせ
椿「き、希里はそんな人をだますような人間ではない!た、確かに今日は一緒に登校出来ないと言われてショックを受けなくはなくもないが……」
藤崎「いやそれ結局どっちなんだよ!?
ん~~、まあとにかくだ…!」
さっき自分たちの身に起こった状況を整理する
藤崎「今日1日、あいつらを観察して
どんな事企んでるか様子見してやるんだ。
特にうちのヒメコはおつむの悪いバカだが、
変なとこで口が固いやつだ。」
藤崎の言ってる考えと意味は理解したらしく、
椿「なるほど…。では今日1日。相手側の
顔を観察しながら何を企み目論んでるか探ると」
藤崎「概ねそんなこったな。希里があんな感じだったんなら、生徒会女子達三人の反応も
気になってくるな。」
他人を疑うという行為や行動は、あまり
好きではない椿。ただ、それは兄の藤崎佑助
も同じだった。
珍しく二人で学校の玄関入口に入り、
もう何度も出入りした教室に入る。
藤崎「よう、ヒメコ!スイッチ!キャプテン達も!おはよー!」
元気よく挨拶を藤崎に、
呼ばれたクラスメートや仲間は
「……………。」反応無しだった
ガン無視されて心が痛むがここで挫ける
藤崎じゃなかった。
藤崎(ぐっ……、ああそうかよっ、おめえらがどんな事考えてるか知らねえが俺の推理力だけで
暴いてやんよ!)
やってやんよ!という顔つきで自身の席に座る
藤崎。
椿も、生徒会メンバーの女子二人がいるのに
気付き軽い挨拶を交わしてみる。
丹生だけは若干の反応を示したが、すぐさま
申し訳なさそうに頭を下げそそくさと席に
座る。
逆に浅雛もといデージーはというと
浅雛「……チッ、話しかけるな。」
椿だけに聴こえてきた舌打ちでそう返し席に
戻った。
椿「………。」(こ、これは、、藤崎のように無視されるよりキツイ仕打ちではあるな。。)
だがこんな所で傷心する椿じゃなかった。
これも一つの忍耐だと自分に言い聞かせ、
生徒会の仲間やその他クラスメート達が何を企んでるか暫し様子を見る双子達。
そしていつものホームルームが始まり、
気だるげな顔つきで担任教師の中馬先生が
やってくる。
ダルそうな声色で生徒達の出席を取るが、
藤崎と椿だけ呼ばずに教室を去ろうとした
先生に藤崎が即座に突っ込んだ
藤崎「呼べよ!俺と椿の名前!何欠席扱いしてんだよ、先生!」
わーわーとまくし立てる藤崎に中馬が「?」
と口を開け、ようやく双子達の存在に気付く。
中馬「あ~、悪かったなお前ら。今日はあんまりにも影が薄いもんで、存在を忘れてたぜ」と
教師にもあるまじき発言に、藤崎は涙目に
なりながら叫ぶ。
藤崎「あんたはなんかわざとらしいから
わかりづれえんだよ!まじで傷つくから!」
藤崎の訴えに、中馬は「へえへえ、まじ悪かったって」とへらへら笑いながら。
中馬「…そんじゃあ、また放課後ん時にな。」
そういって、教室から出ていった。
その後は午前中も午後の授業でも、
藤崎「…………。」
(ひ、、一人も解らなかった…!!俺が近付こうとするとクラスの皆が一目散に逃げちまう!
ヒメコやスイッチは………。)
ちら、と近くに廊下でひそひそ話し合う
仲間の二人。とても仲が良さそうだった。
藤崎(あいつらの力さえあれば、奇妙なモヤモヤも消せるんだが。なーんか、あいつら二人も
一枚噛んでそうなんだよなぁ。というより、)
自身で言った事だが、やはり根は淋しがり屋
な性質の彼。
顔には出ていないが、心の中はちょっぴり
泣いていた。
藤崎「うう……寂しいよう。。ヒメコォ、
スイッチィ。何で急に俺を避け始めたんだ?
俺なんか悪いことした?」等と
メンヘラ彼女のように落ち込んでいきながら、
今日1日が終わりを迎えようとしていた。
そして、その放課後。
放課後の挨拶を軽く済ませ、クラスは皆
それぞれの家に帰宅かその他の生徒達は部活。
あるいは、生徒会室に足を運んでいった。
で、問題の藤崎と椿はというと
藤崎・椿「「はぁ……」」
下駄箱からまだ数メートル近くある廊下で
深い深い溜め息を吐いていた。
こんな状態で部活や生徒会に行ける元気など
あるはずがない。
藤崎自身はもはや投げやりになっており、
半分は開き直るような形で
藤崎「ははっ、、もうあれかな~?
俺らも三年で受験生だし?あいつら受験勉強とかで忙しいのかもな~」
等と空元気な発言をかわす藤崎に、流石に
哀れになってきた椿。
椿「い、いや。そう考えるのは
まだ早いんじゃ…」
そうはいうが、この1日だけでも親しい人間達に無視される感覚はあまり気持ちのいい
感覚ではなかった。
ヒメコ達の動向や探りの正体が掴めぬまま、
傷心状態で家に帰ろうとした時。
たっ、たっ、と一人の生徒が藤崎達に駆け寄ってくる。相手は女子生徒だった
「あ、いたいた! おーいボッスーン!
椿くーん!」
元気よく挨拶してくる女子生徒は、別クラスに
所属している倉本歩。クラちゃんだった
ようやくまともに挨拶を交わしてくれた同級生の存在に、唖然とする藤崎と椿。
クラちゃん「はぁ、はぁ、、疲れた、。
学校のなかくまなく捜しても
全っ然見つからないから、てっきり
帰っちゃたのかと。ハラハラしちゃったよ。」
小走りしてややおでこに汗が滲んでいる
クラちゃんに椿がこう尋ねる。
椿「えっと、、もしや僕と藤崎に用があって声をかけたのかな?」
申し訳ないが、今は相談に乗れる気分には
なれないと断りをいれようとするが。
クラちゃん「ああ、違う違う。相談とかそういうのじゃないんだ。理由は話せないんだけど、
とりあえずさ何も聞かずに私が行く場所まで
着いてきてくれない?」
たぶんそろそろだと思うから、といった彼女の
発言に怪しさが増した藤崎だが
藤崎「わかった。どこに連れてくかはこっちから聞かねえが、近くで事件があったとか
そういうわけで呼んだんじゃねえんだよな?」
あらかじめ、彼女に確認を伺う藤崎。
彼女は軽く頷いて、玄関の下駄箱付近とは
反対の方角に指を指す。
クラちゃん「じゃ、案内するね。」
こっちだよと言いながら、言われるままついて
いく二人。そうしてついた先は
クラちゃん「はい、ここだよ。それじゃあ私はもう帰るね。」
案内された教室前だけ妙な明るさを増していた
そして案内した場所から去っていこうとする
クラちゃん。
倉本さんも中に入らないのかと聞く椿に
クラちゃん「そうしたいけど、今日はどうしても行かなきゃならない場所があるから。ごめんね?ああ、でも」
「二人とも楽しんでったらいいよ」
なんて悪戯っぽく笑って帰っていく彼女。
よくわからないまま、その他別の教室や薄暗い
廊下の奇妙さに違和感を覚えつつ
藤崎「くっそ! なんかわかんねーけど、
どうせヒメコかスイッチの悪戯かなんかだろ!ここらで問い詰めて……」
ガラッと思い切り開けた教室の中に
入る。
藤崎「……へ?」
教室の中はちょっとしたパーティー会場に
なっており、まるでこれから誰かを祝うような
華やかな飾りが盛り付けられていた。
その教室の真ん中に
ヒメコ「あ、ボッスン、椿も!」
皆ー、二人やっと来たからそろそろ始めよかー
なんていうヒメコ達に
椿「お、鬼塚?それに、クラスの皆や……」
クラスメートだけではなく、生徒会の後輩
である希里や宇佐見の姿も見え中馬先生や
レミ先生の姿もいた。
藤崎「えーっと、これはどういう集まりなんだ?つか、あれ?ヒメコの発言考えるともしかして俺らを待ってた感じ?」
いまだ教室の隅っこでポカンとしてる藤崎に
痺れを切らしてやってきたキャプテンが
キャプテン「もうー、なんでまだそんなとこにいるの?ほら、早く皆のとこに行こう?」
強引に手を引っ張られながら、何がなんだか
解らない二人。そんな二人にキャプテンが
キャプテン「えっ、二人とも今日が何の日か覚えてないの?」
藤崎と椿はまず知ってるだろう今日の出来事を
キャプテンは答えだす。
キャプテン「今日ボッスンと椿くんの
誕生日じゃない。自分たちの誕生日も忘れちゃったの?」
藤崎・椿「「あ。」」
自分らの誕生日が今日だった事をすっかり
頭に入ってなかった双子達。
ちょっと呆れ気味にいいながら
ヒメコ達のいるとこに引っ張りだしていく。
他には同じクラスメートの振蔵や小田倉くん。
ビジュアル系男子のダンテやクイズ大好き
エニグマン。そして、ロマンや結城さんなど
馴染みある生徒も参加していた。
中馬がゆったりと、藤崎がいる付近に
足を運んでやってくる。
中馬「あ~、その……。今朝の時と放課後の時はホントに悪かったって思ってるよ。そうまで
しねえと、お前さんら二人を俺やヒメコ達から離れる事出来なかったからなぁ。」
等と苦笑いする中馬。
ヒメコやスイッチも近くにやってきて、
今朝の事平謝りしていた。
ヒメコ「ホンマ堪忍なボッスン!どうっっしてもクラスメート一丸で祝いたいなってアタシがキャプテン達に相談したもんやから、、」
スイッチ『俺も今日1日ボッスンに話しかけられなくて、出ない涙が出そうになるくらい
辛かったんだぞ。ロボットだから涙は出ないんだが』
機械のような表情から想像しづらい発言に、
中馬がやんわり突っ込む。
中馬「いや、お前は人間だからな?
ロボットじゃねーだろ」
そんな冗談を交わしながら笑いあうヒメコ達に
とうとう琴線がプツ切れた藤崎。
わなわなと小刻みに震えだす藤崎に、周りが
心配し始めやはり今日のことで怒っているの
だろうかと顔を伺いはじめる。
藤崎「………お前ら、、ほんっっっとに。。」
俯いていた顔をさらけ出した藤崎の目からは
大粒の涙が溢れていた。
堪っていた感情が、湯水のように溢れてくる。
藤崎「なにやってんだよーーー、まじでさー!!お、俺、、!本気(まじ)で嫌われたのかと思ったろー!!
でもさぁ!、祝ってくれてありがとな!
お前ら大好きだよ、ちくしょう!!」
わーんと子供みたいに泣きじゃくる藤崎に、
親しい友人達や仲間がかけつける。
あるものは共に喜びを分かち合い、
あるものは一緒に涙を流し、
またあるものは、彼ら双子の為に
軽快な音楽を奏で始める
椿「ははっ、…………わははっ!」
兄の喜びながや咽び泣く姿がだんだん
面白くなってきて、泣きそうな顔を引っめる。
生徒会仲間である丹生や浅雛も
近くにやってくる。
丹生「ツバキくん、
あの、一緒にケーキ食べませんか?」
浅雛「早くしないと、
椿くんの分は無しになるけどな」
なんて冗談交じりに煽る。
その近くでキリもウサミもいた。
キリ「会長!今朝は不躾な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした!
俺が貰ったケーキ、変わりに差し出します!」
ウサミ「キリくんは相変わらず会長に甘いです、ケーキみたいに。と、誰か
伝えてくれませんか?」
いつもの椿中心の和やかな雰囲気に戻っており
椿は、
椿「……そうだな。では、御言葉に甘えて。。」
双子達は自身らを祝福する仲間の存在に感謝
しながら、生涯忘れられない祝宴を楽しんだ。
この時ばかりは、皆子供のように。
~終幕(エピローグ)~
舞台裏、あるいは向こう側の貴方
一冊の本を呼んでいる少年の姿があらわれ、
貴方の存在にふと気付く。
「おや、御機嫌よう。如何でしたでしょうか?
今宵の物語は。…………なに? よくある
ハッピーエンドでとても面白かった、と。
ふん、それはそれは。結構なことで
良い暇潰しが幸いですねぇ。」
などと、
皮肉交じりな発言をかます一人の少年。
少年「………は?ところで、今ここにある
舞台は一体何処なのか………ですって?
……それはまあ、貴方(貴女)方がみていた
一夜の夢の噺という事で。」
こういうのは突っ込んではならないとそう
釘を差す少年。
読んでいた本を閉じ、いつの間にか現れていた
カーテンコールの中に入っていく。
少年「ここまでのご視聴、誠に感謝
申し上げます。この噺に称賛を少しでも
向けてくださるというのなら、わたくし一同
この上ない幸福にございます。
別れはたいへん名残惜しいですが、
舞台の終幕を卸すのはこのわたし。」
ここで、貴方はようやく少年の素顔を
確認する。
「八木卓人が、これにて終いとさせて
いただきとうございます。」
忽然と現れた舞台劇が薄れていき
貴方(貴女)はふと、目を覚ます。
朝のひばりのさえずりと共に、
一夜の夢舞台にしばしの別れを告げて。