策士 この世に唯一つ、相容れないものがあるとするならば。
それは「生き延びること」であると思う。
そんなものに執着するから、何も見えない。良いように事を成せない。事を成さねば、何も生み出さない。そう。この身に満ちる血は何かを生きながらえさせる為にはない───何があっても替えがきくように、その威信を誇示するのみ。そんな最低限の能力もないのに、いいや、無いからこそ。「盾」としてはどこまでも有用だと言っていい。我が兄にしては珍しく、煌々と輝いてすら見える。こんなものは他ではない兄王の───晴れ舞台なのだ。
「兄上…侵攻はいかように。あとは貴方のご決断次第ですけど」
「……………」
「僕の質問が良くなかったようですね。して…いつご命令なさるおつもりで。」
「スタルーク。やはり…私は反対だ。このようなやり方で、民の不満が収まるとは思えんが」
「不満…、はぁ、不満ですか。」
「今はいい。しかし、もしもの不始末をいかように考える」
「もしも…それはいつ、どのように発生するとお思いで?」
「『もしも』だ。私の言葉が理解できないか」
「いいえ、根拠の無い話題を検討するまでもありませんから……それに。我が兄の器がしれましょう」
「…何が言いたい」
「人を『駒』とするなら、より合理的であるべきです。そうでないのに、ご機嫌取りには執心されている。果たして、天の父上に悦んで報告できることでしょうか?」
「…簡単に言ってくれるな、スタルーク。堂々と泥を被るのはこの私であるというに」
「それはお気の毒だと心得ています。私には生まれついてより、手にすることのなかった名誉ですから」
「……まあ、いい。お前のことだ。既に兵は出しているのだろう?」
「ええ、兄上のお力になれるよう、速やかに。」
「私は良い弟を持ったのだな。その献身は私を王にしてくれる」
「……ふふ、ふ。我が兄ながら情けないものですね。同じ血でもなければ、僕は貴方が大嫌いでした」
好ましいこと。
盾というのは、剣を持たない方の手で、いかようにも振りかざすことができる。幾らでも替えの効くこの体を、貴方は護ってくれる。僕の手で抑えていなければ、何をしでかすか……まるで分からないものなのに。
あまりに簡単だ、こんな戦争は。なのに邪魔だ。
俗物は俗物らしく、恥でもかいていればいい。