パンドラの箱怪物の亡霊を鎮め、東京からの客人達は今日この地を出立する。
常に行動を共にしていた小説家と、最後の珈琲をロビーで飲んでいた。
あの黒衣の祓い屋は、朝早く輪王寺に仕事納めの挨拶に行ったらしい。
これも何かの縁だから戯曲が完成して公演までこぎつけたら、
是非観に来てほしいと申し出ると快く連絡先を交換して貰えた。
楽しみにしていますねと、はにかむような笑顔も一緒に。
何とも別れ難い思いに駆られながら、茫と玄関方面を眺めていると
見覚えのある人影が視界に飛び込んできた、それは帳場に真っ直ぐ進み
数回頭を垂れると、受付からロビーの方を指し示され顔を向ける。
彼女だ、桜田登和子だ。
目が合うと、微笑みかけられた。
そのまま静かに、此方に向かって歩いてくる。
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