『F.DAY.』「秋だ~!!!!」
そう言って、チサトは病棟から真っ赤な、紅葉の絨毯に飛び込んだ。
「秋だったら読書とか…食欲…食べ物が美味しい…」
と、言ったのはシーナだった。恐らく秋の食べ物を食べたのを思い出しているのだろうか?…何処かに行ってしまっている。
「そうだねぇ。やっぱり、秋は食べ物だよね。小林も、カキとかリンゴとか…」
秋の食べ物か…
「私はザクロが好きかな!!!!」
しーん。そんなありきたりな擬音が出るほど、途端に静かになる。
「え~ザクロ?イスカって凄いの好きだね?子供はそんなの、渋?くて食べれないよ~」
紅葉の上からチサトが言った。シーナも、
「うーん…渋?いかは分からないけど、甘味と、独特な風味あるよね…」
と、同調した。小林は─というと、何故かニヤニヤしていた。
「…何で小林はニヤニヤしてるの?」
「いwいやww」
笑いだした…??!!
何で???!
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「ん~秋はいいねぇ」
夕焼けを見ながら小林がそう言う。
「うん!キレイ!」
と、紅葉まみれのチサトは言った。私はチサトの紅葉を払い、
「ん~チサト、そろそろ冷えるし、部屋に戻ろっか」
そう言って、チサトの手を引っ張り、病棟に戻ろうとすると、
「あ、わわわ私行くよ」
と、慌ててシーナが言った。
「?うん─よろしくね、シーナ」
二人は病棟の中に入っていった。入るときに、シーナは、小林にバレないようにこっちを見て…グッドポーズをした。─後で礼言わないとね。勿論、まずは説教だけど。
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「私が転校してきたのって─この位の時期だったね」
封印した思い出を、夕焼けで抉じ開ける。
「そうだねぇ」
「懐かしいね…」
そう言いながら、私は涙を流す。
「…ごめんなさい」
絞り出すように出す。
「顔、上げて」
その声のまま、私は顔を上げた。─夕焼けをバックに、小林はこちらを見ていた。小林が夕焼けに映えていた。とても。
「謝らなくても、小林はずっと君の…友達だよ」
「いいの…?」
私は、私は…
「私、は、小林を恨んで、羨んで、醜い…醜いんだよぉ…」
そう言いながら、大粒の涙を流す。地面に落ちて、紅葉を容赦無く濡らした。私はここに来てから、随分子供っぽくなったと思う。今までの反動なのかな。昔、私は強かったんじゃない。知らなかっただけなんだ。友と過ごす、幸せを。
「おいで」
小林にそう言われ、近づいた。ぽす。私は優しく、小林に抱き締められた。私は子供が親に縋るように、服を掴んで、顔を埋めた。そして、笑みを浮かべる。
「小林って、お母さんじゃなくて、ママ、って感じがするね」
「そうかい?」
昔じゃ、想像出来なかったな。こんな感じになるなんて。
「それじゃあ─」
と、小林は私の頭に手を置いて、
「…‘’ルナ‘’、よく、頑張ったね」
そして、撫でた。
「あはは、覚えてたんだ、小林」
そう言いつつも、私は顔が真っ赤になっていた。今は夕焼けだし、小林に顔を、埋めてるからバレなかった。そこからは、他愛も無い話をした。あんまり内容は覚えてないけど、とてもとても、楽しかった。
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気付いたら、辺りは真っ暗だった。どうやら、もう、夜のようだ。
「時間が経つのは、早いねぇ」
「そうだね」
私は瞳を閉じて─また開いた。過去の清算は出来た。これで、本当に幸せになれる。なれる─筈なんだ。
「どうしたんだい?」
「…不安なんだ」
いつか、また、暗い暗い、どん底に、落とされるんじゃないか、この幸せにも、反動が来るんじゃないか。こんなにも、醜く、汚い私が、幸せになれる筈、無いんだ。
「…そう。確かに、この幸せは、いつか終わる。そう、‘’いつか‘’なんだ」
「‘’いつか‘’…」
「うん。‘’いつか‘’。だから、今じゃないんだ」
「でも…うんん。何でもない…ご飯に食べに行こ!」
ほらほら!と、小林を病棟の中に押し込んだ。
「でも…その‘’いつか‘’はすぐ来ちゃうんじゃないの?」
私はぽつりと呟いた。
「何か言ったかい?」
「うんん!」
あんなに晴れていた空は、曇天になっていた。